第146話『バーチャル女子会』


せやさかい・146


『バーチャル女子会』  






 『「あ、そうか!」』には微妙なズレがあった。




 ちょっと説明するわね。


 お寺の婦人会(ほとんどお婆ちゃん)と文芸部でバーチャル女子会をやろうと思った。


 テイ兄ちゃんが構築した『寺テレワーク』のシステムを使ったテレワーク式の女子会。


 せやけど、全部で18人も参加するとタブレットの画面では小さすぎる!


 そこで、スカイプしてたテイ兄ちゃんとジョン・スミス(頼子さんのボディーガード)が『「あ、そうか!」』と閃いた。


 


 その閃きにズレがあった。




 テイ兄ちゃんは、ネットでお寺と領事館を繋いで、プロジェクターとスクリーンで映像を映す2Dバーチャルを考えた。大阪も部分的な規制解除がされたので、婦人会のお婆ちゃんらはお寺の本堂に集まってもらう。むろんソーシャルディスタンスはしっかりとった上でね。せっかくのタブレットやけど、それよりええ方法を思いついたらすぐに切り替えられるのは、檀家のお婆ちゃんらのことを第一に考えられる坊主の優しさ。


 ジョン・スミスは、その上を行ってる。


 なんと、3Dホログラムのセットを使う!


 ご本尊の前の畳に真上を向いた投影機、その上に45度の角度を付けたカーボンの黒枠、黒枠には特殊シールが張ってあって、投影機が発した映像が、シールに映って、あたかも実物があるような感じになる。


 ほら、初音ミクのライブとかで、ほんまにステージに初音ミクが居てるように見える、あの仕掛け。


 あれをグレードアップしてコンパクトにした仕掛け。それを領事館のボックスカーで持ってきて、ジョンスミスは一時間ほどで仕上げる。


 同じものが、領事館のホールにもセットされていて、双方で3Dバーチャル映像が楽しめるわけ!




 おおーーーーーーー!!


 ニャーー!




 ご本尊の前に現れた頼子さんはホログラム特有の輝きを放って出現し、目の当たりにしたお婆ちゃんたちが感嘆の声をあげる。中には、手を合わせて念仏を唱えるお婆ちゃんも居てる。


 ニャーはダミア、あやうく頼子さんめがけて飛びつきそうになったんでテイ兄ちゃんに取り押さえられる。


 突っ込んだら爪でスクリーン破られてしまうからね。


 仕掛けを知ってるわたしも三カ月ぶりに見る頼子さんの姿に胸が熱くなってくる。


『さくらちゃん、留美ちゃん、そして如来寺婦人会のお婆ちゃんたち、ほんとうにご無沙汰していました……』


 そこまで言って、頼子さんもこみ上げてくるものがあって、しばらく沈黙になる。


「頼子ちゃん」


「畏れ多いことを『殿下』をつけなあかんやんか!」


 声をかけた田中のお婆ちゃんを別のお婆ちゃんがたしなめる。


『そんな敬称はいりません、ここに居る時は、ただの頼子です。いっしょにお餅を食べたり、ミカンの皮を剥いていた文芸部の中学生……あ、書類上は卒業して高校生だけど』


「そっちも、わたしたちのこと見えてますか?」


『うん、大丈夫だよ留美ちゃん、ちゃんとホログラムで見えてるよ。ただ、領事館のホールは本堂ほどの広さがないので、みなさん1/2サイズなんだけどね』


「え、大きさ変えられるんですか?」


「うん、できるよ、こっちからでも……」


 頼子さんがなにやら操作する、影から「あ!」っと声、たぶんソフィアさん。




 わ!!




 頼子さんがグラリと揺れたかと思うと、いきなり首のドアップ!


 お婆ちゃんたちが腰を抜かす。


『ごめんなさい、操作が難しくって(;^_^A……えい!』


 今度は、ティンカーベルほどの小ささになる。


『頼子さま、わたくしが……』


 陰でソフィアさんの声がして、やっと元のサイズに収まって女子会が始まった……。







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