第147話『アリとキリギリスとさくら』


せやさかい・147


『アリとキリギリスとさくら』  






 六月に学校が再開される……らしい。




 今までも○○までに再開とか、休校は○○までと言われては延長になってきたので油断禁物。


 やねんけど……信じたくなる。


 もう、家におるのも飽きたしね。というか、不安や。


 こないだのバーチャル女子会は、最新のホログラム技術で、あたかも、本堂に頼子さんが出現したみたいで、不覚にも涙ぐんでしもたりした。


 スーパーの前で留美ちゃんに逢うたときは、二人とも泣きながら喋りまくったし。




 日課になった境内の掃除も、あと十回ほどでおしまい。




 そう思うと、掃除にも熱が入る。


 敷石の縁(へり)を蟻が歩いてる。


 よう見ると、前後にも蟻が歩いてて、のどかな蟻さんの行列。しゃがみ込んで見とれてしまう。


 途中から、蟻さんたちは荷物を持ってるのに気付く。


 なにやろ? え……脚?……羽根?……首!?


 蟻さんたちは、死んだ虫をバラバラに解体して巣穴に運んでる最中!


 しゅんかん、フラッシュバックした。


 小三ぐらいのときにも、学校の運動場で蟻の行列を見た。同じようにキリギリスかなんかを解体して運んでた。


 保育所で習った『アリとキリギリス』が頭に浮かんだ。


 夏に遊んでばっかりやったキリギリスは、冬になって食べ物もなくなって飢え死に寸前で、蟻さんの家に転がり込む。蟻さんたちは、そんなキリギリスを暖かく迎えてやって食べ物を分けてくれる。キリギリスは涙を流して感激し、これからは真面目に働くことを誓うのでありました!


 そいうハートフルな話やったのに、なんと、蟻さんはキリギリスをバラバラにして食料にしてる!


 子ども心にも、蟻さんたちが、むっちゃ悪者に思えてきて。ランドセルからレンズ付き定規を出して、太陽光線を集めて照射、逃げ惑うところを執拗に追いかけて焼き殺した。


 蟻さんはそっくり返って身もだえし、最後はプツンと音がして小さな煙が立つ……スルメが焼ける匂いがした。


 ちょうど、お父さんが帰ってこーへんようになった時期。


 数年ぶりの思い出して、自分の中に戦慄が走る。


 自分の部屋に取って返して、虫メガネ持ってきて、蟻さんを焼きたい衝動にかられる。


 もう一回、スルメが焼けるような匂いを嗅いでみたいと、慄いてしまう。




 ニャーー




 いつのまにかダミアが寄ってきた。


 顔を起こしてダミアと目が合う。


 ダミアはギクっとして固まって、二三歩後ずさりしたかと思うと、本堂の方に逃げて行った。


 ひどい顔をしてたんやろなあ。




 やっぱり、学校は早く始まったほうがいい!


 

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