第349話『ダミアが唸る』

せやさかい


349『ダミアが唸る』さくら    





 うちはお寺やさかい、時々お骨を預かる。


 お葬式は『ご出棺』で終わりやねんけど、喪主さんはご遺体と一緒に火葬場に行って最後のお別れをしたあと、葬儀会館、あるいはお寺に戻ってきて、お斎(みんなで食事しながら骨上げを待つ)を頂いて、二三時間して、もう一度火葬場へ。そして親類縁者でお骨上げをやって、もういっかい葬儀会館やお寺に戻ってから初七日法要。そこまで坊主(うちやったら、テイ兄ちゃんとかおっちゃん)は付き合って、喪主さんが骨箱を持ってお家に帰らはって、おしまい。


 ところが、亡くなった人が一人暮らしやったりすると、納骨までお寺に預けはることがある。


 せやさかい、テイ兄ちゃんが骨箱持って帰っても不思議には思えへんかった。


 ただね、今回は、お骨の他に、もう一つ……お人形が付いてた。




「ドールだね……」




 お骨に手を合わせたあと、詩(ことは)ちゃんが呟いた。


「ドールて、人形のことやろ?」


 そのくらいの英語は分かるいう感じで詩ちゃんに返す。


「あ、こういうタイプはドールって云うんじゃないの?」


 言うた詩ちゃんも、ようは分かってへんらしい。


「多関節人形のことだと思うよ」


 留美ちゃんが付け加える。


 フーーーー!


 なんでか、ダミアが怒って毛を逆立てよる。


「ダミアは近づけない方がいいみたい(^_^;)」


 詩ちゃんに従順なダミアは、尻尾を立てて庫裏の方へ帰って行った。


「亡くなったお婆ちゃんが大切にしてはったんやて。昼間は居間に、寝る時は枕もとに置いてはって、姉妹みたいに大事にしてはったらしい」


「そうか……別々にしたら、お婆ちゃんも人形も可哀そうやと思わはったんやね」


「まあ、納骨までには喪主さんも考えはるやろ」


 そう言うて、みんなでナマンダブを唱えて、本堂を後にしました。




 ミャーーー




 宿題も終わって、そろそろ寝よかと思てると、廊下でダミアが鳴いとる。


 いつもは、詩ちゃんの部屋に潜り込んでる時間なんで、ちょっとイレギュラー。


 廊下に出ると、詩ちゃんも出てきて、留美ちゃんと三人でダミアのあとを追いかける。


 ダミア~


 詩ちゃんが声かけても、知らん顔で本堂の方へ行きよる。


 庫裏の方から行くと、ちょうど須弥壇の裏に出る、


 チリン


 ダミアの鈴が外陣の方から聞こえる。


 本堂は、用心のためにLEDの薄明かりが点いてる。その薄明かりの中、ダミアはお座りして、小さく唸っとる。


「え?」「ちょ?」


 留美ちゃんと詩ちゃんの声が重なる。


 鈍感なわたしは、一瞬遅れて気が付いた。




 シクシクシク……シクシクシク……




 人形が泣いてるやおまへんか!?


 お寺というのは、あちらの世界とこちらの世界の狭間というところがあって、ときどき不思議なことが起こる。


 にくそい顔で唸ってるブタネコダミアも、子ネコの頃は、ちょびっと不思議なことがあったしね。


 ほら、夢にマリーアントワネット出てきたり(084『前の廊下で話声がする』)とか、佐伯さんのお婆ちゃんが亡くなったと思たら、中学生の頃の姿で出てきたり(038『佐伯さんのお婆ちゃん改め、のりちゃん』)とか、他にもお雛さんの三方( 127 『お雛さん・3』)が出てきたり、ごりょうさん(134『ごりょうさん奇談・2』 )が出てきたり。


 少々の事では驚かへんねんけども、人形が泣くのは気持ちが悪い。


 けど、みっともなくうろたえたりはせんと、三人でナマンダブを唱えて部屋に戻りました。




「ああ、あれなあ……」




 翌朝、朝ごはんの時にテイ兄ちゃんに報告すると、気楽な返事が返ってきた。


「中に音声ユニットが入ってて、センサーに感応したらリアクションしたり喋ったりするらしいで。スイッチは切ったあるはずやねんけどなぁ……まあ、何かの拍子でスイッチ入ったんやろなあ」


「そういうことは、最初に言っといてよね!」


 珍しく、詩ちゃんが食ってかかる。


 落ち着いてナマンダブを唱えてた詩ちゃんやけど、ほんまは一番ビビってたみたい(^_^;)。


 でね、今日になって分かったんやけど、人形のリアクションの中に「シクシクシク泣く」というのは無いらしい。



 ほんでから、学校で話したら頼子さんとソフィーが目を輝かせて、今度の休みには見に来ることになった!


 むろんメグリンも加わって、散策部の立派な部活になる予定です!





☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉

ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長

月島さやか     さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 


 


 

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