外法の村 十六 始まりの三兄弟

 惨劇の間となった部屋を後にして一行は先へ進む。


 次の通路はごく短いものだったが、それまでとは少し勝手が違っていた。

 これまでは自然にできた洞窟か、岩山をくりぬいたような感じだった。

 それが今度の通路は天井こそ自然の岩石だが、左右の壁も床もまっすぐでレンガが敷き詰められていた。


 それでいて幅二十メートル、高さ十二メートルというのは変わりない。

 一国の軍隊が観閲式でもやれそうな広さだった。


 一体、誰がいつ、こんなものを造ったのだろう。

 壁には等間隔で灯りがともされて、松明が必要ない明るさだった。


 ユニたちの頭は疑問だらけになるが、とにかく進むしか道はない。

 ほどなく次の部屋の入口と思われるところに到着した。


 そこには扉があった。

 分厚い木材に鉄の金具で補強された頑丈な扉。

 それ自体は珍しくはないが、驚くべきはその大きさだった。


 高さ十メートル、横八メートルほどの扉が二枚、そこにそびえていた。

「ねえ、あの取っ手。誰が使うのかしら?」

 ユニが指さす先、地上から五メートルほどの高さに、扉の巨大な取っ手が付けられている。


「俺が知るかよ。

 だが一応、人間用もあるみたいだぞ」

 ゴーマが手にした丸い金輪は、なるほど人が使うために付けられたもののようだった。


「だけどなぁー……。

 こりゃ、どう考えても無理だよなー」

 そう言いながら、ゴーマは体重をかけて金輪を引っ張ってみる。


 すると、思いのほか扉は素直に開き、力を入れすぎたゴーマは後ろにひっくりかえった。

 扉はそのまま、まったく音を立てずに開き続け、ぴったり九十度まで開いたところで自然に止まった。


「これも何かの術式なんだろうなー」

 ゴーマは尻をポンポンと叩きながら(床はまったく汚れていなかったが)感心したようにつぶやいた。


 扉の先はまた広場のような部屋になっているようだったが、これまでよりはるかに大きそうだった。

 オオカミたちが慎重に鼻づらを近づけ、中のようすを窺おうとして、ピタリとその脚が止まる。


『何かいる!』

 彼らの首の後ろあたりの毛がチリチリと逆立ち、強い緊張がダイレクトにユニの頭に伝わってくる。


「何がいるの?」

『わからん、初めて嗅ぐ臭いだ。

 だが、獣というより人間やオークに近い感じだな』

「敵意は感じる?」

『いや、今のところ殺気はない』


 ユニは二人にオオカミの言葉を伝える。同時に、オオカミたちが直感的にとんでもない相手だと感じていることも付け加える。

「敵意がないというなら……いや、あったとしても入るしかないだろう」

 ゴーマはそう言うと、オオカミたちとともに部屋の中へ足を踏み入れた。


 部屋はこれまでの倍近い広さがあった。

 奥行きもそうだが、天井もはるかに高かった。

 部屋全体に青白く弱い照明がともされていたが、どこに光源があるのかわからない。


 薄暗いうえに奥行きがあるので、それまでの明るい廊下から目が慣れるまでしばらく時間がかかった。

 オオカミたちは姿勢を低くし、体毛を逆立てて低い唸り声をあげている。

 そこには警戒の色と、明らかな恐怖が混じっていた。


 ゴーマが思わず驚愕の声をあげる。

「なんだ、あれは!」


 部屋の一番奥、何やら祭壇めいた石造物が置かれた背後の壁に、それは立っていた。

 どうやら人間型ヒューマンタイプに属する種族だということはわかった。


 ただ、巨大だった。

 身長は十メートル前後あるだろうか。横幅もたっぷりとあり、腕も、足も、腹も太かった。

 体はほぼ裸体。腰のまわりに申し訳程度の布きれを巻きつけている。


 肌は緑色に思えたが、よく見るとそれは体に生えたこけのようだった。

 巨人族なのは間違いなかったが、ユニにはどんな種類の巨人なのか見当がつかなかった。


「エンシェント・ジャイアント……なの?」

 エディスが呆然としてひとりごちる。

 それは太古より生き続けるという、神々より古い種族。

 もちろんこれまで召喚されたなどという記録はない。


 エディスの言うように、これがそんな伝説級の巨人だとは、にわかに信じがたかった。

 しかも三人も並んでいる。

 そしてさらに驚くべきことに、彼らの手首、足首には巨大な鉄のかせめられ、それに見合った太さの鎖で壁につながれていたのである。


「巨人の種類なんざ何でもいいが、どうして拘束されているんだ?

