第226話『○○スプレー!』

せやさかい・226


『○○スプレー!』さくら      






 またアブラムシ!?




 詩(ことは)ちゃんが手にしてるものを見て、思わずサブいぼが立った。


 うちの女子の中では、いちばんアブラムシに強い方やねんけど、ついこないだアブラムシを水葬にしたとこなんで、あんまり見たくない。


 姉妹同然の従姉妹同志やから、言わんでも気持ちが伝わる。


「アハハ、アブラムシじゃないよ(^_^;)」


「え?」


 不思議に思てると、後ろから留美ちゃん。


「あ、催涙スプレーですね!?」


「え、あ、まあね」


 今朝は、お盆前の本堂の掃除をしたんで、朝の散歩には行かれへんかった。


 昼前には、詩ちゃんも用事で大学に出かけるしね。


 その、出かける用意をしてた詩ちゃんの手に催涙スプレーやさかいに、ビックリしてるわけ。


「ひょっとして、小田急線の?」


「え、あ、まあね」


 で、思い出してしもた!




 ほら、6日の晩に、小田急線の中で、無差別に切りかかったヤツ!




 女の人が重傷で、ストレッチャーで運び出されるとこがネットニュースで流れてた。


「大学の友だちにもらって、ずっと仕舞ってたんだけどね……」


「いいと思いますよ!」


 留美ちゃんが身を乗り出す。


「そ、そう?」


「スタンガンとかありますけど、犯人に近づかなきゃ使えないし、イザとなったら、なかなか使えないって言います」


「そうね、さすがにスタンガンはね(^_^;)」


「スプレーだったら、気楽に持てるし、ハードル低いですよ」


 せや、アブラムシやと思たら簡単や。


 ブシュー!


 スプレーしてるとこが脳裏に浮かぶ。


 悪者が、仰向けになって手足をバタつかせて……あかん、等身大のアブラムシ想像してしもた(;゚Д゚)


「ええと、そしたら一つ出すか……」


 詩ちゃんは、リュックから別のスプレーを二つ出した。


 制汗スプレーと眼鏡クリーンのスプレー。


 それに、携帯の扇風機まで出てきた。


「制汗スプレーは置いとくか……」


 決心したとこへ『ちょっと、コトハ~!』とおばちゃんが呼ぶ声。


「はいぃ」


 と返事して、奥へ行った。




「遅れる、遅れる……」


 用事を済ませた詩ちゃんは、ガサッとリュックに中身を詰めて「行ってきまーす!」と手を振る。


「お早うお帰り」


「行ってらっしゃーい」


 見送って気が付いた。


 催涙スプレーを置いていった。


 急いでたんで間違うたんや!


「どないしょ!?」


 詩ちゃんが、暴漢に襲われて、最後の手段!


 ブシューー!


 催涙スプレーかけたら制汗スプレーやった!? ストレッチャーで運ばれる詩ちゃん!?


 ああ、笑えません(;'∀')!


 自転車で追いかけて、国道のとこで渡せました。




 よかったあ。




 サイクルコンピューターを見たら、往復で1キロ記録が伸びておりました。

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