第266話『夜中に目が覚めて……』

せやさかい・266


『夜中に目が覚めて……』さくら     





 さっぶううううううう!


 廊下に出たとたんに体の5%くらい縮んでしまう。そんなことがリアルに思えるくらいに寒い!


 

 この家には95%満足してる。


 お寺やさかいに、敷地は300坪を超えるし、本堂はもちろん、家族が済む住居部分も、お屋敷かいうくらいに広い。


 その広い住居部分の二階に、うちら女子の部屋がある。


 詩(ことは)ちゃん  あたし(さくら)と留美ちゃん


 他にも空き部屋があるねんけど、留美ちゃんは「さくらと同室がいい」というので、八畳の部屋にベッドと机を二つずつ置いて共同生活。


 そんな遠慮せんでもぉ。


 お祖父ちゃんもおっちゃんも「もし遠慮してんねんやったら、いつでも留美ちゃん専用の部屋用意するで」と言ってくれてる。


 せやけど、半年いっしょに居てて、よう分かった。


 留美ちゃんは、ほんまに、うちと同室なんがええねんや(^▽^)。



 で、廊下に出て、あたしも思った。



 二人で居てると、ほんまに温い。


 ときどき、詩ちゃんの部屋にも行くんやけど、同じ間取りやのに詩ちゃんの部屋は、ちょびっと寒い。


 やっぱり、二人で居てるのんは、それだけで温いんや。



 で、いま5%ほど縮む感じで寒いのは、トイレに行くため。


 部屋に不満はないねんけど、トイレが階段下りた一階にしかないのんは、数少ない不満。


 夜中にトイレにいくことは、めったにないねんけど、夕べは詩ちゃんと三人でパジャマパーティーみたいになってしもて、ちょっとあれこれ飲み過ぎた。


 それでも、留美ちゃんも詩ちゃんもトイレに起きた気配が無い。


 やっぱり、女子のたしなみやねんやろね、二人ともえらい。


 将来就職して稼げるようになったら、二階にトイレ作ろ!


 

 そう、決心して『ありのままの~♪』とアナ雪の歌を口ずさんで用を足す。



 そのまま『ありのままの~(^^♪』と開放感にしたって、お茶を飲むためにリビングへ……


「あれ?」


 テイ兄ちゃんが、テーブルに湯呑置いて、タブレット見てる。


「どないしたん?」


「ああ……」


 生返事なんで、横に座ってタブレットを覗き込む。



 え、なに?



 ネットのニュースに『神田沙也加転落死』のニュース。


 中国の新聞みたいに漢字ばっかりの見出しなんで、アホのうちは、理解すんのに数秒かかった。


「え、アナが死んだ!?」


「声大きい!」


「せやかて!」


 たった今まで『ありのままの~』を口ずさんでたんで、ちょービックリ!


「事故か…………か分からんけどな、ちょっとショックやなあ」


 すると、階段の方から人の気配。


 留美ちゃんと詩ちゃんも、パジャマの上にカーディガンとかひっかけて降りて来た。


「ほら、起こしてしもたやろがぁ」


「ああ、かんにん(^_^;)」


「ううん、おトイレにいきたくて……」


「え、神田沙也加……亡くなったの!?」


 三人で、テイ兄ちゃんごとタブレットを取り囲む。


 さすがに、二人とも、うちみたいに声はたてへんけどビックリしてる。



 一夜明けて、日曜の朝。


 みんな、朝ごはん食べ終わってもリビングに居続けでテレビのニュースを見てる。


 そして。


 今朝のテイ兄ちゃんのお経は、いつもよりも長かった。


 

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