 一体誰にこんなことができるんだよ……」

 悲鳴にも似たゴーマの問いに、誰も答えられない。


 巨人たちはこちらの存在に気づいているようだったが、あまり興味がないのか、ただぼうっと前を向いて立っている。

 彼らをつなぎ留める鎖はある程度の長さがあり、少しは動き回ることができそうだった。

 ただ、両腕だけは例外で手首の枷から延びる鎖は短い。


 必然的に巨人たちは、両腕を左右に広げ、頭よりやや高い位置に上げた姿勢を取らずにはいられない状況だった。

 ゴーマは意を決して、大声で巨人に呼びかける。


「おーーーい!

 俺たちの言葉がわかるかー!

 お前たちは何者で、こんなところで何をしている?

 誰がお前たちを鎖でつないだんだ?」


 三人の巨人はゆっくりと顔をこちらに向け、しばらくゴーマたちを見ていたが、無言のまま再びあらぬ方向に顔を戻す。

「ダメか……。

 エルルも話が通じないと言っているが、エウリュアレやオオカミたちはどうだ?」


 エディスは首を横に振る。

 ユニもライガに確認する。

「彼らの言葉がわかる?」

『いや、さっき何か言ったようだったが、何を言っているのかさっぱりわからん』


 ユニはゴーマに答える。

「オオカミたちもダメみたい。

 どうする? 話が通じないんじゃ状況が全然つかめないわ」


「あの巨人の前にある石の祭壇。

 何かの儀式にでもつかう感じだけど、やっぱり魔術的な実験なんじゃないかしら」

 エディスの意見は何となく納得できるが、それを確かめるすべがない。


 三人が途方にくれていると、部屋の臭いを嗅ぎまわっていたジェシカとシェンカの姉妹がユニの側に寄ってくる。


『ねーねー、ユニ姉ー』

『ねー』

「ごめん、今はあんたちと遊ぶ暇はないから」

『どーしてあのおじちゃんたちとお話ししないのー』

『ねー、〝始まりの三兄弟〟ってなにー?』


「ホントごめん。ちょっと黙ってて。

 話ができたら苦労しないのよ。

 〝始まりの三兄弟〟ってのも知らないから!」

 また姉妹がわけのわからない言葉を口にするので、ユニは少しイラついて、声も大きくなる。


「え?

 ……ユニ先輩、今なんて言いました?」

 突然エディスが驚いた顔で話に割って入る。


「何って、このたちが〝始まりの三兄弟〟って何? って聞いてきたのよ。

 なんなの、それ?」

 エディスは少し考え込み、何かを思い出すように目を閉じると、高くよく通る声で詩を暗唱しはじめた。


  が生まれしは 始原の山

  世に火をもたらした者なれば


  が生まれしは 母なる海

  あまねく命を生む者なれば


  が生まれしは 黄泉よみの国

  えいを守る者なれば


  そこに有りて そこに無し

  永久とわにめぐりて 消ゆるのみ

  そは始まりの兄弟はらからなれば


 朗々と響くエディスの詠唱が終わると、広い部屋を再び静寂が支配する。


 巨人たちは興味をひかれたようにじっと彼女の方を見ている。

「ちょっとエディス。

 それ、なんなのよ?」


「エンシェント・ジャイアントのことを歌った古代詩の一節です。

 伝説ですけど、彼らの種族は〝始まりの三兄弟〟と呼ばれる、山、海、地下から生まれた三人から始まったと言われています。


 ――希少なエンシェント・ジャイアントの中でも神のような存在で、すべての巨人族の始祖、永遠に生き続ける不死の巨人だと言います。


 ――それを〝始まりの三兄弟〟というのですけど……。

 本当に存在したんだ……。

 でも、なぜユニ先輩のオオカミがそれを知っているんですか?」


『お姉ちゃんの歌、知ってるってー』

『懐かしいってー』


 ジェシカとシェンカの言葉にユニは慌てた。

「ちょっ、ちょっとあんたたち!

