第242話『臨時の学年集会』

せやさかい・242


『臨時の学年集会』さくら      






 オリンピックが終わったと思たらパラリンピックも終わってしもた。



 パラリンピックは、ほとんど見てへん。


 開会式と閉会式をネットで、あとは、リビングのテレビに映ってたのをチラ見した程度。


 その瞬間瞬間は感動もしたんやけど、大きなニュースが重なって、オリンピックほどには見れてません。


 


 菅首相が次の総裁選挙には出えへんこと。




 くしくも、一年の時の担任と同じ苗字。陰では菅ちゃんと呼んでた。


 無神経で、気のきかん担任やったけど、お母さんの介護とかでは、妹さんとぶつかったりして苦労してた。


 たまたま、家のお使いで阿倍野に行った時に、妹さんと揉めてるとこ見てしもて、見直したん半分、やっぱり不器用な人やと思たん半分。


 菅ちゃんと違って、菅首相はやることはやったと思う。


 ワクチンをいち早く確保して、接種回数は1億2000万を超えた。10月ごろには、アメリカやEUを抜いて、世界でもトップの接種率になるらしい(未だに接種してないあたしは……という問題はあんねんけど)


 スマホ料金引き下げた。不妊治療の保険適用を実現した。福島の処理水を解決(海に放流やったっけ?)


 オリンピックとパラリンピックもやり遂げた。


 なんで、テレビとかでは菅ちゃん以上のダメ男みたいに言うんやろ。




 あと、内親王さんのこととか、アフガニスタンのこととか、女子高生が殺されたこととか……これは、頼子さんのメールも大きい。


 うちと留美ちゃんが、ちょっと中学生離れしたとこがあるのんは頼子さんの影響やと思う。


 せや、頼子さんとこ(真理愛学院)は、二年生が学年閉鎖。むろん、コロナが原因。




 ペシペシ!




 頬っぺた叩いて、正気に戻る。


 クソ、瀬田と目ぇ合うてしもた。


 瀬田いうのんは、一年からの腐れ縁男子。


 同じ一年からいっしょでも、留美ちゃんは『運命の友』瀬田は『腐れ縁』です。


 気を取り直して六時間目の国語を机の上に出す。



 ピンポンパーン



―― 三年生に伝えます。三年生は、臨時の学年集会をやりますので、至急体育館に集まってください。繰り返します…… —―



 学年主任の春日先生の声が黒板の上のスピーカーから響く。


―― なんだろうね? ――


 留美ちゃんが、目ぇだけで聞いてくる。


「いま、放送あった通り学年集会です、直に体育館! 急いで!」


 ペコちゃん先生が、直に言いに来る。


 念がいってる。グズグズするやつとか、信じられへんけど放送聞いてへんやつとかおるもんね。「え、なんで?」とか聞き返しとる瀬田とかね。


 菅ちゃんは、こういう気の回らん人やった。


 ああ、もう、元担任の事は忘れよ。




 ざわつきながらも、二分ほどで落ち着いた体育館。




 一昨日ごろから涼しなってきたとは言え、三年全員が入って、冷房のない体育館は、やっぱ暑い。


 壇上に春日先生。各担任の先生がクラスの前に立って、ようやく、学年集会。


 ピーーーーーーーン


 マイクとスピーカーがハウリング。


 春日先生が、落ち着いた様子で放送係りの先生に合図すると、マイクはようやく正常になって、春日先生が口を開いた。


『結論から言います。三年生の修学旅行は中止に決まりました』


 思いのほか、反応が無い。


 かねて、噂はあったしね。


 このコロナの状況では、しゃあない。



 しゃあないねんけど、後の話は、ちょっとも頭に入ってこーへんかった。



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