異世界転生?

 早いものであれから次の日の朝を迎えた。

 このところはスッキリとした天気が続いている。

 ただ昨日のこともあったので、まだ疲れていた。

 ……眠い。実に眠い。

 ただ、いざ起きてしまうと不安になるので、鏡を見て確認する。

 体のおかしいところは……。

 うん。特に無さそうだ。良かった。

 そう思って安堵すると、現実に戻される。

 あぁ、学校があるからまた急がなきゃいけないな。

 そう思って鏡の近くにあった時計を見た時に気付いた。

 あれ? 

 今日、日曜日じゃん。

 そういえばそうだった。

 昨日あれだけヒロちゃんに日曜日であることを伝えていたのに、疲れていたりすると自分も忘れてしまうものだなぁ。

 そしてそれが自分の家にあった、日付表示のついた時計を見て気づくとは。

 だいぶマヌケになってしまったものだ。

 でも今はそんなことはどうでも良い。

 これで今日こそ寝れるじゃん。

 ラッキー!

 このところ本当に寝れてなかったから、ここで寝られるのは実に嬉しい。

 摩夕もまだ寝ているだろうから、世話をする必要も特にないだろう。

 もしかすると、ヒロちゃんから遊びの誘いが来るかもしれないけど、そんなの無視すればいいだけの話だ。

 というか、お前のせいで寝れなかったんだから、それくらいはさせろっちゅー話だし。

 とにかくこんなチャンスはめったにないんだ。

 ということで俺はもう一度布団に入る。

 まだ出てきて五分も経っていないので、まだ温もりが残っているではないか。

 はぁ~、温かくて気持ち良い。

 今日はこのまま本当に寝かせていただきます。

 というわけで、おやすみなさーい。











―――――――――――――――――――――――――――――――――――――











 ピチャン。


「う、うん?」


 俺は頭に水が滴り落ちたような気がして、目を覚ました。


「何だよ。気持ち良く寝てたのに……、って、あれ?」


 俺はあることに気づく。

 ここは、どこだ?

 気づいた時、俺は仰向けに寝ていたのだが、上には大きな木がある。

 自分の部屋で寝てたはずなんだけどなぁ……。

 しばらくぼんやり見ていると、水が落ちてきた。

 どうやら水が落ちてきたのはあそこからだったようた。

 体を起こすと、目の前には大きな湖が広がっている。

 その透き通った水は、本当に汚れが一つもないように見えた。

 奥に見える山は、人が手をつけていないように見える。

 その連なった木々は、自然に出来たものという感じがしないが、それが返ってきれいに見えるのだった。

 俺は目の前の景色があまりにもきれいなので、もっと近くで見たいと思い、吸い込まれるように湖の方へと向かった。

 近くで見ると余計にきれいなのがわかる。

 はぁ~、気持ち良いなぁ。

 そう思ってふと右を見ると、そこには桟橋があり、一人の女性がたたずんでいた。

 こんなところで何をしてるんだろう?

 別に釣りをするわけでもなく、ただただ湖を見つめているようにしか見えない。

 ただそのきれいな佇まいに、俺はまたも吸い込まれるようにそちらへと足を運んだ。

 背中付近まである長い髪は金髪で、湖の水よりもきれいに見えた。

 服装は純白のワンピースで、そこに金髪がかかることによって、余計に髪が輝いて見える。

 その姿が近くなればなるほど、俺はさらに吸い込まれていくような感覚に陥った。

 どんどん近付いて行く。そして思わず声をかけてしまった。


「女神様!」


 はっきりとこう言ったが、ぶっちゃけこの呼び方が正しいかどうかなんてわからない。

 でもその見た目は間違いなかった。


「女神様!」


 また声をかけた時だった。

 そっと長い髪をなびかせてこちらを振り返った。


「どうなさいましたか?」


 俺は絶句した。本物の女神様だ!

 顔は朝日の逆光のせいで見えづらいが、容姿はすごく美しかった。

 金髪も朝日の光を浴びたことで、黄金に光り輝いて眩しく感じる。

 こんな女性、見たことがない。だから女神様で間違いないのだ。


「え、えっと……」


 俺は女神様を前にした途端、頭が真っ白になり何も話せなくなってしまった。

 すると女神様はそっと近づいて来た。

 そして俺の頬に触って、顔を耳元に近付けた。


「一緒にこの湖畔を周りませんか?」

「は、はい!」


 されるがままの状態だ。

 もうどうにでもしてくれ!

 そうして二人で湖畔を歩く。

 あぁ、なんて幸せな時間なんだろう。

 左を見ればきれいな湖。

 右を見ればそれよりもきれいな女神様。

 飽きる要素などまったくない。

 最高の時間である。

 ずっとこんな時間を楽しんでいたいなぁ。

 そしてしばらく歩いた時に女神様が突然こう言った。


「あそこの木に珍しい鳥が止まっていますよ」


 そう言われたら自然とそちらを見てしまう。

 だって女神様が言うことだから。

 俺が見ると本当に鳥が止まっていた。

 鳩くらいの大きさだが、女神様の着ているワンピースのように純白なのが特徴的だ。


「本当に……、きれいですね。でも……」


 言おうとしたことがあったけど、伏せておこう。


「しばらく見ていましょうか」

「はい!」


 俺と女神様は鳥たちをしばらく見ていた。

 でもどうしても隣が気になってしまう。

 一度だけなら……、一度だけなら別にいいかな。

 そう思って隣を見る。

 やっぱり美しい。湖を堂々と見ている姿は、守り神のように見える。

 俺にとっては女神であろうが守り神であろうが、どちらでも良い。

 美しい神様であることに変わりはないのだから。

 しばらくしてあまりにも女神様に見とれてしまっていたことに気付いた。

 いかん、いかん。嫌われてしまったら――。

 俺は改めて鳥の止まっている木の方を見る。

 すると一羽の鳥がこちらに向かってきた。

 純白のその姿は、とても美しい。

 その純白の鳥は、これまた純白の女神様の腕にしっかりと止まった。


「この鳥は可愛らしい鳴き方をするんですよ」

「へぇ~。ぜひ聞いてみたいです」


 すごく興味があるわけではありませんが、女神様が言うなら興味が出てきました。


「では鳴いてごらんなさい」


 女神様が合図をする。

 さて、どんな美しい声で鳴いてくれるんですか?



「ひがあああああああああああああああ!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






「ひゃ!?」


 なんだ、なんだ、いきなり!?

 ここは……、俺の部屋?

 これはいつも寝ているベッド。

 上にかかっているのはいつも使っている布団。

 つまり先ほどまで目の前に広がっていた湖は?

 先ほどまで隣を歩いていた女神様は?


「……夢か」


 なんだ。やっぱり夢だったのか。

 そりゃそうだよな。

 あんな風景も、あんな女神様も存在するわけがないからなぁ。

 でも、もう少し見たかったなぁ。

 それこそ女神様とあんなことやこんなこと、したかったなぁ。

 それにしてもなんでわざわざ起こされなきゃいけないんだよ。

 今日は疲れてるから、もう少し寝ていたいのに。


「ひがあああああああああああああああ! (いやあああああああああああああああ!)」


 ……!?

 って違う!

 そうじゃない!

 今の声は、摩夕の声だ。

 間違いなく摩夕の声だ。

 何か緊急事態が起こったのか。

 とにかく急がねば!


「まよ! 今行くぞ!」

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