第214話『キングダム』

せやさかい・214


『キングダム』頼子      







 あ、ニキビ!




 歯を磨きだして発見した。


 まあ、高校二年なんだからニキビぐらいはできる。


 でもね、わたしの美意識に反するので気を付けている。




 一昨日の晩から『キングダム』いハマってしまったせいだ。




 わたしは、実質的にヤマセンブルグ公国の王位継承者。


 学校では夕陽丘頼子だけれど、もう一つヨリコ・スミス・メアリー・ヤマセンという名前を持っている。


 ニ十二歳までに国籍を選ばなくてはならない。


 お祖母ちゃん(女王)の陰謀で、ほとんど――わたしは王女――という自覚を持っているんだけど、一年前までは、それほど思い詰めることも無かった。


 コロナ(お祖母ちゃんは中〇ウィルスとはっきり言う)のお蔭で、一年前から領事館住まい。


 ここにいると、完全に王女様。


 廊下や階段を歩いていても、わたしが通ると道が開けられる。語尾には「ユア ハイネス」なんて付いたりする。返って来るお返事には「イエス、マム」がぶら下がっている。


 まあ、いいか……という気にはなってきているんだけどね。


 それが!


 わたしは王女にならなければならないぞ!!


 握った拳を天に向かって突き上げた(ウルトラマンの変身ポーズに似てる)!




 事情は、こうなのよ。




 さくらが、昔のオリンピック(最初のロサンゼルスオリンピック)の水泳平泳ぎで銀メダルを取った前畑選手に凝った。


 唐突なんだけど、さくらは、いつも唐突なんで気にしてはいられない。


 それで、YouTubeで検索して感動したついでに、プライムビデオでアニメを観ていたらハマってしまったんだって。


『キングダム』


 キングダムっていうのは、春秋戦国時代、信という奴隷の少年が秦王朝の王様を助けながら大将軍になって行くって壮大なドラマ。


 王様って、若いころの秦の始皇帝。


 それまで、七つの国に分かれていた中国を、初めて統一したって人。


 統一したから、敬称は『王』ではなくて『皇帝』なんだよ。


 皇帝というのはエンペラーで王様や女王よりも偉い。


 今の世の中で、自他ともにエンペラーを名乗れるのは、日本の天皇陛下だけ。


 天皇陛下は、一昨年、お祖母ちゃんといっしょに宮中に呼ばれた時に、遠目にだけどお目にかかった。


 正直、緊張したよ(;^_^A


 エリザベス女王だって、一歩引きさがって敬意を表される存在!


 信が奮い立って、一生と命をかけてお仕えしたのが、始皇帝なわけ!




 で、そのアニメを金・土の二晩かけて観てしまった。




 若き秦国王政(せい)は、秦以外の中国の王国の合従軍に包囲され、王国は函谷関を守り切らなければ国を失うところまで、追い詰められている。


 やっと、千人の部隊長になった信は、重傷を負いながらも八面六臂の大活躍!


 さくらは、信の大ファンなんだけど。


 わたしは、若き国王の政にシンパシー。


 


 国の重さを感じてしまった。




 国を失うと、人々はバラバラになって、バラバラになった人々の多くは命を落とし、生き残った僅かな人たちも世界中に散ってしまって辛酸を味わうことになる。


 夕べね、うっかりお祖母ちゃんとスカイプで話してしまった。


 こんな、おもしろいアニメがある!


 って、お祖母ちゃんに自慢したのよ。


「観てるわよ」


 こともなげに言って、お祖母ちゃんは鼻を膨らませた!


 でもって、部屋の本棚にカメラを向けると、本棚にはコミックの『キングダム』がずらりと並んでいるのよ!


 く、くそばばあ(-_-;)!


 あ、思っただけで口にはしてないから。


 


 今日は日曜日でもあるし、朝のアレコレが済んだら、ニキビ退治のためにも、ちょっと横になろうと思う。


 でも、目をつぶるとスマホの着信音。


 さくらのやつだ。


「……もしもし」


『頼子さん! 木村重成のお墓見に行こう!』


 ……予定が狂ってしまった。


 

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