第60話『そっくりさんの正体』

せやさかい・060

『そっくりさんの正体』 





 ハナちゃん、おかえりなさい(^▽^)/


 わたしがわたしに挨拶した……。


「あ……えと……」


 これが幽霊やったら「キャーーー!」とか「ギョエ!」とか叫び声が出る。


 まるっきり知らん顔やったら「ごめん、どちらさん?」とか、多少気まずくても声が掛けられる。


 それが、まるっきりの自分、酒井さくらときてるから、反応のしようがない。


 ドキドキするわけでも、冷や汗が流れるわけでもなく、ただただ、真っ白。


 六年の時に、算数のテストやと思てたら、配られたのが国語やったみたいな? 答案返してもろたら100点で、ヤッター思たら人の答案やったみたいな? プールの授業が終わって着替えてたら、間違うてAさんがうちのパンツ穿いたのを見た時みたいな?  一瞬どないしてええか分からん状態。


 いや、その何十倍もごっついやつ。


 ラノベで読んだゲシュタルト崩壊いうやつやろか、ゲームでいうバグとかフリーズとかいう状態!


「さくらちゃん……?」


「だれ……?」


 かろうじて一言発すると、今度は、むこうのわたしが「え? え?」いう顔になった。


「だれやのん?」


「え、いや、うちやんか、うち、法子」


「……のりちゃん?」


「うん、さくらちゃんおらんよって、寂しいて寂しいて」


 その仕草で、ピンときた!


 この子は幽霊ののりちゃんや! ほら、佐伯のお婆ちゃん。この本堂でお葬式やったあと、なんでか中学校の時の姿で出てきて、わたしのお念仏が間に合わんで記憶喪失になってしもた幽霊さん。


 そうか……幽霊としてのアイデンティティーを失った状態やったんで、わたしがおらへん寂しさで……。


「ちょっと、そこの鏡見てごらん」


「え、鏡?」


 素直に鏡に向き合うのりちゃんやけど、幽霊の悲しさ鏡には映らへん。


「え、ほんまにさくらちゃんの姿になってんのんわたし?」


「うん、ほんまにソックリ。ほら、横に立っても、身長とか、肩幅とかいっしょでしょ」


「そやけど」


「ちょっと、手ぇ見せて!」


「う、うん……」


 出した手の平を目の高さに持ってくる。


「あれ、いっしょやと思たんやけど」


 そっくりやから、手相までいっしょやと思たんやけど、ちょと違う。


「右手と左手比べてもしゃあないんちゃう?」


「あ、そか(^_^;)」


 改めて、右手どうしを比べる。


「「同じやあ……いっしょやいっしょや!」」


 


 なんか嬉しなってきて、手を取り合ってピョンピョン跳んだ。




 今年の秋は、へんなぐあいに始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る