 あの巨人の言葉がわかるの?」


 姉妹は不思議そうな表情で首をかしげる。

『ユニ姉、わかんないのー?』

『父ちゃんもー?』

 ユニはちょっとしたパニックに陥った。


「ライガ、どういうこと?

 あんた言葉がわからないって、さっき言ったわよね?」

『今だってわからんぞ。

 どうやらジェシカとシェンカだけに理解できるようだな』


 機嫌の悪そうなライガを助けるように、姉妹の実母であるミナが少し考えて意見を述べる。

『このたち、身体は大きくなったけど、頭の中はまだまだ子どもでしょ。

 ひょっとして子どもには巨人の言葉が伝わるのだとか……』


『母ちゃん、ぴんぽーん!』

『そのとおりだってー』


「そのとおりって……。

 じゃあ巨人の方は、私たちの言葉も、あんたたちの考えていることもわかるっていうの?」


『そだねー』

『そだよー』

 ユニは慌ててこのことを二人に伝える。


 ゴーマはあからさまにホッとした表情を浮かべる。

「話が通じるならこの際何でもいい。

 頼む、ユニ。

 このたちに通訳をさせてくれ」


『それだめー』

『こうりつが、敵じゃないってー』(効率的じゃない)

 その提案はすかさず姉妹に(というより巨人に)却下された。


『ねーねー、ユニ姉ー』

『おじちゃんたちが、あたしたちを貸してくれってー』

『着雪のほうが楽だってー』(直接の方が楽)

『どーするー?』


「あんたたちの身体を貸せってこと?

 あんたたちは平気なの?」

 心配そうなユニの声に、姉妹はぱたぱたと尻尾を振って応える。


『へいきー』

『よーそろー』

 ユニは巨人の方を見上げると大声で問う。


「このたちに危険はないのでしょうね?」

 三人の巨人はゆっくりとうなずく。

「わかりました。

 それならお願いします」


 ユニの言葉と同時に、姉妹たちの様子が変化する。

 見た目は変わらないが、急に大人のオオカミになったような、そんな落ち着きを感じさせる雰囲気が漂っている。

 やがて、ユニの頭の中に再び姉妹の声が飛び込んでくる。


 声の高さや質はジェシカとシェンカに変わりはないが、その口調は年寄りそのものだった。

 ユニはその言葉をそのまま声に出して、ゴーマとエディスに伝える。


『やれやれ、この仔オオカミたちがいてくれて助かったわい』

『昔はもっとわれらの言葉を知る者がおったのじゃがのぉ』

 巨人たちがオオカミ姉妹の声音でぶつくさ愚痴を言うのは、聞いていてものすごい違和感があった。


 ひとしきりあれこれ愚痴を言ってから、やっと巨人たちは会話を始める気になったようだ。


『さてさて、小さき者どもよ。

 ちょうど退屈しておったところじゃ。

 少しばかり話し相手になっておくれ』


「退屈って……。

 あなたたち、そんな鎖でつながれて平気なの?」

『この鎖か?

 こんなもの、わしらにはなんの意味も持たんよ』

『ただなぁ、何やら強い術式に縛られておって、当分は動けそうにないのじゃ』


「――まって、ちょっと最初からやりたい。

 いい?」

『偉そうな娘じゃなー。

 まぁ、よい。好きにせい』


「それじゃ、まず。

 あなたたちは何者?

 本当にエンシェント・ジャイアントなの」


『お前さんたち、さっき言うとったじゃろ。

 〝始まりの三兄弟〟って。

 わしらこそがその三兄弟じゃ』


『そっちの娘さんは、よくわしらを歌った詩を知っておったな。

 なかなかよい声だったぞ。

 続きは歌えるのかね?』


 エディスは少し困惑した顔で答える。

「いえ、あの詩は冒頭の一節しか伝わっていないはずです。後は失われてしまったと……」


『そうか、そうか。

 あの詩は百三十二連まであっての。

 壮大な叙事詩じゃよ。どれ教えて進ぜるから、わしに続いて唱和……』


「ストップ!

