第222話『詩ちゃんといっしょ』

せやさかい・222


『詩ちゃんといっしょ』さくら      





 アハハハハハ



 朝ごはん食べながら笑ってしまった。


 夏休みに入ってから、詩(ことは)ちゃんもいっしょに朝ごはん。


 詩ちゃんは大学生やねんけど、ふだんは、中学生のうちらよりも朝ごはんが早い。


 詩ちゃんはホンワカしたベッピンさんやねんけど、ストイックなとこがある。


 大学は、基本は自分の好きなように授業が組み立てられる。


 せやさかい、普通の大学生は一時間目を外して履修登録することが多い。


 大学の二時間目は十時半ごろに始まるさかい、九時ごろに家を出たら間に合う。


 したがって、朝ごはんは、うちらの一時間目が始まるころに食べたらええわけ。


 詩ちゃんは、それを毎日一時間目から出てるから、うちらよりも朝ごはんが早かった。


「夏はグータラするわ」


 そう宣言して、うちらの夏休みが始まってからは、いっしょに朝ごはん。


 本人はグータラ言うてるけど、留美ちゃんへの配慮やと思う。


 留美ちゃんは、お家の都合で一人暮らしをすることになって(事情は195ぐらいのとこ見てください)うちの家族の一員になったんやけど、それと入れ違いに詩ちゃんは大学生。それで朝のサイクルが合わへんので、夏休みぐらいはという配慮やと思う。


 で、なんで三人揃って笑ってるかと言うと、目の前のタブレット。


 頼子さんも、うちらの真似して領事館の庭で朝顔の栽培を始めた。


 頼子さんを挟んで、両脇にジョン・スミスとソフィー。


 ジョン・スミスは190もあろうかというオッサン。それが、背中丸めて「早く芽を出せ、蕾を付けろ(^^♪」いう感じでしゃがんでて、頼子さんもソフィーも幼稚園の子ぉみたい。ジョン・スミスが熊みたいやから、二人は、ほんまに小動物みたい(^▽^)


 三人とも夏の普段着輩、短パンにタンクトップ。


 しゃがんだジョンスミスの太ももは、頼子さんのウエストと同じくらいで、ソフィーよりもブットイ。


 ボンレスハム……


 グフ


 詩ちゃんが呟いて、留美ちゃんは、危うく鼻からカフェオレ噴き出すとこやった。




「自転車で散歩でも行っといで」




 お祖父ちゃんの勧めで、八月に入ってからは三人で家の近所を散歩。


 まあ、三十分ほどで、五キロちょっと。


 雨が降ったら行かへんし、用事ああったら抜けるし、いっつも三人ということにはなれへんやろけど、今のところ三人。


 習慣と言うのは恐ろしいもので、初日は中学の正門まで行って笑ってしまった。


「ボーっと走ると、ここに来てしまうよね(n*´ω`*n)」


 うちらは、安泰中学の現役と卒業生ですわ。


 堺の街は、基本碁盤目状になってるんで、迷子になることもないし、


 

 あら?



 いつもとは違う角を曲がって、留美ちゃんが停まった。


「え?」


「おお!」


 それは田中米穀店、ほら、檀家のおばあちゃん。


 店先に、朝顔の栽培デラックス版!


 プランターが三つ並んでて、そこに緑の棒が等間隔に刺されてて、緑の蔓が軒先まで伸びてる。


 朝顔初心者のうちらには、眩しい光景。


「でも、なんだか違う……」


 留美ちゃんの目が真剣になる。


 言われて見ると、葉っぱがちっちゃい。


 それに、これだけワッサカしてんのに花が付いてへん。


 それにそれに、よう見ると、上の方に、赤くて丸まっちいもんが数個付いてるやおまへんか。


「あ、ミニトマトだ!」


 詩ちゃんが、正体を見破る。


 その声に気付いて、田中のおばあちゃんが出てきた。


「まあまあ、お寺のベッピンさんがうち揃うて(^▽^)/」


「「「あ、おはようございます」」」


 三人揃ってご挨拶。


「なんや、朝日に輝いて、観音さんみたいやなあ……ナマンダブナマンダブ……」


「あ、手ぇあわさんとってくれます(^_^;)」


「アハハ、せや、その上の方のトマトとってもらえへんやろか」


「え、あ、いいですよ」


 軽やかに自転車を下りると、ちょっと背伸びしてミニトマトを収穫する詩ちゃん。


 背伸びするもんやさかい、Tシャツが上に上がってしもて、腰の肌がチラリと見える。


 い、色っぽい(#'∀'#)。


「日よけ代わりに植えたんやけど、びっくりするくらいトマトでけてしもて、収穫したんやけど、上の方手ぇ届かへんさかい、どないしょうか思てたとこやってんわ」


 お婆ちゃんには、渡りに船やったみたい。


 ひとりじゃ食べきれへんいうので、袋に一杯ミニトマトをもらって帰る。




 学校の宿題に『夏の友』とか日記式の宿題があったら、毎日、種に困らへんのにと思った。


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