第217話『木村重成・3』

せやさかい・217


『木村重成・3』さくら      






 ブオオオオオ~ ブオオオオオ~   ジャーーーン ジャーーーン



 遠くで法螺貝と鐘を叩く音……


 うおおおおお……うおおおおお……


 それに雄たけびの声が潮騒のように轟いてる。


 でも……ちょっとくぐもって……る?


 ほら、プールで泳いでて耳に水が入った時みたいな、現実感が希薄な、あの感じ。




 うっすらと目を開けると、周りは草っぱら。


 草は、横になったあたしを中心になぎ倒されて……あ、これてガシャポンのボール?


 子どものころに魔法少女のガシャポンに凝ってたことを思いだす。


 13人の魔法少女が居てるねんけど、うちは12人しか集められへんかった。


 


 あたしは、小さなってガシャポンのボールの中に入ってるみたい。





 サワ サワ サワ……草をなぎ倒すような音がする。


 見上げてみると新装開店のノボリみたいなんを背中に差した鎧武者が居てる。


 紫のグラデーションも美しい鎧を着た若武者で、槍を腰だめに構えて周囲を警戒してる。


 兜の下の顔はよう分からへんけど、鼻から顎にかけての線はエグザイルのなんとかさんみたいにかっこええ。




 え、木村重成さん?




 思たとたんに重成さんが振り返る。


 ガシャ


「……一寸法師か?」


 ガシャポンのうちは一寸法師に見えるらしい。


 そんな重成さんと見つめ合ってると、ガシャガシャと音をさせて大勢の鎧武者が走ってくる気配。


「南無三、これまでか……」


 槍を構え直す重成さん。


「重成さん、ここに隠れて!」


「え?」


 チラッと視線を落とす重成さん。




 シュポ




 マンガみたいな音がすると、小さなった重成さんが、うちの横に転送されてきた!


「こ、これは?」


「よかった、無事に入れた!」


「きみは何者だ?」


「うち、酒井さくらて言います。重成さんの……」


 そこまで言うて止まってしまう。墓参り……は、ちょっと言いにくい。なんせ、目の前の重成さんはまだ生きてるし。


「重成さんの……」


「わたしの?」


「味方です!」


「味方……」


「はい、遠い未来から重成さんを助けに来ました!」


 え、なにを言うてんねやろ。


 ガシャポンの中に入れたげても、連れて帰ることもでけへんし、ここに居っても見通しなんかあれへんのに。


「そうか、世の中には不思議なこともあるもんだ。これも、太閤殿下の御遺徳なのかもしれないね。殿下は、こういうお伽話めいたことがお好きだったからね」


「そうなんですか……あ、そう言うと、秀吉さんの周りには御伽衆いう人らが居てたて聞いた事があります」


「アハハ、その御伽とは意味が……いや、曾呂利新左衛門などは、そういう話もしておったな」




 ザザザザザザザザ




 頭の上を武者やら足軽やらが走ってきて、さすがに息を詰める。


「ここにおったら、うちらの姿は見えませんから(;'∀')」


 思わず寄り添ってしまって、ドキドキ。


 無意識やねんやろけど、重成さんはうちの肩を抱いて庇ってくれはる。


「きみの髪は、いい匂いがするね」


「あ、シャンプーの匂いです」


「シャンプ?」


「えと、髪を洗う時に使う……(説明がむつかしいので、頭を洗うジェスチャーをしてみる)」


「ああ、シャボンのことか。殿下もポルトガル人から献上されたシャボンを淀君さまに送られたことがあった……しかし、あれで髪を洗うとカサカサにならないか?」


「未来のシャボンですから(^▽^)/」


「そうか(o^―^o)」


 未来から来た言うて、ちょっと後悔。


 もし「この戦の結果はどうなる?」て聞かれたら「この大坂夏の陣で、討ち死にしはります」とは言われへんで(;'∀')


「あの……」


「うん?」


「え、きれいな鎧ですねえ(^_^;)」


 ゲームとかやってると黒っぽい鎧が多いので、とっさにふってしまう。


「紫裾濃(むらさきすそご)の胴丸だ。太閤殿下も『若いうちは華やかにせよ』とおっしゃった」


「そうなんですね(^_^;)」


「えと、えと……時代劇とか観てて気になったんですけど」


「なんだい?」


 うちは、話に間が空くのが怖くて、つい話題を探してしまう。


 こんな近くでイケメンの男の人と喋るのは初めてやし、それに、なんちゅうても、重成さんは、ここで討ち死にしはんねんさかいね(-_-;)。


「ごっつい鎧着てはって、トイレ、あ、お便所とかはどないしはるんですか?」


 あ、アホな質問(#'∀'#)。


「ハハハ、それはね……」


 重成さんは武者袴の股のとこを広げて見せてくれはる。


「え?」


 なんと、股のとこは左右が合わさってるだけで、中身のフンドシがチラ見えしてる。


 その純白に、目がクラっとする。


「フンドシの紐は、ここにあってね……」


 襟首をグイっと広げて見せはる。


 な、なんと、首の後ろにフンドシの紐!?


「用を足すときは、ここを緩めるんだ」


「な、なるほど!」


 ちょっと感動した。て、めっちゃアホなこと聞いてしもた……呆れられたかなあ(^_^;)。


「ハハ、おかげで敵をやり過ごせた。そろそろ行くよ」


 あかん、ここで行かせたら討ち死にや!


「あ、もうちょっと」


「ありがとう、でもね、ちょっと深入りしたけど、この戦は勝てる」


「せやけど」


「そろそろ冬だからね、あまりジッとしていると体が冷えて、戦いに差し支えるんだ」


「え、冬?」


「うん、もう十二月になるからね」


 十二月……あ、そう!?


 大坂の陣は、冬と夏があったんや。重成さんが討ち死にするんは夏の陣や!


「それじゃ、ありがとう」


 重成さんはニコッと白い歯を見せると、あっという間にガシャポンの外に出て、大きくなる。


 いつのまにか、馬が寄ってきていて、カッコよく打ち跨る重成さん。


 パシ


 小気味よく鞭を当てると、槍を小脇に旗指物を靡かせ、大坂城の方に向かって駆けて行った。




「ちょっと、だいじょうぶ?」




 頼子さんの声がして、気が付いた。


 頭の上は青い空に入道雲がモクモク湧き出して、どうやら、大阪の梅雨も明けてきたみたい……。


 


 


 

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