第324話『初めてのお寺』

せやさかい


324『初めてのお寺』古閑巡里   





 お寺に足を踏み入れるのははじめて。



 遠足で、いくつかのお寺には行ったけど、感覚的には観光地。


 はっきり覚えているのは、鎌倉と奈良の大仏。


 そう、大仏なんだ。


 ちょっとイケメンと思ったのが鎌倉の大仏。デッカイと思ったのが奈良の大仏。


 両方とも大仏には感心したけど、お寺の名前は憶えてない。


 他のお寺とか神社は、ほとんど憶えていない。


 うん、普通の高校生なら、お寺って、そういうものだと思う。


「え、畳敷きなの?」


 さくらの説明を聞いて、ちょっとビックリ。


 奈良の大仏も鎌倉の大仏も、忘れた他のお寺も床は石葺きだったり板張りだったり。


 本堂が畳敷き、ちょっと新鮮。




――食材として生まれてきた命は無い――


 門の横の掲示板に格言が貼ってある。


 な、なるほど……ちょっとたじろいでしまう。


 自分の家に門があるだけで――すごい!――とたじろいでしまうのに、この教訓。


 お父さんの職場にも立派な門というかゲートがあってポスターとか貼ってあるけど『隊員募集』とかで、教訓めいたことが書かれてあることは無い。建物とか施設の前に立って、こんなに緊張したことは無い。


 門の横には車の出入り口があって、見覚えのある青色ナンバーの車がお尻を向けている。


 先輩は、もう来てるんだ。


 門に踏み込んで、視界の端にインタホンが目に留まる。


 二歩戻って、インタホンを押す……………………手ごたえがない。


 普通の家は、屋内のインタホンが『ピンポ~~ン』とか鳴るのが聞こえたり『はい』とか返事が返って来る。


 ひょっとして電源入ってない?


 もう一回押してみようか、それとも、ここから呼びかけようか?


 呼びかけるとしたら……母屋っていうんだろうか、お寺の人が住んでる住居部分までは、プールの端から端までくらいある。かなり大きな声を出さないと、声届かないよ。


 そうだ、スマホで!


 スマホを出そうと、リュックを外したところでインタホンから声がする。


『そのまま本堂から上がって! 迎えに行くから!』


 元気のいいさくらの声。


「うん、分かった!」


 思わず大きな声出してしまって、境内に足を踏み入れる。


 本堂の前には階段。


 え、どこで靴脱ぐんだろ?


 奈良の大仏は、中まで土足だったし……本堂は畳敷きって言ってたから、靴は脱がなくちゃならないんだろうけど、階段の下? 上がったところ?


 フニャァァァァァ


 迷っていると、足もとで鳴き声がしてビックリ!!


 ウワアアアアアアアア!


 これは化け物かというくらいの猫が足もとにいる!


「ちょ、どないしたん!?」


 本堂の入り口が開いて、さくらが顔を出す。


「え、あ、アハハハ、猫にビックリしちゃってぇ」


「ダミア、こっちおいで!」


 フニャ


 化け猫は、スタスタと階段を上がって本堂の中に入ってしまう。


 続いて上がろうとしたら「靴は脱いでぇ」とさくらに注意される。


「上がったとこに下駄箱あるさかい、ここに入れといて」


 よく見ると、階段の横に注意書き『お履き物は、お脱ぎになって、階段上の下足箱に入れてください』とある。



 今日は、ヤマセンブルグ行を一週間後に控えて、メンバーで打合せ。


 打合せの中身よりも、お寺初体験の方がおもしろかったメグリでした(^_^;)





☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

月島さやか     さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

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