第290話『捨てられへん!』

せやさかい


290『捨てられへん!』   





 はあ~~~~~~~~~



 万感の思いが溢れてため息になる。


 今日で、まる三年。


 お母さんと如来寺に引っ越してきて、苗字が変わって、安泰中学に入って、その卒業式も終わって。


 去年からは、留美ちゃんもいっしょに暮らすようになって。


 それが、見える形で目の前にある。


 ああ、感無量。



「思いに浸るのはいいけど、ほとんどさくらのだからね!」



 うう、怒られた。


 怒ってるのは、従姉妹の詩ちゃん。留美ちゃんは困った顔で笑ってる。


「これってさ、わが酒井家の男の血だわよ」


「え、酒井家の男?」


 言われて、なるほどと思う。テイ兄ちゃんもお祖父ちゃんもガラクタが多い。


 あたしは、ものが捨てられへん性質。あたしは男か!?


 こないだ、お片付けしたばっかりやねんけど、高校生活を目前にして、ここんとこ部屋のモデルチェンジ。


「でも、さくらの持ち物って、もらった物が多いですよ」


「せやろ、道歩いてたら近所の人らが『やあ、お寺のさくらちゃんやんかあ』言うて、いろいろくれるさかいに……」


 今まで、人に紹介せえへんかったけど、うちの(正しくは、うちと留美ちゃんの)部屋は、貰い物がいろいある。


 サイドデスク  ロッカー  飾り棚  洋裁のトルソー  ミシン  オーディオ一式  特大のバービー人形


 貯金箱いろいろ(中身は入ってへん) イーゼル  タコ焼き機  ゲーム機あれこれ  液タブ  エトセトラ



 最初はね、婦人部長の田中のお婆ちゃんに「ちょっと机が狭いねん」と愚痴をこぼしたら、近所の人が新品同然のサイドデスクよかったら……いう話を持ってきてくれて、それから、なにかにつけて「さくらちゃん、これどないや?」「これもどうぞ」「あれもどうぞ」ってなことで、今に至ってるわけですわ。


 詩ちゃんも気ぃつかってくれて、お互いさまというかたちで、ちょっとしたもの(ティッシュの買い置きやら、プリンターのインクやら……)あんまり嵩の大きないやつを、うちの部屋に持ち込んでた。


 でもね、高校に入ったら家庭科がんばろ思て、トルソーとミシンを出したのが始まりで、ほんなら、美術のために液タブを。創作意欲が湧くようにオーディオを設置して……てな具合にやってたら収拾がつかんようになってしもた。


「今まで、留美ちゃんが整理してくれてたのよねえ……」


「あははは……」


「今週の土曜は不用品の回収日だから、ちょっと選択して、処分するもの選んでみたら」


「せやねえ」


「ヨッコイショ……と」


 散乱する色々を跨いで、とりあえず奥の方から品定めする詩ちゃん。


「あ、手伝います」


 留美ちゃんも、タブレット持って詩ちゃんの後に従う。


「なんで、タブレット?」


「あ、一応、頂いた時のことを記録してあるんです」


「え、いつの間に!?」


「これって、一種の御喜捨でしょ。うちはお寺だし、そういうことはキチンとって思うのですよ」


「「えらい!」」


「さくらが言うな」


「ですよねえ(^_^;)」


「ああ、タグ付けしてあるのね」


「ええ、クリックしたらいろいろ分かるんや!」


「ええとね……サイドデスクは……アメリカ製……新品だと1300ドル!?」


「1300ドルて?」


「13万円くらい?」


「いえ、いまは円安……1ドル120円くらうだから……15万6000円です」


「アハハ……でも、中古やさかい(^_^;)」


「待ってくださいね……○○ファニチャーの……1995年製……え?」


「なんぼ?」


 留美ちゃんは答え言わんと、そのまんまタブレットを示した。


「「2200ドル!?」」


 うう……捨てられません。


「バービー人形は?」


「……24000円」


「トルソーは?」


「……フランス製、中古で42000円」


 てな具合で、みんなけっこうなお品ばっかりです。



 ……………しばしの沈黙。



「仕方ないですねえ、取りあえず、足の踏み場を確保して、晩御飯食べたら考えましょう」


 留美ちゃんが暫定案を出して、しばし執行猶予。



 晩ご飯食べながら思いついた。


 今日の留美ちゃんは、ずっと敬語っぽい。


 で、思い出した。


 留美ちゃんは、腹が立つと言葉が丁寧になる子ぉやった!



 ああ、ナマンダブ ナマンダブ……

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