第101話『紀香さんの手紙』 

せやさかい・101

『紀香さんの手紙』 





 手紙は二通とも頼子さんに宛てられたものや。



「中身は勘弁してほしいんだけど、二通とも同じ人からの……」


「「え?」」


 字が全く違うので、二人分の手紙かと思ったんや。一通はキレイな字やけど、もう一通はヘタッピが丁寧に書いたような字。


「ほら」


 裏がえされると、差出人は三谷紀香になっている。住所は学校を挟んだ反対側。


「こっちが新しくてね、左手で書いてるんだ」


「あ……」


「紀香はね、一年で同級になった友だちなんだ」


「はあ」


 ピンとこーへんので生返事になる。


 いまどき、手紙でやりとりすることなんて、ちょっと、いや、めっちゃ珍しい。みんな、ラインとかメールで済ませる。


「紀香と親しくなったのはね、国語の授業で先生が『郵便料金て知ってるか?』って聞いたんだ。手紙の書き方って単元だったんでね。だれも咄嗟には答えられなくて、紀香が正確に答えたんだ。それで、この子は手紙を出す子なのかなって……それで、喋ったら意気投合してね、同じクラスなのに文通始めたんだ」


「ああ、分かります!」


 留美ちゃんが感動した。


「メールとかは、ただの文章だけど、手紙って作品なんですよね」


「作品?」


「そうだよ、その時の気分や忙しさや、出ちゃうでしょ。場合に寄ったら涙の痕とか……」


「留美ちゃんはロマンチストやあ(^▽^)/」


「涙は、さすがにめったにないだろうけど、汗とか涎とかあ」


「「ハハ、よだれえ!?」」


「どんな便箋とか、封筒とか、筆記用具とか、匂いをしみこませたりとかも!」


「ちょ、変態っぽい」


「昔はやったんだよ、お香とか香水とか染み込ませてさ。あ、お祖母ちゃんの手紙は、そんなだよ。赤い蝋を垂らしてスタンプで封印してある」


「素敵! アニメとか映画に出てきますよね! ペーパーナイフで、シュッって封を切るんですよね!」


「紀香も、そういう子でさ。月に一二通の感じで手紙のやりとりしてたんだ」


「今でも、続いてるんですか?」


「減って来たけど、続いてる。こっちのが一番新しくて……読んでいいよ」


「は、はい」



 持久走、やっぱりグラウンドを走るんですね。持久走が学校の外を走るようになって、いっしょに走るのが楽しみでした。

 ヨリの走る姿が見られないので残念です。でも、たとえグラウンドでも、ヨリが白い息を吐きながら元気に走っていると思うと嬉しいです。お母さんが、窓の外に椿の木を植えてくれました。早咲きなので冬にでも花が見られます。ちょっと楽しみ。


 


 あまり上手とは言えない字、短いんだけども、きちんと伝わって来るものがある。


「紀香さん、病気なんですか?」


 留美ちゃんが鋭いことを言う。


「分かる?」


「頼子さんの姿とか、窓の外の花とか……これって、本人は家の中に居ますって暗示してますよね」


「うん」


「字ぃが変わってるのは?」


「左手で書いてるんだよ、たぶん」


「留美ちゃんは鋭い!」


「当たりですか?」


「うん、紀香は運動機能が奪われていく病気でね、この春には右手が効かなくなって、左手で書くようになったんだ。だから、乱れた字で、文章も短い」


「「なるほど」」


「会いに行きたいんだけど、病気のせいで抵抗力がなくってさ。それに、衰えた姿見られるのもイヤみたいで、入院中は何度も会いに行ったんだけどね……」


 鈍感なわたしでも想像ができた。


 退院して家に居てるのは、おそらく完治の見込みがないからや。


 持久走が、昔みたいに学校の外を走るようになったら、いっしょに走ろて約束してたんやろなあ。



「せや、頼子さん、文芸部で持久走やりましょ!」



 思いついたマンマ提案した。


 


 

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