 悪いけどそれは後にしてちょうだい」

 いつもの姉妹の甲高い声なのに話がなかなか進まないのは、無性にイライラしてくる。


「話を元に戻すわよ。

 あなたたちが三馬鹿大将かなんかだということはわかったわ。

 それでなんでこの世界にいるの?

 誰かに召喚されたの?

 それとも〝穴〟のせいで迷い出てきたの?」


『う~ん。その辺はわしらにもはっきりしないのじゃが……。

 何かの強力な術式で呼び出された感じだったの』

『あれは人が使えるようなものではなかったと思うぞ』

『どこぞの世界の神とか魔王とかの秘術ではないかの』


「あー、すまない。

 多分そいつはアルケミスっていう爺様がやったんだと思う。

 このじじい、異世界の堕天使――悪魔の知識を分け与えられた奴でな。

 そん中にあんたたちを呼び出す術式があったんだろう」

 苦虫を噛んだような顔でゴーマが釈明する。


『なるほどな。

 だが、その老人にはもう術を使わせない方がよいぞ。

 わしらが呼び出される時に、かなり多くの生贄の魂が消費されたようじゃ。

 限りある命の人間が、そのようなことで無駄に死んでいくのは感心せんぞ』


「あんのクソ爺い……!

 道理で村に人がいないわけだ!」

 吐き気がするような話だったが、今となってはどうにもならない。

 あの老人は自らの心に巣食った悪魔の種を何十年もかけて育て上げ、とうとう本物の悪魔になってしまったのだろう。


 ユニは気を取り直して質問を続ける。

「それで、あなたたちはここで何をして、いや、何をさせられているの?」


『それなのじゃが、どうもわしらの身体を触媒として何かを召喚しているらしいのじゃ。

 その術式がこの世界と異世界をつないでいるので、わしらはそこに挟まれて身動きできないでおる』


「一体、何を召喚したの?」

『直接見たわけじゃないからよくわからんが、虫のようじゃったよ』

「虫って、あの足が六本ある虫?」


『いや、足はなかった。えーほら、幼虫? 芋虫みたいなやつじゃな』

「なんか、急に話がしょぼくなってきたわね。

 それでその芋虫はどこにいるの?」


『ここにはおらんよ』

「じゃあ、どこにいるの?」

『そこまではわからん。どっかへ飛んでいったからの。

 じゃが、面白かったぞ。

 召喚の魔法陣が作動して、異世界がつながったと思ったら、魔法陣が二重になっていての。


 ――魔法陣の下から転送陣が浮かび上がってきて、そのまま召喚した芋虫をどこかへ飛ばしおった。

 あれはなかなか見事な仕掛けであった。


 ――しかもわしらを縛っておる魔法陣まで仕込まれていて、三連の多重魔法陣となっておるようじゃ。

 ここまで見事に練り込まれた魔法陣は、わしらでもそうお目にかかったことがないぞ。

 これもその悪魔の知識とやらじゃったのかな?』


「ちょっ、待って。

 魔法陣とか転送陣って……。

 ちょっとあなたたち、背中を見せてちょうだい!」


 巨人たちは『うるさい娘じゃのう』とぶつくさ言いながらも、意外に素直に背をこちらに向けてくれた。

 巨人の背には、外法印が入れ墨のように刻み込まれ、線刻が青白い光を放っていた。


 おそろしく複雑で込み入っている。

 文字も記号もごちゃごちゃして読めないのは、巨人たちが言うとおり魔法陣が三重になっているためらしい。


「待ってよ。

 エンシェント・ジャイアントを触媒にして、この大きさの外法印で召喚するって……!

 ねえ、その芋虫ってどのくらいの大きさだったの?」

 エディスが声を震わせて尋ねる。


『大きさ?

 そうだのう……。

 高さはわしらの倍まではないが、わしらよりは高かったな。

 長さはわしら兄弟三人分まではいかないが、二人分よりは長かったな』


「それ、芋虫じゃないわよ!

