本当の脅威

『レス病』


 レスというのは英語で『~ない』という意味である。

 この病気を引き起こすとされるのは、『レスウイルス』という新種のウイルス。

 このウイルスが体のどこかの部位に付着したり体内に入り込むと、そのウイルスに侵された体の部位が失われてしまうのである。



 ――体のどこかの部位に付着したり体内に入り込むと、そのウイルスに侵された体の部位が失われてしまう。



 ――体内に入り込むと、失われてしまう。



 そう。この病気は体内に入り込むということもある病気だったのだ。

 アイレス病やハンドレス病、それに摩夕が感染したデントレス病などは、付着したことに伴って発症したものだった。

 これならば確かに死ぬことはなかっただろう。

 しかしこのウイルスの恐ろしいところは、体内に入り込む可能性もあるということだった。

 それはすなわち、体内にある臓器や骨、さらには筋肉や脳にも入りこむ可能性があり、それらに付着をすれば、それも失われてしまうのだ。

 そしてそれは人間が生きていく上で必要不可欠なものも同じである。

 そしてヒロちゃんの死因はハートレス病。

 つまりウイルスが着いた先は、心臓。

 一番着いてはいけないところに、ウイルスが付着してしまったのだ。

 人間は心臓がなくなったら生きていけない。

 着いた時点で致命的だったのだ。

 この病気は死をもたらすほどの、重いものだったということだ。


 その後、生徒たちの何人かが気を利かせようと、ママ友での話から聞いたヒロちゃんの当時の状況を教えてくれた。

 はっきり言う。俺は別にそれを求めていたわけではなかった。

 でも頭にどうしても残ってしまっていた。

 悲しい現実だ。

 ヒロちゃんは一昨日の時点では、普通に元気だったそうだ。

 そりゃそうだ。俺は昨日帰宅する姿を見ていたのだから。

 それでその日の夜は、いつものように学校の話をしていたらしい。

 そして次の日、つまり昨日になっても朝は元気よく過ごしていたそうで、俺を遊びに誘おうともしてくれていたそうだ。

 とてもこれから死んでしまうようには思えない。

 しかし朝ごはんを食べ終わり、自分の部屋に戻ろうとしていた時に、異変が起きた。


 バタン!


 リビングから自分の部屋まではわずか数メートルの距離だったが、その廊下で突然うつ伏せに倒れたそうだ。

 要は突然死と同じだ。

 家族は最初、ただ転倒しただけだと思い、様子を見に行かなかったそうだが、数分後に廊下の方に行き、倒れているヒロちゃんを発見。

 心肺停止の状態で病院に搬送された。

 そこで心臓マッサージを行い、人工呼吸も行い、AED(自動対外式除細動器)も使用したそうだが、結局息を吹き返すことはなかったそうだ。

 そしてその後、家族の話から担当の医者がハートレス病を疑い、レントゲンを撮ったところ、心臓が無くなっていることがわかったという。

 そんな状態で心臓マッサージをしたって、人工呼吸をしたって、AED(自動対外式除細動器)を使ったって、そもそも動く物がないのだからどうしようもない。

 こうしてヒロちゃんの死亡が確認され、家族に引き取られたそうだ。

 今でも遺体は家族の元にあるらしい。



 俺は顔を見せてやりたいから行きたいという思いもあった。

 しかしやっぱり死んだことを認めたくなかったから行きたくないという思いもあった。

 もう頭の中はグチャグチャだ。

 まだ心の整理が出来ていなかったのだった。

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