第350話『ラジオ体操人形の呪い』

せやさかい


350『ラジオ体操人形の呪い』さくら    





 無抵抗なまま胸までスカートがまくり上げられ、パンツが膝までずり降ろされ、裏がえしにされたかと思うと、眩しいほどに白いお尻が露わになった!


 そして、その白い双丘に、ギラギラと欲望に満ちた十個の目玉が釘付けになるのであった!



 あ、変な想像したぁ?



 実はね、ほら、テイ兄ちゃんが、お骨といっしょに預かってきたドール。


 夜な夜な、シクシクと泣く。


 センサーが、時間やら人が近づいたのを感知して、いろんな言葉を喋るんやけど『シクシク泣く』という設定は無い。


 それに興味を持った頼子先輩とソフィーがやってきて、本堂裏の旧文芸部の部室で実況見分になったという次第。


「ドールは、お尻のところにメーカー名とシリアルナンバーがあるのよ」


 ソフイーの情報部員らしい着目で、ドールのお尻をみんなで視てるわけです。


 メーカー名とシリアルが分かったら、今のご時世、ネットで検索したら一発で分かるということなんです。




 …………無い!?




 ドールのお尻は、ツルンツルンで、ナンバーも刻印もありません。


「どういうことなの!?」


 ワトソン君の勇み足を咎めるシャーロックホームズみたいに眉根を寄せる頼子さん。


「では、背中と首筋を調べます! 物によっては、こちらにある場合があるから」


 ソフィーは、ドール本体や衣装にダメージを与えないよう、器用に素早く衣装を脱がせた。


 これは!?


 イテ!


 あんまり顔を寄せたんで、うちはメグリンの頭とぶつかってしもた。


「あ、ごめん」


 メグリンは膝立ちになって、うちの頭の上から覗き込む(^_^;)。


 首筋と背中にはメーカー名があったんやけど、なんとメーカーが違う。


 背中・メーカーA  首・メーカーB  お尻・無印 


 なんや、バラバラの死体から別の体をでっち上げたフランケンシュタインみたいな……思たけど、口には出しません。


 あたしも、高校生、ちょっとは考えるようになった。中学やったらいちびって叫んでたやろけどね。


「どういうことなの、ソフィー?」


「おそらくは、三つ以上のメーカーのパーツを寄せ集めて作られたオリジナル……内部のメカもだと思う。これ以上は、本格的に分解しないと分からない」


「ああ、ちょっとそれは……」


 頼子さんがためらいの声を上げて、留美ちゃんもメグリンも詩(ことは)ちゃんも――それはそうや――とうなづく。


 あたしは分解してみたかったけどね。


「たぶん、プログラムもオリジナルだけど、これ以上は興味本位で触るべきじゃないでしょ」


 ドールの衣装を戻しながらソフィーが結論付け、ドールを元の場所に戻して、お祖父ちゃんを呼ぶ。


「気ぃすんだんか?」


「あ、はい。無理なお願いいたしました。お供養お願いします」


「よっしゃ、ほんなら、みんなで手ぇ合わせとこか」


 みんなで手を合わせて、おしまいにしました。




「あ、人形っていえば、あれがあるじゃない」


「あれ?」


「あれよ、あれ」


「あ、ああ、あれ」




 これだけで意味が通じるのは、同居の従姉やからやと思います。


 うちは、部屋に戻って懐かしい人形を持ってきました。




「クレーンゲームの景品?」


「いや、ちゃうんです!」


 詩ちゃん以外は――なんや(期待外れ)――いう顔したけど、うちの一言で顔を寄せてくる。


 フフっと笑うお祖父ちゃん。


「これは、ラジオ体操人形なんです!」


「「「ラジオ体操?」」」


 ほら、三年前の夏、テイ兄ちゃんが檀家さんから貰ってきた縫いぐるみ(041『不発の漫才いう感じで縫いぐるみをもらった』)です。


「ほら、ここを押えるとね……」


 チャンチャカチャン(^^♪ チャンチャカチャン(^^♪ チャチャチャチャチャンチャカチャン(^▽^)/


「「「「おお!」」」」


 ソフィー以外の四人が――懐かしい!――という歓声をあげる。


 日本人以上に日本慣れしたソフィーやけど、このメロディーは知らんかったみたい。


「体操みたいだけど、聞くのは初めて」


「そういえば、小学校でやったきりかも、あなたたちは?」


 ソフィーが興味を持って、詩ちゃんが水を向ける。


「あ、そういえば……」


「ラジオ体操って、まともにやったことないかも」


「自衛隊体操なら知ってるけど(^_^;)」


「なんや、いまの学校はラジオ体操せえへんのんか?」


 中学でも高校でも……いや、小学校の三年ぐらいからは、学校独自の体操で、ラジオ体操はせえへんかった。


「テンポはいいけど、どうやるのか、分からないわね」


「わたしは、全然分からない」


 ソフィーは腕を組んでしもた。


「よし、お祖父ちゃんが見本見せたろ!」


「え、お祖父ちゃん!?」


「これでも、高校で体育委員やってたんやぞ」


 そういうと、お祖父ちゃんは、本堂の真ん中で見本をやりはじめた。




 チャンチャカチャン(^^♪ チャンチャカチャン(^^♪ チャチャチャチャチャンチャカチャン(^▽^)/




 おお!




 意外な体の柔らかさに、みんな感嘆の声を上げる。


 一番を終わったお祖父ちゃんは、自分からラジオ体操人形2号のスイッチを入れて、二番に移った……




 グキ!




 最初の跳躍運動で足をグネてしもた!


「大丈夫、折れてはいません!」


 ソフィーが調べて応急措置をしてくれる。


 で、みんなが「ありがとうございました」とお礼を言うて帰った後、今度は腰が痛みだした。


「いや、ここまで歳はとってへんぞぉ!」


 お祖父ちゃんの強がりのため、この一件は『ラジオ体操人形の呪い』ということになってしまいました(^_^;)





☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉

ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長

月島さやか     さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 


 

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