戻ってはこない日常?
気付いたら朝になっていた。
あれから寝てしまってたんだな、俺は。
昨日は相当泣いた。
その影響で、どういう流れで寝たかはよく覚えていない。
摩夕も俺が寝たのを確認してから、戻って行ったのだろうが、それさえも俺の記憶からは消えていた。
はぁー。
もちろん、気持ちは相変わらずだ。
涙を出し続けたこともあってか、少しスッキリしていたものの、現実を受け入れることはまったく出来ていなかった。
とりあえずさっさと下りるか。朝ごはんの支度も出来てるだろうし。
俺は体をゆっくりと起こした。
「あら、おはよう」
ばあちゃんのいつもの声が俺の耳に入る。
そういえば、この声を聞くのも久しぶりな感じがする。
昨日はばあちゃんの声も聞こえないほど、混乱していたしな。
「おはよう、ばあちゃん」
「昨日は大丈夫だったかい?」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「いやいや、いいよ。元気になったのなら、何よりだよぉ~」
本当にばあちゃんのゆったりとした話し方は、心を落ち着かせてくれる。
こういう人が一人でもいることによって、どれほど助かるか。
「それより今日も学校なんだろ。早くご飯食べな」
「ありがとう」
ついでに言うと、友の死のことには触れないようにしてくれているのかもしれない。
そういう気遣いが出来るのも、またばあちゃんらしかった。
「さーて。テレビ、テレビっと」
ばあちゃんが、いつものようにテレビをつけてくれる。
いつもの朝のニュースである。
落ち込んでいたので、あまり耳に入って来ないかもしれないけど、とりあえず聞いておこう。
「今朝、お伝えするニュースはこちらです」
ニュースのラインナップが表示される。
そのトップニュースに俺は目が止まった。
もちろんそれは俺だけではないだろう。
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『レスウイルス 明日にも終息へ』
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ついにその日がやって来るというのだ。
いまだに謎はたくさん残されているが、ひとまずは終息するということになったらしい。
「良かったねぇ。これでまよちゃんの歯も元に戻るんだねぇ」
「うん……。そうだね……」
「あっ……、ご、ごめんね」
「あっ、大丈夫だよ」
どうやらばあちゃんは俺の事情をわかっているらしい。
でも時折忘れてしまうようだ。
そりゃ、ばあちゃんはヒロちゃんとは関係がないのだから、当然だろう。
「ばあちゃんだって、そのガスマスクが辛いって言ってたんだから良かったじゃん」
「そんな。私は別に辛くないよぉ」
「無理はしなくていいよ。俺自身もものすごく息苦しかったし、不便だったし。でもこれでやっと楽になれるね」
「う、うん。そうだねぇ」
俺は、ばあちゃんに罪悪感を持って欲しくはなかった。
ばあちゃんは今まで、一生懸命俺を見守ってくれたし、助けてくれたのだ。
その信頼が揺らぐことはないし、これからも信頼し続けたいから。
ただ俺としては、余計に悔しさが募るような報道であったことは確かだった。
確かに明日ウイルスが無くなるというのは嬉しい限りだ。
しかしそれは言い方を変えれば、あと三日耐えていればヒロちゃんは死ななくて済んだということでもある。
この事実がわかってしまったというのが、本当に皮肉である。
元に戻るのは嬉しいことだが、元に戻る人もいればそうでない人もいる。
その現実がやはり悲しく感じる。
「もうすぐ学校でしょ~。早くお食べぇ」
ばあちゃんが俺を急かす。
ぶっちゃけ俺は、また少し泣きそうになっていた。
だけどもうこれ以上泣いているわけにもいかないので、俺は急いで食事をして、さっさと出ようとした。
相変わらず食事はしづらいが、とりあえずこれも明日には元に戻るのだろう。
黙々と食事をしていたら、あっという間に平らげることが出来た。
ニュースはまだ途中ではあったが、俺は急いで支度をして、すぐに玄関まで走った。
「ふぅ。じゃあそろそろ行ってくるわ」
俺は気持ちをなんとか落ち着かせて、学校に行こうとする。
「じゃあ、行ってきま……」
「ちょ、ちょっと」
いきなりばあちゃんが俺のことを呼び止めた。
「こっちに来て」
「どうしたの、ばあちゃん?」
「早く! こっち来て」
理由はわからないが、これだけばあちゃんが慌てるのは、摩夕が歯を失った時以来だ。
何があったのだろうか? 俺はばあちゃんのところに駆け寄る。
「ほら。これを見て」
ばあちゃんはそう言って、俺にテレビを見るように勧めた。
ぶっちゃけ急いでいるので早くしたかったが、ひとまずばあちゃんの言うようにテレビを見ることにした。
――!
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