第243話『敬老の日には間があるけど』

せやさかい・243


『敬老の日には間があるけど』さくら      






 懐かしいなあ……




 テレビを観てたお祖父ちゃんが呟いた。


 お祖父ちゃんは、半分引退した坊主なんで、昼間はリビングに居てることが多い。


「人が来はったら出やすいからなあ」


 というのが理由(言い訳)


 たしかに、おばちゃんは二つ奥の台所とか、家のあちこちで用事してることが多いから、場合によってはお客さんがあっても気ぃつけへんことがある。


「再配達になったら悪いしなあ」


 これも頷ける。


 郵便屋さんとか宅配が来ても、ピンポ~ンが聞こえへんかったら留守と間違われて再配達になることがあるからね。




 せやけど、お祖父ちゃんがリビングに居てるわけは……人恋しいからやと思う( ^ิ艸^ิ゚)。




 リビングと、その前の廊下は、うちでいちばん人通りが多い。


 家のみんなも、用事が無かったらリビングに来る傾向があるしね。


 リビングには80インチのテレビとかがあって、ぼんやり座ってるのにうってつけ。


 部屋にテレビがあったら、取りあえずテレビに向かって座ってみる。そんなことてあれへんやろか?


「それはね、ソファーとか、テレビを観やすいように配置してあるからよ」


 留美ちゃんの指摘は鋭い。


「まあ、お祖父ちゃんにしたら、取りあえずテレビの前に座ってたらかっこつくからだろうね」


 詩(ことは)ちゃんは分析する。


「真っ黒なままの画面見てたら認知症の兆候やぞ」


 テイ兄ちゃんは、面白がってる。


 そんなん当たり前やんか……と思たら、おっちゃんもおばちゃんも、時々お祖父ちゃんが見てるテレビの画面をチラ見して、真っ黒になってないことをチェック。


 で、お祖父ちゃんの観てるのは、おおかたユーチューブ。


「おじいさん若いわねえ」


 留美ちゃんは感心する。


「なんでぇ?」


「だって、普通のお年寄りは、漫然とワイドショーとか観てるっていうわよ」


「そうそう、だから日本の年よりは情弱っていうね」


 あたしは、テイ兄ちゃんがユーチューブを観易い設定にしてるからやと思う。


 ちなみに、お祖父ちゃんの部屋のテレビではユーチューブは見られへん。


「でも、あれって、お好み焼きじゃないの?」


 画面に映っているものをチラ見して、留美ちゃんが指摘。


 確かにフライパンの中でジュージュー焼けてるのはお好み焼きっぽい。


「だよね……ボールの中にキャベツと小麦粉を溶いたものが入ってて、かき混ぜて、ジュワッと焼いて……あれ、トッピングが無いよ」


「ブタタマの豚抜き?」


「いや、卵も入ってないみたいやし」


「ブタタマの豚卵抜き?」


「ただの『焼き』や」


 ウプ(〃艸〃)!


 留美ちゃんと詩ちゃんが吹き出す。


「キャベツ焼き作ろか(ˊωˋ*)!」


 お祖父ちゃんが振り返る。どうやら、聞こえてたらしい。


 うちらは、リビングの隣の茶の間で進路希望調査票を前に、あれこれ相談してたとこ。


 そのうち、お祖父ちゃん観てる方が面白なってきて、手がお留守になってたわけです。




 で、お祖父ちゃんは娘三人を引き連れてスーパーへ。


 通り過がりのオッサンらが、なんや羨ましそうな目つきで見ていきよる。


 まあ、敬老の日には間があるけど、お祖父ちゃん孝行の土曜日です(^▽^)。


 お好み焼きとキャベツ焼きの違いは、次回に回します。


 

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