第145話『閃きの二転三転』


せやさかい・145


『閃きの二転三転』  






 アイデアはええねんけどなあ




 60インチのモニターを前にテイ兄ちゃんは腕組みをする。


 モニターは18に分割されてて、一つ一つに名前が入ってる。


 如来寺の婦人会15人分と文芸部の3人。


「ここに、映像を入れるとやなあ……」


 右上の『酒井さくら』のとこにうちの顔が映る。


「ちゃんと見えてるけど」


「そら60インチやからや、こっち見てみ」


 例のタブレットを差し出すテイ兄ちゃん。


「ちっこーー!」


「せやろ」


 18分割された8インチのタブレット、一つ一つはスマホの画面ほどもない。いやはや、とてもバーチャル女子会はでけへん。




 テイ兄ちゃんが構築したお寺テレワーを利用して、お寺と文芸部の拡大女子会をやろうと思った。




 参加者全員が同じタブレットを持って、あたかも本堂で集まってるみたいな気分でお喋り出来たらええと思た。


 同じタブレットやったら、相性もええし、操作もいしょやから「ここを押して、こっちを指で繰って……」という具合にやりやすい。


 何かにつけて、いっしょにお茶を飲んだりミカンの皮を剥いたり、世代の壁を超えて女子会をやってきた。


 幽閉同然に領事館で缶詰めになってる頼子さんには、またとないバーチャル女子会になると閃いたんやけどね。


 画面分割を忘れてた。


 たとえ、頼子さんが「これでもいいよ」と言ってくれても、お婆ちゃんたちに配られたタブレットでは、お婆ちゃんらには見えへん。


「文芸部だけでやったらどうや?」


「それやったら、いつもやってるスカイプと変われへん」


「そうか」


「どないかなれへんやろか?」


「「うーーーーーん」」


 イトコ同士で唸ってしまう。


 ニャーー


 ダミアも「やっぱりあかんのん?」いう顔して寄ってきよる。


「頼子さんと話しはでけへんのんか?」


「話して、どないすんのん?」


「お寺広いやろ」


「あ、まあ……」


 たしかに本堂の外陣だけでも42畳ほどもある、境内は200坪ほどもあるけども。


「もう段階的な自粛解除も言われてるさかいに、いっそ、うちの本堂に来てもらうわけにはいかへんやろかなあ」


「あ……ひょっとして、テイ兄ちゃんがリアル頼子さんに会いたいんちゃうん(ー_ー)!」


「え、いや、あくまで文芸部のことをやなあ(;^_^A」


「あ、でも……」


 当たって砕けろいう言葉が浮かんだ!




「……という方法はあかんやろか?」




 画面の頼子さんは、いっしゅん嬉しそうな顔をしたけど、すぐにため息をついた。


「嬉しいけど、わたしには立場がある……ヤマセンブルグの人たちは、今でも自宅に籠って自粛の真っ最中でしょ、日本も全面解除ってわけでもないし、そっちに行くわけにはいかないわ」


 頼子さんは、チラリと画面の外に視線を送って、小さく頷く。


「えと、誰かいっしょに居てるのん?」


『え、ああ……いっしょに入って』


 頼子さんの後ろに、二人の見覚えのある人物。


「あ、ソフィアさん! ジョン・スミス!」


 やあ、久しぶりという感じで手を挙げるジョン・スミス、表情は硬いけどうれしそうなソフィアさん。


「あ、お久しぶりです、お二人とも。えと、こっちも紹介します、わたしの従兄のテイ兄ちゃんです」


『あ、正式なお名前は?』


「あ、酒井諦一と申します。今はジャージですけど、普段は坊主やっております」


 坊主らしく合掌の挨拶をすると、ソフィアさんはメイドの見本みたいに頭を下げ、ジョン・スミスは小さく敬礼、頼子さんは美しく微笑む。


『ちょっとカメラを回してもらえますか』


 ジョン・スミスが人差し指を回して、テイ兄ちゃんはリモコンを操作する。向こうの画面には、本堂の内部が広角でグルーっとパンしてる。


『「あ、そうか!」』


 テイ兄ちゃんとジョン・スミスの声が重なった。


 

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