第230話『頼子さんのメール 先生のline』

せやさかい・230


『頼子さんのメール 先生のline』さくら     







 なんやろなあ……?




 さっきからスマホとにらめっこ。


「う~~~ん」


 留美ちゃんも、つきあいで唸ってる。


「つきあいじゃないわよ、分からないのは悔しいじゃない」


 ベッドの端に向かい合って腰かけて、かれこれ五分たってる。


 


 昼頃に頼子さんからメールがきて、その添付写真に頭を悩ませてるんです。




 頼子さんの散歩コースにある神社の鳥居の横、コンクリートの土台の上に子どもの背丈ほどの石柱が二本、寄り添うようにして立ってる。


「一本だけやったら、墓石みたいに見えるんやけど……」


「神社の前に墓石ってありえないし……」


「ソフィーて、目の付け所がちゃうねえ」


 ガードに付いてるソフィーが発見して、主従で悩んでるそうや。


 あ、主従いう言い方は頼子さん嫌いやねんけど、ソフィーは気に入ってるし、はたから見てると、ソフィーは一人で水戸黄門の介さん・角さんをやってるようなとこがある。


「記念碑とか、由緒書きみたいなのが、神社とかの前にはあるよね」


「うん」


 堺の神社も、たいてい鳥居の傍に教育委員会とかが作った『堺の町散歩』的な由緒書きが立ってて、うちらみたいな中学生にも分かるようになってる。


 その類か……ああ、もう分からへん!


 で、寝てしもた(^_^;)




 明けて、8月12日。




 また梅雨かいなと思うようなどんよりした曇り空。


「あ、降ってきよったあ」


 言いながら、朝顔の蔓を支持棒に巻き付けてるうちらの後ろをテイ兄ちゃんが駆けていく。


 今週はお盆なんで、おっちゃんもテイ兄ちゃんも忙しい。


 もう引退を宣言したお祖父ちゃんも、何軒かお盆の檀家周りを引き受けてる。


 まあ、お盆はお寺の書き入れ時やさかいね。


 お盆のお布施は、月参りのそれよりも三割から五割多いんやそう。


 まあ、お寺は火災保険だけでも年間70万円もするさかいねえ。


 

 ピコン!




 留美ちゃんのスマホが鳴る。


 ピコンいうのはlineが入った音。ちょっと大きい。


「あ、先生から」


 すると、うちのスマホもピコンと着信音。うちも先生から、一斉送信の緊急連絡?


『元気にやってますか? コロナで自粛ばっかりだけど、有意義な夏休みを過ごしてください。宿題も早めにやろうね。なにか困ったことや、分からないことがったら遠慮なく言ってください。 月島さやか』


「宿題はよやれっちゅう檄文やなあ」


「先生も大変だ」


「フッフッフ……今年は余裕なんですよ、酒井さくらは<(`^´)>」


 今年は、留美ちゃんといっしょやさかいに、いつもの五割り増しくらいに宿題は進んでる。


「フフフフ」


 留美ちゃんも、うちのほくそ笑みの理由は分かってるんやけど、奥ゆかしいさかい、フフフと笑うだけ。


 ええ子やなあ。


「せや、月島先生の家て、たしか神社やで!」


「あ、そうか!」




 その場で、頼子さんから送られてきた写真を添付して質問のメールを送る。




 朝ごはんの片づけしてる時に返事がきた。


『これは、多分、紀元2600年記念の時に建てられた掲揚のポールの跡だと思うよ。うちの神社は「皇紀ニ千六百年記念」という文字の入った柱が残ってます』


「なるほど、同じだね!」


 添付された写真を見て、納得のわたしら。


『じゃあ、これは、なんだか分かりますか?』


 スクロールすると、一枚の写真が出てきた。


 鳥居の横、紀元2600年と並んで、鉄骨の柱が立ってる。


 鉄骨は下半分ほどしか写ってないんで、正体が分からへん。


「「う~~~ん」」


 留美ちゃんと二人で唸って、写真を添付して頼子さんに送る。


 

 雨が本降りになってきたんで、今日のお散歩は中止です。


 

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