第231話『ウッ……クソババア』

せやさかい・231


『ウッ……クソババア』頼子     







 そうだったんですね……




 ソフィーが感無量という顔をしている。


 原因はさくらのメール。


 ほら、一昨日散歩してて神社の前で見つけたコンクリート製のなぞの二本柱。


―― ペコちゃん先生の実家が神社で、同じものがあったんです! ――


 添付された写真には、同じような二本柱が写っているんだけど、こちらは『皇紀ニ千六百年記念』の文字が彫り込まれている。


「日本は、西暦とは別の皇室の年紀があるんです。神武天皇の即位を元年として数えて、昭和15年が2600年で、各地で記念行事が行われました。これは、その時に作られたフラッグポールなんですねえ……」


 分かってしまうと、ソフィーの方が理解が早い。


「戦後は、迷信だとか、コーコクシカン……ちょっと待ってください」


 スマホを出すと、五秒で検索して『皇国史観』という単語を見せてくれた。


「天皇中心の歴史観はNGで、2600年関連の記念物の多くは壊された……その名残なんですね」


「そうか、昔は、神社の前に日の丸が掲揚されていたんだね」


 二本柱には、よく見ると、上下に二つの穴が開いている。


「コンクリートのは支柱なんですね、間に本柱を立てて、ボルトかなんかで固定してあったんですよ」


「なるほど……イザとなったら、本柱を調達してきて、エイヤって立てて、ボルトで締めたら復活ってわけなのね」


 調べてみると、本柱を立てる仕様ではなく、一本の石碑で出来ているものもあって、文字も彫られているもの無地のものといろいろ。文字を彫ってあるものも『紀元二千六百年』のほかにも『国威発揚』というのもあって、規格化されていたというわけでもないようだ。


「では、この横の鉄骨は?」


「そうだよ……」


 さくらのメールには宿題が付いている。二本柱の横の鉄骨は、なんだろう?


 こちらの神社には無かったし。


「まあ、散歩と検索でボチボチ調べようか」


「ペコちゃん先生というのは、どんな方なんでしょう?」


「あ、ああ……」


 たぶん担任の先生、ニックネームなんだろうけど、わたしの記憶には無い。


 おそらくは、わたしが卒業してから来られた先生なんだろう。さくらは、おっちょこちょいだから、そんなこと忘れて打ってきたんだ。


「ペコちゃんて、不二家のマスコットですよね」


「よし、聞いてみよう」


 鉄骨はまだ分からないけど、ペコちゃん先生のことを教えなさいとメールを打つ。


―― そうでした(^_^;)、頼子さんが卒業してから鉄筋してきた先生で、わたしらの担任でーす! ――


 打ち間違いのメールとともに、写真が送られてきた。


「「なるほど!」」


 納得した。


 笑うと、ちょっとつり上がったカマボコみたいになる目。口の端っこにチョロッと覗く可愛らしい舌。


 ペコちゃんをリアルにしたら、こうなるというプリティーな顔だ。




「殿下、差し入れです」




 領事がケーキの箱をぶら下げてやってきた。


 月に二三度、出張の帰りとかにスィーツを買ってきてくれる。御機嫌伺なんだけど、直に話をして、わたしの健康状態や心もちをチェックしているんだ。なんせ、ヤマセンブルグの第一皇位継承者を預かっているんだ、気は使うよね(^_^;)


「おお、○○ホテルのショートケーキ!」


 ソフィーの目がへの字になる。


 梅雨みたいなお天気の話から入って、日本とヤマセンブルグのコロナの状況、中国の情勢、パラリンピックの見通しとかをサラリと語ってくれる。


 これって、王女としての一般教養の勉強をさりげなくやってるんだと思う。


 いやはや……。


「そうそう、ダイアナ妃の結婚式のウェディングケーキが1300ポンドで落札されたそうですよ」


「え、ウェディングケーキが残っていたの?」


「あんな、大きなもの」


「いや、ソフィー、式が終わって配られるカットしたやつだよ」


「もう、40年も昔の事でしょ!?」


「なんでも、ラップに包んで缶の中に保存していたそうですよ……ほら、これです」


 見せてくれたタブレットには、王家の紋章も鮮やかにラップ保存された四角いケーキ。


「1300ポンドてことは……」


「約、28万円です殿下!」


 ソフィーは計算も早い。


「女王陛下は、まだご存知ではないと思います。メールして驚かしてさしあげてはどうでしょ」


「あ、それ、いいわね!」


 お祖母ちゃんも、こういうことにはミーハーだ。わたしが先に知ったら、きっと悔しがる。


 エヘヘ


 30秒で作って写真を添付する。


 29秒で返事が返ってきた。


―― ミナコの時は1000個は作ってオークションにかけて一儲け(^▽^)! ――




 ウッ……クソババア。



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