第11話『桜の若葉が見たいなあ』
せやさかい
011『桜の若葉が見たいなあ』
体育の時間が自習になった。
体育は苦手やさかい、正直嬉しい(^_^;)。
教室でノンビリしてられるのか思たら「体操服に着替えてグランド集合! やて」体育委員でもある瀬田が教壇の横で不貞腐れたように言う。
着替えてグランドに行くと、学年主任の春日先生が立ってた。
「宇賀先生がご出張なんで、この時間は草むしりをやる。草むしるとこはマーカーで印ががつけてある。どこが当たるかはくじ引きや」
そう言うと、先生は、どこから持ってきたのか本格的なおみくじを引かせた。
「終わったら報告にくること。ちゃんとチェックしてるからサボったらあかんで」
そして、順番にくじを引いて、軍手とゴミ袋を渡される。
「ゴミ袋に、なにか付いてますけどぉ?」
「お御籤や。楽しみがあった方がハリがあるやろ」
おみくじを開いてみると――中吉・土に近きところに福あり――と書いてある。
他には――中吉・草むしりに幸あり――とか――中吉・草むしっても髪むしるな――とか、なんや変なんばっかり。
「中吉いうのは、中学生になって吉いうことや」
どうも、先生が作ったダジャレくじのよう。本格的なおみくじの紙に書いたあるから、一瞬ほんまもんかと思たんですけどぉ。
ニ十分ほどで草むしりを終えると、グランドで自由時間。
ボールを貸してもろてバレ-ボールやらサッカーをやる子もおったけど、さっきも言うた通り体育は苦手。
留美ちゃんといっしょに先生の横で日向ぼっこ。
話題が部活の事になったんで頼子先輩のことを聞いてみる。
「ああ、なかなかの奴やなあ夕陽丘は。部活の条件を三人にしてまいよった!」
先生は楽しそうに話してくれはった。
「まず、先生やらクラスメートと仲良しになるとこから始めよった。それから文芸部。五人集めなら部活にはでけへんねんけどな、夕陽丘はこう言いよった『先生の人数って、六十年前と比べて、どのくらいなんですか?』」
校長先生の話を思い出した。ほら、昔は体育館のフロアに収まらんくらい生徒がおったって。
「『今の倍くらいはいてたやろなあ、教師の数は生徒数に比例して配当されるからなあ』と答えてやった。するとな『部活の要件になってる五人というのも比例で考えなきゃいけないんじゃないでしょうか? 五人と言うのは体育館に入りきらないほど生徒がいた時代の基準ですから』。とっさに反論でけへん。『ま、そやなあ』と答えてしまう」
そうやって、あっさりと五人を三人にすることを認めさせた。えらい人やなあ……。
「桜の若葉が見たいなあ」
頼子さんがけったいなことを言う。
入部して四日目。留美ちゃんが得意な読書の話を振って、頼子さんが答える。すると、話題を広げて文学に興味の薄いわたしでも入っていける話に膨らませてくれる。
今も、留美ちゃんが西行法師の――願わくば 花の下にて春死なん その如月の望月のころ――なんちゅう難しい和歌の話をしたとこから膨らんだ。
「そだ、『八重桜』ってあだ名の意味知ってる? たしか漱石だったかの小説に出てくるんだよ」
「八重桜ですか?」
う~ん……乏しい知識を振り絞ってみる。で「八重桜ってどんなんですか?」と正直に聞き返す。留美ちゃんがコロコロと笑う。この子の笑いには悪意が無いんで、言うたわたしも笑てしまう。
「ほら、中庭の、あそこにある、遅咲き」
頼子さんが指差したところに普通の桜よりも濃いピンクの桜があった。
「八重桜って、花が開く前に葉っぱが開いちゃうんだよ」
なるほど、花と葉っぱがゴージャスにワッサカと茂っている。
「花……葉っぱが先に……」
留美ちゃんが真剣に八重桜を見つめる。
「分かりました! 出っ歯のことです!」
「ピンポンピンポン! 大正解!」
「え、なんで?」
あたし一人が分からない。
「ハナよりも前にハが出るからよ!」
「え? え?」
数秒遅れて分かった――鼻より前に歯が出てる――ちゅうダジャレですわ!
そこから「桜の若葉が見たいなあ」という話題になったというわけなんですよ。
それで、我が家の門の前に三人で立っている。
ほら、留美ちゃんのことを榊原さんと呼んでたころに、彼女が感激した桜を探しに行ったら、うちの境内にある桜やったってことがあったでしょ!?
「うわ~スゴイ(゜O゜)!」
一目見て感動する頼子さん。留美ちゃんは、自分の感動が伝わったことに感動し、葉桜もええもんやということを理解した。
「さくらんちって、お寺だったんだ!」
桜に感動しすぎて、お寺とわたしの家が結びつくのに時間がかかる頼子さん。
「如来寺って言うんだね!」
留美ちゃんも改めて感動。
「あ、山号(さんごう)が学校と同じだ!」
うちのお寺は『安泰山 如来寺』という。
「あんたいさん にょらいじ?」
ちょっと違う。安泰山と書いて――あんたさん――と読む。
「あんたさんって読むんだ!」
頼子さんの好奇心が感動と共に膨らんでいく。こういうときの頼子さんは不思議の国のアリスになってしまうようや。
「あら、さくら、お友だち?」
ちょうどコトハちゃんが帰ってきて、門前で大感動のあたしらを見つけた。
「あ、おんなじ文芸部の夕陽丘先輩と部員の榊原さん。こちら、従姉の詩(ことは)ちゃんです」
「「……………………!!」」
黒髪と金髪の美少女が互いに感動した瞬間でありました。
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