第215話『木村重成・1』

せやさかい・215


『木村重成・1』さくら      







 鶴橋で近鉄大阪線に乗り換える。




 アチャー


 思わず、おっさんみたいな声が出てしまう。


 あと三段階段を下りたらホームというとこで準急が出てしまう。


「各停が先着だよ」


 冷静な声で留美ちゃんが次善策を提案。


 そして、次発の各駅停車。


「準急だったら座れないとこだったね」


 留美ちゃんの提案で、人波をかき分けてホームの端まで歩いて先頭車両に乗る。


「上六の改札は最後尾の方だから、前の車両は比較的空いてるのよ」


 留美ちゃんは賢い。


 布施と弥刀で通過待ち。


「お八つ食べよか?」


「え、まだ10時前だよ」


「せやかて、ひと少ないし(^▽^)/」


 弥刀では、ごっそりお客さんが下りて、先頭車両の乗客は、うちら入れて五人。


 天気はええし、二本の通過待ちやし、仏さんのお下がりの釣鐘饅頭を出す。


「二個までね」


「うん、お昼食べならあかんしね(^^♪」


 

 ゴーーーー




 二本目が通過して、うっかり三個目に手を出しかけて電車は発車。


「ここから、景色いいよ」


「ほんまや、高架になってきた」


 高架になって、しばらく行くと、電車は大きく左に曲がって、景色がグリンと旋回。


 おお!


 左の窓に見えてた生駒山が、ゆっくりと正面に回って来る。


 先頭車両の、一番前のシートなんで前方の見晴らしも素晴らしい。


「うわあ……なんか、山に吸い込まれていきそう……」


 俊徳道……久宝寺口……八尾と進むにしたがって生駒山が大きなってきて、吸い込まれそうな感じになる。


「あれは高安山だよ、隣が信貴山だし……」


「え、そうなん?」


 うちには区別つかへん。


「大阪の電車って、ほとんど南北方向で生駒山系と並行してるんだけど、近鉄奈良線と大阪線の、この区間は山にまっしぐらだからね」


 留美ちゃんはえらい。


「お、地下に潜るんか?」


 錯覚するくらいの勢いで電車は高架を下りて河内山本に到着。




 せんぱーーい!




 改札を出ると、文芸部唯一の後輩、夏目銀之助が手を振ってる。


「銀ちゃん、早いなあ!」


「準急に間に合いましたから」


「頼子さんは?」


「あ、あそこ……」


 銀ちゃんが目線で示したロータリーの端っこに黒のワンボックス。うちらも見慣れた領事館の車。


 ちょっと前やったら「よりこさ~ん(^^♪」とか声上げながら駆け寄るんやけど、コロナもあるし、頼子さんも有名人やし。ひっそりと近づく。


「お久しぶり~」


 出てきた頼子さんは、マスクに眼鏡して、長い髪をキャスケットにしまい込んでる。


「なんか、怪しいですねえ」


「うん、まあね」


 車の中には、お久しぶりのジョン・スミスともう一人のサングラス。


 やっぱりプリンセスのお出かけは、たいへん。


「じゃ、行ってきま~す」


 ジョン・スミスに声を掛けると、ジョンスミスは無線機でなにやら連絡。


 英語なんでよう分からへんけど、おそらくは、警備の仲間に指示を飛ばしてる。


 スマホを使ったらええと思うねんけど、スマホは情報を抜かれるんで、警備には使えへんらしい。


「じゃ、自転車借りに行きます」




 留美ちゃんがガイドよろしく先導して、八尾市の駐輪場へ。




「すみません、レンタル自転車四台お願いしまーす」


 ひとり二百円で自転車を借りる。


 貸し出しの自転車は放置自転車を整備したものみたいで、四台、まちまち。


 女性三人は24インチ。銀ちゃんは26インチ。


 揃って、駐輪場の前に出ると、これまた久しぶりのお仲間。


「いやあ、おひさ(^^♪」


「おひさしぶりです」


 微妙に語尾の「です」に力が入るのは、頼子さんのガード兼ご学友のソフィー。


 多少ソフトになったけど、やっぱり目つきは鋭い。


 まあ、彼女にはガードとして勤務中やから仕方ないんやろなあ。


「コースと現場は確認しておきました」


「ごくろうさま」


 さすがは王女様のお出かけなので、ソフイーは事前にチェックしに行ってるんだ。


「それでは先導します。車に気を付けてついて来てください」


 はーーーーい!




 五人そろってペダルを踏む。


 今日は、かねて「行こう行こう!」と、その気になってながら、なかなか実行に移されへんかった日帰り旅行。


 そう、木村重成のお墓詣りに行くとこなんです!




 自転車の車列は、ゆっくりと玉櫛川沿いの遊歩道を北に進むのでありました(^▽^)♪





 

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