第325話『旅の始まり』

せやさかい


325『旅の始まり』さくら   





 もう三年もたってしもたんが嘘みたい。



 関空の国際線ロビーは、三年前と変わりはない。というか、鈍感なあたしは少々の変化には気ぃつかへんのかもしれへん。


「あちこち、コロナの注意書きがあるねぇ……」


 留美ちゃんは目をグリグリ回して違いに気ぃついてる。


「そうね、もう、マスクとか消毒とかが当たり前になっちゃったものね……」


 詩ちゃんは、ウェストポーチの中身をチェックしながらの感想。


「みなさん、ドリンク類は飲み干しておきましょう!」


 そう宣言すると、飲み残しのスポーツドリンクをグビグビ飲むメグリン。


「そうだね、液体は機内に持ち込めないもんね」


 みんなより、首一つ高いせえもあって、いまのメグリンを動画にしたらスポーツドリンクのCMに使えそう。


「飲み終えたら、ここに入れて、まとめてほりに行って来る(^▽^)」


 ニコニコ笑顔でレジ袋を広げてるのはテイ兄ちゃん。うちらを関空まで送ってくれたんやけど、目当ては頼子さん。


 このエロ坊主は頼子さんが中三やったころからのファンで、頼子さんが居てるとデレデレ。


「来週に入ったら盆のお参りで来られへんとこやった(^▽^)。まさかヤマセンブルグまで付いていくわけにもいかへんし、ほんま、今朝の出発でよかったなあ(^#▽#^)」


「嬉しいのは分かるけど、坊主のナリでにやけんといてくれる」


 テイ兄ちゃんのにやけっぷりは、そのうち本山か仏教会からクレームがくるにちがいない。


「おはよう、みんな!」


「「「「キャ」」」」


 いきなり声を掛けられたんで、四人ともビックリ。


 エロ坊主に呆れてると、不意に後ろから頼子さん。


「揃ってるわね、行こうか!」


 添乗のオネエサンのテンションの笑顔。この笑顔を見られへんのは、ちょっと可哀そうと、人ごみの向こうに行ったテイ兄ちゃんに目を向ける。


「ちょっとだけ待ってやってくれる、兄がゴミ捨てに行ってるから」


 にくていは言うても、やっぱり兄妹。詩ちゃんは優しい。


「頼子さーーーん!」


 アホが妹の優しさを踏みにじるような大声上げて走ってきよる。詩ちゃんも「いまのん取り消し!」いうような顔で睨んでる。


《わあ、テイ兄ちゃん!》


 マスクの下からやけど、頼子さんは、きちんと喜んで声を上げてくれます。


 ほんまに、ようできた先輩です。


「写真撮りましょ!」


 クス坊主でも、搭乗まで時間がないことを承知して、結論を言う。


「いいですよ(^▽^)」


 シャッターを押す瞬間だけ息を止めてマスクをとる。


 そうやって、ツーショットと全員の写真を撮って、いよいよ出国ゲートへ向かう。


「えと、ソフィー先輩は?」


 ゲートの手前でメグリンが立ち止まる。


「もう乗ってるわ」


 え、なんで?


 思いながらも流れにのって出国ゲート。


 一般のゲートと違って、VIPのゲート。


 そう、三年前と同じくヤマセンブルグの専用機で行くんです。


 頼子さんはヤマセンブルグの王位継承者。先月は奈良で不幸な事件もあったし、今度は大事をとった旅行になるんやそうです。飛行機も航路も三年前とはちゃうんやそうです。


「いってらっしゃーーい!」


 テイ兄ちゃんのアホ丸出しの見送りにも、これが最後とお愛想の手を振り返してやる。


 カルロス・ゴーンの一件で、三年前よりもきついセキュリティーやったけど、スイスイとプライベート機専用の駐機場へ。


 四機ほど並んでる中に、一つだけプロペラの付いてる飛行機……え、あれに乗るのん?


 シャトルバスが近づくと、前のドアから、男女の軍人さんが下りてきて敬礼してる。


「お馴染みさんだから、気楽にね……」


 頼子さんに続いてバスを降りる。


「操縦士は、三年前と同じジョン・スミス」


「ジョン・スミス大佐であります、殿下」


「昇進おめでとう、今度は長旅だけど、よろしく」


「こちらこそ、諸事情で旧式機ですが、ゆったり過ごしていただけるように心がけております」


「ありがとう……」


 次の女性将校に視線がいって、ぶったまげた!


「副操縦士を務めます。ソフィア少尉であります!」


「「「「えええ!?」」」」


 

 ビックリした!




 ビシッと敬礼した軍服姿は、目深に被った制帽で分からへんかったけど、うちらのお仲間のソフィーやおまへんか!


「この飛行は、ソフィー少尉の副操縦士の試験も兼ねております。よろしく願います」


「よ、よろしく(#-_-#)」


 頬こそ赤くしてるけど、軍服に身を包んだ姿は攻〇機動隊の少佐みたいや!


 七段のタラップを上がると、もう一人の軍服さん。 


「機内のお世話をさせていただきます……」


「あ、メグさん!?」


 三年前は副操縦士をやっていたマーガレットさんだ。


 シートに着いてから頼子さんに聞くと、メグさんは予備役から復帰したそうで、軍用のプロペラ飛行機(中は前のと同じくらいきれい)やし、世界は、うちらが思てるよりはシビアなんかもしれへん。


 それは置いといて、三年ぶりの大旅行が始まった!


 ブイーーーーーーン


 プロペラの双発機は、夏真っ盛りの大阪湾の空に舞い上がった……


 


 

☆・・主な登場人物・・☆


酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生

酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。

酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居

酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父

酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる

酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生

酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 

榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 

夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生

ソフィー      頼子のガード

月島さやか     さくらの担任の先生

古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン


 


 

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