 クロウラって化け物だわ。

 しかもそんな大きいのって……!」

 青ざめた顔でエディスがつぶやく。そんな怪物が送り込まれたら、四神獣でも止められるかどうかだ。


「ねえ、あんたちがその芋虫を呼び出したのって、いつのことなの?」

『ここにいると日にちがどうのというのがわからんのだが……。

 多分まる二日は経っていると思うぞ』


「くそっ、入れ違いか!

 そういやアルケミスの爺いめ、『思ったより早かった』とか言っていたのはこのことだったのか」

 ゴーマは悔しがる。


 王国はどうなっているのだろうか。

 四神獣がいるからそう簡単には城を抜かれないだろうが……。

 とにかく状況がわからないのが最悪だった。

 アランが折り返しで戻ってくるにしても、早くて明日のことだろう。


「ねえ、この召喚を止める方法はないの?

 それとか、あんたたちを元の世界に帰す方法は?

 何かできることがあったら教えてちょうだい」

 ユニが巨人に大声で尋ねる。


 その声でゴーマもエディスもわれに返る。

 今、自分たちができることは、この召喚を止めることだ。

 いや、われわれ以外にこの危機を止められる者はいないのだ。


『そう言われてものう……。

 さっきも言ったが、わしらは背中の魔法陣に縛られておるから、ここから出られんのじゃ。

 わしらが死ねば、この召喚を止めることも可能だろうが、あいにくわしらは不死の存在での。

 首をねられても死なんのじゃよ』


「なら、その背中の魔法陣を消せばいいんでしょ?

 あんたたちには悪いけど、刃物で背中の皮膚をはぎ取るとかすれば……」

『すまんのお。それは試してみた』


「え?」

『兄弟の背中の皮を引きはがしてみたんじゃが……』

「手で?」

『いや、このとおり手は届かんので歯で齧り取った。』

「え? 齧ったって……。

 いや、ちょっと、そんなことして痛くないの?」


『あー、心配いらん。

 わしらは自分の知覚をコントロールできるのじゃよ。

 痛みがあると事前にわかっていれば、意識を切り離してそれを感じないようにすることができる。


 ――それでな、背中の肉ごと引きはがしてみたが、べりべりと皮がめくれるそばから再生してしまう。

 すぐに魔法陣ごと元通りになってしまったのよ』


 巨人族の再生能力はよく知られているが、それにしても痛そうな話だとユニは顔をしかめる。

「じゃあ、エウリュアレの石化ならどう?」


『そこのゴルゴンの娘か?

 無駄じゃな。

 わしらはゴルゴンよりもずっと古い種族じゃ。

 あの蛇娘どもの呪いは、わしらには通じないのだよ』


 その時、ふとユニが気づいた。

「ねえ、エウリュアレだったらクロウラを石にできるじゃない!」

「無理ね」

 エディスの答えはそっけない。


「どうしてよ?」

「クロウラって、そもそも目がないもの」

「あ……」

 魔導院では〝幻獣分類学〟といって、さまざまな種類の幻獣の特徴などを学ぶ課程がある。

 ユニはあまり熱心な生徒ではなかったが、エディスはこの分野に精通しているようだった。


 ――打つ手なし。

 三人は黙り込んでしまった。

 オオカミたちが心配そうな眼差しでこちらを見ている。

 エウリュアレはエディスの背でまだ目を覚ましていない。

 エルルも大きな目を見開いてゴーマの肩から見守っている。


 ん? ……エルル?

 ――もしかして!


 ユニは振り返って巨人に尋ねる。

「ねえ、ゴルゴンの石化は効かないって言ったけど、ドラゴンのブレスはどうなの?」


『おお、ドラゴンか。

 龍の一族もわしらと同じくらい古い生き物じゃからの。

 ブレス自体の効果はあると思うぞ。

 ただ、それでわしらが殺されるということは決してないがな』


「それだけ聞ければ十分!」

 何とかなるかもしれない。いや、これに賭けるしかない!


 ユニの顔には決意の色が浮かんていた。

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