第3話 陰謀
学長である、ナンシー・森田・ミラーは静かな校長室の一室、校長の黒革に包まれた椅子で熱い紅茶を飲んでいた。
テレビから流れてくる、どこかで起こったのであろうテロや、外交ニュース、祭りの報道などが賑わしく流れているのとは違って、ここ、学長室の後ろにある大きな窓から見える景色は、全くといいほど緑化が色づき、穏やかなもの。
学長室の後ろに生えそびえてる桜は、花は散ったあとだが、すぐに新しい新芽が暖かい陽射しを受けて薄緑から濃い緑へと変化していってる。
ナンシーだけでなく、他の者たちの眼に映ってもなかなかの景色だった。
この景色を見ている間だけは、ナンシーの重くよどんだ心を明るく灯してくれていた。
だが、これも今日までであろう。こんなにも穏やかな気持ちでこの景色を見られるのも・・・・。今日からまたあのゲームが開始されるのだ・・。
(今回は、どちらが勝敗を決めるのか・・・)
学長であるナンシーはこのローズ女学園に赴任して日が浅かった。
最初、この学校の秘密を聞いたときは、
(何と馬鹿なことを・・)っと、呆れたが、周囲の話を聞くにあたり少しはアチラの言い分も理解できるものと思えた。
だが、やはり、学長として、自分はどうあるべきか、それでも悩むのだった。
打開策としての案が浮かばないまま、とうとうこの日が来てしまった。
ゲームを開始するという日が。
そう考えていると、学長室の扉を開ける音が聞こえてきた。
ナンシーは手に持っていたティーカップを机に置き振り向くと、教頭が立っていた。
「学長。用意ができました。皆様のため、集まるようお願いいたします」
そう言ってこの男は笑顔で言う。
だが、ナンシーはこの男の心は少しも笑ってないことを知っている。
だが、それは言わずに
「わかりました。行きましょう」と声をだし、教頭と共に学長室から出たのだった。
♢
静寂が漂う奥に、どんなものも無とかえる闇が漂っていた。
混沌の闇を照らす、天井から吊るされたロウソクたち。
吐く息さえもためられてしまいそうな、重い空気がこの場所を支配、制圧している。
そしてそこには、ロウソクの炎を受けて朧げにみえる、一人の男が立っていた。
そして、その男を囲むように黒い、垂れ幕がかけられた円卓が存在しており、それぞれの席に7名が静かに座っている。
「№3が来ていないが、どうする?」
「ああ、たったいま、遅れると連絡があった。今回は№3ぬきでやろう。№12、始めてくれたまえ」
一人の者が立っている者に低い、重音な声で伝える。
「わかりました。では、今から薔薇となった伊集院薫の、今後の教育実習の日程スケジュールをご紹介を致します」
№12と呼ばれた、一人の人間が円の中央に立ち、微笑を浮かべ、高らかに宣言する。
「今回の教育実習は、いつもどうり三週間を予定しており、その中で実習生は担当となった教え子たちが受けている授業を見学し、また、他の授業を見学しながら最初の一週間は、交流を中心に日々の実習を受けてもらう予定です。毎日、教育実習記録という一日の流れを書いてもらい、提出します。第二週目は実際に実習生が授業を行います。そして、最後の週は、生徒と良好な関りを保ちながらこのローズ女学院のレクレーションに参加していただき、授業以外のイベントに参加していただくことです」
そう言ったところで、誰かが手を挙手した。
「質問よろしいでしょうか?」
「おや、どうしましたか?№17」
「新参者で当たり前の質問で申し訳ないのですが、どうして、女学院の最大のレクレーションと言えるイベントにも実習生を参加させるのですか?」
「それはですね、年々授業以外にも課外授業の必要性が高まっていまして、実習生のときから課外授業も教員実習に盛り込むように今年度から必須になったのです」
「なるほど。そうなんですね。回答ありがとうございます」
声での説明は続いた。
「今回、薔薇となった伊集院薫先生には、まず初めに”●●●”こと、そして”●●●●●●”であることが大前提であることは、皆さんのご意志はお変わりないものとしてこちら学校側は認識しています」
円卓に座っている7名のうち数名は頷き、じっと説明を行う者の言葉を静かに聞いていた。
「皆さま、この大画面を見て頂きたいと思います」
№12がコツコツと歩くと、横には大きなスクリーンが出てきた。
画面から放たれる光で、スクリーン前の闇は消え、一気に明かりが増えた。
映し出されたのは、特別学級に配属された教育実習生の伊集院薫先生を中心に、周りは特別学級の生徒である五人の生徒の写真が周りを囲んでいる画面がモニターからは映し出されていた。
教壇でも使っていそうな細く白い棒をさしながら№12は話を進める。
「この絵は、資料にある写真、このゲームに参加する五人の生徒の図です。薔薇に選ばれたものが、この五人の生徒達とどういった行動を起こすか、そして最後まで生き残るのか。我々は、皆さまのため、今後の資料、データのためにもつぶさに観察、報告を行うつもりであります」
「わかった。それではいつもどうり、我々のパソコンから、ISCのプログラムで報告が入るというわけだな」
№11が言った。限られたロウソクの、薄暗い空間のなかでも、その鋭い眼光は誰からの眼にも見て取れた。
「そうです。そして、最後に残った方は、我が校長先生より、伊集院先生であれ、生徒であれ、報奨金を受け取ることができます」
薄暗い部屋の中で周囲の眼がただ一人変装もせずにこの室内にいた、学長森田・氏に注がれていた。
「わたくしが、全身全霊をかけまして今回の責任をとります」
「わかっていますよ。今回も、生徒をよろしくお願いしますよ」
そう言って、妖しく揺らめく炎は、静かに暗闇の室内を照らしていた。
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