第244話『お祖父ちゃんのキャベツ焼き』

せやさかい・244


『お祖父ちゃんのキャベツ焼き』さくら      






 キャベツ焼き


①:薄力粉を水溶きしたのを丸く焼いて、その上に千切りキャベツ、その上に水溶き薄力粉。


②:横っちょで卵焼いて、すぐに①を載せる。


➂:焼き上がったら、お好み焼きソース&マヨネーズ&削り節かけて出来上がり。


 お好み焼き


①:水溶き薄力粉+おろし山芋+出汁+卵+キャベツのみじん切りをカップかボールの中でかき混ぜる。


②:焼いて、その上に豚のバラ肉、イカなどをトッピング。


➂:二度ほどひっくり返して、焼けたら、お好み焼きソース&マヨネーズ&鰹節・青海苔をかける。




 両者の違いは歴然、お好み焼きはゴージャスや(〃艸〃)ムフッ。


 

「でも、広島のお好み焼きは、途中まではキャベツ焼きに似てるよ」

「え、ほんま?」

「うん、ほら、こんなだよ……」


 詩(ことは)ちゃんがタブレットを見せてくれる。


「うう、たしかに……」


 豚バラやら、イカやらエビやら、とろろ昆布やら、一杯乗せて、なんやら超ゴージャスなキャベツ焼きみたい。横っちょで焼きそば焼いて、卵も焼いて、最後に「エイヤ!」っと、ゴージャスキャベツ焼きを載せる。


「推測だけど、広島焼きをシンプルにして、子どものお小遣いでも気楽に食べられるようにしたのがキャベツ焼きじゃないかなあ?」


 食文化史的な考察を加える留美ちゃん。


「そうかもしれませんねえ、もんじゃ焼きだって、元々は駄菓子屋で子ども相手に作っていたのが原型だって言いますからね」


「もんじゃ焼きて、食べたことない」

「今度、東京に行く機会があったら食べよう!」


「「「おお!」」」


 女子三人、お台所で盛り上がる。


 その横で、お祖父ちゃんが不器用な手つきでキャベツを刻んで……やっと、必要量を切り終った。



「さて、ここからや!」



 常識では、ここで薄力粉を水溶きにする……お祖父ちゃんは、スーパーで「袋おくれぇ」と言ってもらった、なんちゅうのん? 魚やら肉やらを入れる半透明の袋、それにキャベツの刻んだんと、大サジ二杯の片栗粉ををぶち込んで、シャカシャカと振り出した。



 シャカシャカシャカ


 ちょっとボケてきた?



 これは唐揚げの作り方や。


 留美ちゃんも詩ちゃんも、同じ気持ちのようで、ちょっと言葉が無い。


「お祖父ちゃん、キャベツ焼きだよね?」


 詩ちゃんが、ちょっとビビりながら、でも、最年長者の責任をかみしめながら聞いた。


「せや、まあ、見とれ……」 


 キャベツがまんべんなく粉まみれになったことを確認すると、フライパンに油をひいて焼きだした。


 ちょっと、これは……。


 粉まみれの千切りキャベツ運命やいかに!?


 いちおう丸くまとめられてはいるけども、水分ゼロの千切りキャベツ。


 うちらは、真っ黒な針金の固まりみたいになったのを想像した。


 これがテイ兄ちゃんやったら、メチャクチャ言うてバカにしてる。


「よし!」


 お祖父ちゃんは、気合いを入れてフライ返し!


 息を飲む!


 生焼けの千切りキャベツが、フライパンの丸みに沿って一回転! 


 バラバラに飛び散ったらどないしょ……情けないけど、ちょっと腰がういてしもた。


 詩ちゃんは身をのけぞらし、留美ちゃんは、健気にも雑巾を手にした!


 ペシャ


 浄土真宗いうのは、比叡山のボンサンみたいな修業はせえへん。


 せやけど、いまのお祖父ちゃんは、武蔵坊弁慶というか、少林寺のカンフー坊主というか、修業を積んだえらい坊主に見えた!


 千切りキャベツは、バラバラに崩壊することもなく、裏返ってフライパンに収まった!


 ジュ~ジュ~……


 ちょこっと油を足すと、千切りキャベツは小気味いい音をさせて……美味しそうに焼けた!


 待つこと二分。


「よし、頃合いや!」


 へらで掬い取られて、お皿に乗せられた千切りキャベツは、見事にまとまって、立派なキャベツ焼きに変身してた!


 試食すると、縁のとこなんかパリパリの食感で、けっこうイケました。




 みんなで後片付けして、気が付くと、雨が台所の窓ガラスを叩きはじめる。


 今年は、夏の終わりごろから雨ばっかり。


 せやけど、その分、秋の訪れは駆け足かもね……。


 

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