第7話 彼女達の実習
♢
ここで話は戻り、伊集院薫と、特別学級生徒たちの、初顔合わせの一時限目。
「じゃあ、お互いに自己紹介も済んだことだし、一旦伊集院先生は職員室で、学校案内ですね」
「あ、はい」
笑顔のまま特別学級を去ろうとしていた。
「薫ちゃーん、またね」
という声がしたのだ。
「こら、伊集院先生でしょ?」
渡辺先生の叱責が飛ぶ。
他の生徒はドッと、笑ってその光景を見ていた。
そして、伊集院薫がこの特別学級から見えなくなるのを確認した渡辺先生は、LPOS経由で各生徒から送られてきたGWの課題のプリントを立体映像で確認しながら話をした。
「みなさん、GW明けで身体も辛いと思いますが、教育実習生の方と一緒に頑張っていきましょうね。そして、この学級にいる皆さんは、数多い生徒の中から選ばれました。自分の素質を誇りに思ってもいいでしょう。」
渡辺先生は生徒五人の課題を確認し終えると、教壇に立ちながら言う。
「そして、私達人間は若い年代から数多くの知識と、実技を身に着ける必要があります。そして、その課題はもうすでに、今日から開始となりました」
クラスにいる5人は静かに、だが、担任の言葉一つ一つを聞き漏らすまいと鋭く光る視線はクラス中から放たれ、誰もが集中している。
「まず、大前提として、このゲームは”薔薇”の存在が重要であることを皆さん知ってますよね?」
「”薔薇”を摘み取るか、咲かすか。って、ことですよね??」
生徒の一人、ミューシャが言う。
「そうです。薔薇が咲けば、皆さん特別学級の負け。もし、薔薇が恋に落ちれば皆さんの勝ち・・、薔薇を摘み取ったということです。このゲームは3週間。そして、短い間だけこの教室だけ盗聴器、教室の隅に監視カメラを置いてます。貴方たちの行動は順次記録されますので、はりきって励みましょう。そして、皆が置いた、机の上にあるLPOSには合計得点とクラス内順位が更新されます。先生たちがいないときや、授業以外の時間は監視カメラを通じて見ています。この校舎のどこかにたくさんの監視カメラが映し出されたモニター室があり、そこで実技の得点が1~3段階で評価され、すぐにみんなのスマホに得点が入り、順位が夜間に順位が更新されます」
「先生、質問です」
ミューシャ・セリーヌが手をあげて言う。
「なんでしょう、ミューシャさん」
「やっちゃいけないことは何ですか?」
「禁止事項のことね。そうですね。かつての偉人が言った名言がありますが、今ご紹介しましょうか。」
担任の渡辺先生は後ろを振り向くと、すぐ傍に掛けられた大きい黒板にチョークで書いていた。
”戦争と恋愛はいかなる戦法も許される”
「と、まあ、この言葉のとうり、大体のことはポイントに加算されます」
「それじゃあ、無法地帯になりませんか?」
渡辺先生の言葉に反論の意を説いたのはこの教室で唯一の一年生美咲だった。
「ええ、そうですね。この言葉が作られた時代は、機器などない労働社会の頃の言葉でしたから。当然、弱肉強食の時代だったわけです。ですが残念なことに私達の時代では禁止事項が2つあります。皆さんに今、LPOSで送付したのでよく覚えててください。この事態になってはこの実習の意味がなくなるので」
「じゃあ、減点はないんですか?」
「一応減点もあります。それぞれに得意分野を決めてますよね?その得意分野以外のことをして成功すれば得点ゲット。失敗すれば減点となりますので注意してください」
渡辺先生はにこやかに言い続ける。
「そして薔薇となる人物の情報は皆さんが情報を集めてください」
「えー!!先生、ちょっとは情報公開してもいいんじゃないですか?」
「いいじゃない、綾。どうせ基本情報、すぐにわかる情報しか与えられないわよ」
「そうそう。結局は、私達が勝負するしかないのよ。結局は」
