第218話『ごま塩と朝顔の種』

せやさかい・218


『ごま塩と朝顔の種』さくら      






 木村重成さんのお墓に行ってから調子が悪い。




 お墓の前でクラっときて、木村重成さんに出会った……夢か幻やいうのんは分かってる。


 で、たぶん熱中症やったんやと思う。


 帰ってからお医者さんに行ったら「うん、熱中症」と言われたし(^_^;)。




 おかいさんが目の前にある。




 おかいさん、変換したら岡井さん。


 べつに、岡井さんいう人と朝ごはんを食べてるわけやない。


 お粥のことです。


 お祖父ちゃんが、この三日作ってくれてるんです。


 おかいさんの作り方は二通りあるんです。


 冷ご飯に水を入れて煮込むという略式。


 それと、一からお米を炊いてこさえる、由緒正しいおかいさん。


 お祖父ちゃんのは、由緒正しいおかいさん。


 最初は、かんてき(七輪)出して、どこから出てきたんか豆炭でコトコト炊いた本格派。


「ありがとう、お祖父ちゃん」


 ウルウルしながらお礼言うたら、おっちゃんが「年寄りのイチビリや、気にせんとき」と親不孝なことを言う。


 しかし、二日目からはガスになったとこを見ると、やっぱりイチビリかも。


「かんてきに豆炭の方がおいしいねんけどなあ……」


「せやろね(^_^;)」


 返事はしてるけど、違いは分かりません。


「学校やすんだらあ……」


 おかいさんの向こうで、お祖父ちゃんが言います。


 お祖父ちゃんは、孫の事が心配なんで、この三日、朝ごはんをいっしょしてます(テイ兄ちゃんは「ひまなだけや」、詩(ことは)ちゃんは「おかいさんが美味しいいか気にしてるだけ」と言います)


 学校は休みません。


 なんちゅうても、夏休み寸前やったしね。ほんで、無事に夏休みになったしね。


 それに、今日はオリンピックの開会式!


 こないだまでオリンピックに反対してたテレビも、もうオリンピック一色!


 おかいさんも白一色……なんで、梅干し載せたり、海苔の佃煮載せたり。


 今日は、シンプルにごま塩を振りかけます。




 ヘップシ!




 クシャミしたら、ごま塩が飛び散ってしもた。


 食卓にアクリル板は無いので、けっこう飛び散る。


 塩はともかく、胡麻はもったいない。


 指に唾つけて集めては口に入れる。お祖父ちゃんは手伝うわけやないけど、ニコニコ笑って観てる。


 ほんまに、なんちゅうか良寛さんみたいな感じ。


 え?


 ひときわ大きなゴマ粒見つけて、さすがに食べるのをためらう。


「うん?」


 お祖父ちゃんも顔を近づけて覗き込む。


「なにやろか?」


「あ、ごめんなさい、朝顔のタネよ」


 おばちゃんがワイドショー観てる顔をこっちに向けて解説。


「田中さんのお婆ちゃんにもらったから、植えてみようと思って」


「あ、朝顔日記!」


 小学校のころの朝顔日記を思い出す。


 懐かしさが噴き上がって来る。


「おばちゃん、うちもやってみるわ!」


「それええなあ、オリンピックも始まるこっちゃしなあ(^▽^)」


 


 朝食後、茶色い植木鉢に『さくら』と名前を書いて、久々の朝顔日記が始まった。





 

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