第102話『電話の声が聞こえた』 

せやさかい・102

『電話の声が聞こえた』 





 自分の家がお寺で、本堂の裏に部室があるというのは、とっても具合がいい。



 下校時間のタイムリミットもあれへんし、収納もいっぱいあって、いろんなものが置ける。


 それで、思いついたが吉日。


 学校のジャージに着替え、文芸部の三人で自主持久走に出た。


 むろんコースは、学校の向こう側で紀香さんの家の前を通る。




 ファイト ファイト ファイト ファイト ファイト ファイト




 体育の授業やないんで、ゆっくり走ってええねんけど、自主的な目的があるせいか、力が入る。


 途中、本物の部活で走ってるテニス部やらサッカー部やらと出くわす。あいつらなんや? という顔をされるけど、ポーカーフェイスで走る。


 いーちにーいちに そーれ!  にーにーにに そーれ!  いちに そーれ! にーに そーれ! いちにさんしにーにさんし  ファイトー!ヨシ!


 いつのまにかテニス部の口調で掛け声。いよいよ角を曲がったら紀香さんの家というとこまで来た。


「元気よく! でも、ちょっとゆっくり目ね」


 頼子さんの注意で歩調を整え、心なし掛け声も大きくなる。


 いーちにーいちに そーれ!  にーにーにに そーれ!  いちに そーれ! にーに そーれ! いちにさんしにーにさんし  ファイトー!ヨシ!


 二階建ての紀香さんの家が近づいてくる。


 おや、家の前に見覚えのある原チャ、ボディーに『専念寺』のロゴ。


 あ、隣のお寺や。


 月参りに来てはるんやろか……と思たら、始めたばっかりのお経が聞こえてきた。


 坊主の孫やいうて、お経を知ってるわけやないねんけど『有縁の人々集まりて……』いうフレーズは一周忌以上の法事で使われる。月参りでは出てけえへん。


「あ、月参りですね」


 聞かれもせんのに言うた。


 頼子さんも留美ちゃんも勘のええ人なんで月参りいうのんが、毎月のお参りやいうニュアンスが通じた。


 そうなんだいう感じで、二階の窓を意識しながら通過する。


 いーちにーいちに そーれ!  にーにーにに そーれ!  いちに そーれ! にーに そーれ! いちにさんしにーにさんし  ファイトー!ヨシ!


 


「なんだか、二階から視線を感じました」


 部室に戻ると、留美ちゃんが真っ先に言う。


「うん、わたしも感じた。見えてるといいね」


「うん、きっと見えてましたよ。掛け声にも気合入ってたし(^▽^)/」


 ちょっとホッとして、ダージリンを頂いた。




 二人が帰ってから、テイ兄ちゃんに聞いた。




「専念寺さんのことやねんけど……」


 説明すると、テイ兄ちゃんは専念寺さんに電話して聞いてくれた。


『ああ、三谷さんとこなあ……』


 電話の声が聞こえた。


 ホトケさんは釋香恵、俗名三谷紀香……今日は一周忌の法要やったそうな。




 え……ほんなら、あの手紙は?


 


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る