「ワタシ、アメリカにもいきましたけど、高級物件の人物はセキュリティーも厳重でした。学生のうちに体験できるのはいいですね!」
「いろんなことが知れるなら私はべつに・・・」
渡辺先生は笑顔を崩さずに、このクラスの生徒たちの言葉を聞いていた。
「まあ、情報を集めるのも技術を磨くことも大事なことですからね。薔薇を咲かすか、薔薇を散らすかは、3週間後の結果を楽しみしています」
そのときだった。奥の廊下の方向から、どこともなくガヤガヤと騒がしくなった。
どうやら、恒例の教育実習生達が校内案内を受けているらしい。
「皆さんは社会に出たら、仕事や一人暮らしで忙しくなります。だからこそ、この実習を有意義なものにしましょうね。さあ、”薔薇”の再登場です。みんな、花一杯の愛想よくふるまうんですよ♡」
渡辺先生は両手を叩き、生徒を鼓舞させながら言う。
「「「はーい♡」」」
そう言った直後に、事務員の女性筆頭にゾロゾロと女性の教育実習生達が列をなして教室の横にある廊下を歩いてやってきた。
それを、自分たちのターゲットである薔薇を捜す生徒たち。
そして、獲物である我らの教育実習生がやってきた。
伊集院薫先生だ。
「あ、せんせーい!!こっちみてー!」
「せんせい、早く帰って来てねー♡」
全員が愛想よく、笑顔で伊集院に手をふる。
比較的寡黙な性格の木暮美咲も恥ずかしそうに手を振って、クラスの好印象アップに貢献している。
ターゲットにされているとは微塵も思ってない様子の伊集院薫は、照れながら生徒たちのからの声に手を振って返事を返していた。
そして、教育実習生が帰ってしまうと
「皆さん、素晴らしかったですわ。この調子で頑張って、恋愛戦国時代を乗り越えてくださいね♡高級物件ならぬいい男性は、すぐに恋の市場からなくなります。20代では砂漠に咲く1滴の薔薇となるように、すぐ女ハンターに刈り取られてしまうものですから♡」
――少子化の時代。子供の数だけでなく、教養だけでなく、顔もいい、いわゆるイケメンは時代を追うごとに減少傾向だった。
そのため、はやくから幼い年齢から恋愛の技術を磨き、意中の男性をしとめることが男女とも、上流国民たちの密かな重要課題となったいた。
「この時間を持ちまして、皆さんは薔薇をしとめるハンターとして見られます。各自、おのうのがたの、魅力をだして恋に落ちるよう仕向けてくださいね♡」
「「はーい!」」
「せんせい、わたし、頑張って薫ちゃん虜にするよう頑張るー♡」
張り切るように綾が先手を切って言う。
「あの先生って、どんな人がタイプかな?」
「やっぱり、清楚系じゃない?」
「ねえ、やっぱり薔薇の好みに合わせて服装変えるのは減点にならないわよね?」
「ソレなら、小道具とかも持ってこない??手料理弁当とか」
「それは当たり前よ、常套手段よ。もっと男性をドキッとさせなきゃ!」
JKたちは椅子を寄せ合い、一気に花開くように喋りだす。
若いJK達が話し出すと、すぐには止まらなくなるものだが、幸いにも1限目というべき授業の終了となる合図、鐘が校舎内に大きく鳴り響いた。
「はいはい、皆さん、一時限終了ですよ。二限目からは伊集院先生も授業見学に参加するので、頑張ってくださいね。それじゃあ、終了の号令しましょう」
――――こうして、人生一番の若さ、美貌を武器に恋へと落とそうとする女生徒のハンター。その檻の中へ放り込まれた1匹の羊ならぬ薔薇、伊集院薫。
彼は無事に実習を終わらせることができるのか。
それとも教え子に手を出して社会的地位の地獄へと落ちるのか。
それぞれの思惑を胸に、戦いの火ぶたが切って落とされたのであった。
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