第219話『朝顔の双葉が開いた』

せやさかい・219


『朝顔の双葉が開いた』さくら      






 きのう双葉が出てきて、今朝は開いてました!



 朝顔ですよ! 朝顔!


 なんであろうと人や物が成長するのは嬉しいもんです。


 小学一年生のころ、初めてつけた朝顔日記の興奮が蘇ってきます。


 お母さんと二人、百均で買ってきた鉢に種を撒いた……というか、二センチくらいの穴をあけて種を入れた。


「え、なんでお尻切るのん!?」


 お母さんがカッターナイフで種のお尻を小さく切ったんで、ビックリ!


「種も人間も、ちょっと傷があるくらいのが伸びるんだよ」


 もっともなようやけど、その時、ニタリと笑ってたお母さんは、ちょっと怖かった(^_^;)


 双葉が出てきた時は、二個の種が合体したんやと思た。


 あくる日には、もう一個双葉が出て来たんで、種の力が余って分身の術をつかったんちゃうやろかとカンドウした!


 カッターナイフを出して、お母さんに迫った。



「お母さん、さくらのお尻も切って!」



「え、え、なに(;'∀')!?」


「お尻切ったら成長がはやい!」


 アホやったんですわ(-_-;)


 でも、母さんは応えてくれた。


「それやったら、生まれた時に切ったよ」


「え、ほんま( ゚Д゚)?」


「自分で、確かめたら?」


「うん」


 手を後ろに回して確かめたら、確かに割れてて大感激。


 しばらくして、もう一回お母さんに聞いた。


「前の方も切ったあ?」


「え?」


「そやかて……」


 アホな思い出です。


 お尻が最初から割れてるのは、小一でも知ってます。


 一瞬、ホンマかと思たけどね(^_^;)


 まあ、そんなアホなことをやって、寂しさを紛らしてたんです。



「え、お尻って切るんだ?」



 今度は留美ちゃんがビックリ。


 お祖父ちゃんが植えたのは発芽処理がしてあるので、お尻を切ることはなかったんで、お母さんとの思い出を話すとビックリした。


「それはな、種の殻が硬すぎるんで、中には殻を破れんと腐ってしまう朝顔があるからや」


 二人で朝顔の双葉を観てると、お祖父ちゃんが解説してくれる。


「そうなんですか?」


「うん、啐啄同機(さいたくどうき)という言葉がある」


「「サイタクドウキ?」」


「うん、鳥の雛が卵の殻を割って出てこようとするときに、親鳥は、それを助けようと外から殻をつつくんや。鳥は三歩歩いたら覚えたこと忘れるっちゅうけどな。そういう大事なことは、ちゃんと知ってるっちゅう格言やねえ」


「それって、人にものを教えるとか教育の本質ですよね!」


「おお、留美ちゃんは賢いなあ」


「え、えと……」


「子どもが習いたいと思う時に習いたいものを教えるのが大事だって意味ですよね……含蓄のある言葉です」


 か、かしこい(;'∀')


「まあ、人間には目に見える殻はないさかいな、ちょっとむつかしい」




 その時、ダイニングの方から「朝ごはんですよお!」とおばちゃんの声。




 今朝のお祖父ちゃんは、トーストにゆで卵。


 テーブルの角でコンコンやって殻をむこうとしたら……


「あ、ああ、生卵や!」


『え、あ、ごめんなさい、お父さん(^_^;)!』


 おばちゃんの声がして、うしろで詩(ことは)ちゃんが笑っておりました。




 うちの夏休みは、ゆったりと始まっておりました……


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