第220話『女王陛下の暑中見舞い』

せやさかい・220


『女王陛下の暑中見舞い』頼子      





 お祖母ちゃんから暑中見舞いが来た。



 日本には年賀状とか暑中見舞いとかがあることを教えたのはお母さんだ。


 お祖母ちゃんは、職業柄、ちょっとした手紙を書いても影響が大きい。


 だから、儀礼的でも習慣的な便りを出す習慣は嬉しいんだ。儀礼にことよせて、いろいろ書けるからね。



 お祖母ちゃんの職業は女王陛下。


 わたしは、そのお祖母ちゃんの唯一の孫で、王位継承権第一位。


 つまり、いつの日か、お祖母ちゃんが神に召されたら、あくる日からわたしは一国の女王になる。


 ただ、わたしには半分日本人の血が流れてるから、わたしが日本国籍を選択したら王位を継げなくなる。


 あるいは継がなくて済む。


 その時は、百年以上昔に枝分かれした分家から養子を迎えることになる。


 えと、お祖母ちゃんの、そのまたお祖母ちゃんの又従姉妹の子どもあったか孫だったか……まあ、ほとんど他人。


 日本と同様に王室典範というのがあって、そこに王位継承の規則が書いてあって、その規則では、そうなってる。


 これは、お祖母ちゃんでも変えられない。


 優柔不断なわたしは、落城寸前の大坂城みたく外堀を埋められてる。



 去年の春から、大阪市内の総領事館に住んでいる。


 一応はコロナ対策。


 王位継承者のわたしに万一の事があったらって、まあ、もっともな理由。


 領事館では完全に王女様。


 専属のガードが二人も付いている。


 ひとりは、元特殊部隊隊員だったジョン・スミス。顔は優しいんだけど、アングロサクソン丸出しのマッチョ。身長も190に近くって、たいてい黒のサングラスしてる。


 公的な外出の時は、こいつが付いてくる。


 まあ、ジョン・スミスはわたしが王女にならなくても、軍隊の教官だとか、諜報部だとかの仕事がある。



 もう一人は、ソフィー。


 同い年の女の子。


 代々、王室に仕えた魔法使いの末裔。


 なんでも、フォグワーツを首席で卒業したとか(お祖母ちゃんのヨタ話)。


 一昨年、エディンバラに行った時、ソフィーが魔法めいたワザを使ったのを見たけど、魔法めいたということで、わたし的には彼女を魔女認定したわけではない。


 日本への憧れが強い子で、わたしのガードを主任務にするということで、わたしと同じ聖真理愛学院の二年生をやっている。大好きなアニメや日本文化に接することができて、彼女はめちゃくちゃ喜んでる。奥ゆかしい子だから、露骨に嬉しがったりはしないんだけどね。


 わたしが、日本国籍を選んだら、ソフィーは国に帰らなくてはならない。


 いまは、ほとんど姉妹のようになってしまったソフィーを不幸には出来ない。


 

 一昨年、天皇陛下が即位された時に、お祖母ちゃんが来日して陛下にご挨拶して式典にも出た。


 その時に、連れまわされて、新聞やテレビにもネットにも出回って、世間の扱いは王女様。


 ね、外堀埋められまくりでしょ(;゚Д゚)。


 その時、さる内親王様と仲良くなった。


 時々、メールとか手紙が来る。


 lineはしないわよ。あれって、情報漏れまくりだからね。


 最近は、お身内のことで、内親王さまも気をもんでいらっしゃる。詳しいことは書けないのでごめんなさいなんだけど。




 お祖母ちゃんは、そういうこと、全部知ってる。




―― 王室典範を詳しく調べたら、ヨリコの子ども(つまりわたしのひ孫)でも王位継承権があると分かったの。むろん、ヨリコが正式の王女になってくれるのが一番なんだけど、そういう道もあるということです ――


 なんかねえ……このクソババアって感じです。


 お母さんが教えてしまった暑中見舞いにことよせてのサラミ戦術。


 もう半月もしたら残暑見舞い? まさか、そこまではね(^_^;)。




 さくらが、朝顔の双葉が出て来たって写真を送ってきた。


 しゃがんで、朝顔を見つめているさくらと留美ちゃんの写真も付いている。


 コロナでは、いろんなことがあったけど、可愛い二人の後輩が同じ屋根の下で暮らすようになったのはいいことだ。


 

 さくらの真似をして、ソフィーと二人、領事館の庭に朝顔の種を植えてみる。


 三日もすると、双葉が出てくるらしい。


 コロナの中、ささやかな楽しみが増えました(⸝⸝´꒳`⸝⸝)。 

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