第234話『寝る前に水を飲みに行く』

せやさかい・234


『寝る前に水を飲みに行く』さくら     






 もう半年になる。




 なにが半年かというと、留美ちゃんがいっしょに暮らすようになって。


 留美ちゃんの苗字『榊原』を書き加えた表札も、山門の古色に馴染んできた。


 コロナがずっと続いてることで、留美ちゃんが家に居てる時間も長くなって、並みの一年を半年で過ごした感じ。


 詩(ことは)ちゃんは、うちのことは「さくら」て呼び捨て。


 留美ちゃのことは「留美ちゃん」と呼ぶ。


 最初は「榊原さん」やったから、かなりの進歩。




「うちも、ここに来たころは『さくらちゃん』やった」


「え、そうなんだ。昔から呼び捨てだと思ってた」


「従姉妹っちゅうのは、半分他人みたいなもんやさかいねえ」


「そうなの?」


「うん、異性の従兄妹同士やったら結婚かてできるからねえ」


「フフ(* ´艸`)」


 お布団を目の下まで引き上げて笑う留美ちゃん。


「どないしたん?」


「テイ兄さんとさくらちゃんが結婚するの想像した」


「それはありえへん!」


 変態坊主は願い下げです!


「いや、まあ、そういう距離やいうことです」


「そうね……よいしょっと」


 話が終わると、いったん起き上がる留美ちゃん。


 小さいころからの習慣で、寝る前はトイレにいく留美ちゃん。


 いっしょに住むようになったころは、嬉しいから連れションもしたけど、今はせえへん。




 プ~~~




 その代わり、オナラをしとく。


 親友とはいえ、オナラ聞かれるのは、ちょっと恥ずかしい(^_^;)。


 まあ、これが、今の留美ちゃんとうちの距離。


 寝返りを打つ。




 ウ……くさい(;'∀')。




 慌てて、布団をバサバサ。


 それでも臭うので、ドアを開ける。


「あら、起きるの?」


 ちょうど部屋から出てきた詩ちゃんと鉢合わせ。


「あ、ちょっと水飲も思て(^_^;)」


「わたしはお茶」


 開いてるドアからは、まだ灯りの付いてる机が見える。


 えらいなあ、まだ勉強してるんや。


 感心したのは言わへん。詩ちゃんは、褒められるのが苦手。


 キッチンで麦茶をいただく。


「よう降るねえ……」


「ほんと、梅雨みたい」


 雨がうっとうしいという感想を言うただけで部屋に戻ろうとする。


「お、ちょうどええ」


 変態坊主が段ボール箱を抱えてやってくる。


「なに、それ?」


「檀家さんから空気清浄機もろたんやけどな、お祖父ちゃんとこも、お父さんらとこもあるしなあ、自分らとこで使わへんか?」


「「ああ」」


 返事がガチンコしてしまう。


「さくらの部屋で使いなよ」


「詩ちゃんとここそ」


 遅まで勉強してる人が使うべき……というのは言い訳。


 空気清浄機いうのは、オナラしても反応しよる。




 まあ、夜も遅いんで、女子三人で話し合ういうことで、お休みなさい(^_^;)。


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