宇宙戦史(1)
宇宙戦闘の歴史を紐解けば、統一戦争当時に戻らなくてはならない。
衛星兵器や往還宇宙機が主流だった時代、武装といえば炸裂弾頭を持つミサイルなどの物理弾が主役であり、にわかにレーザー兵器が頭角を現し始めていた。
しかし、宇宙戦における物理弾頭は弾足が遅く、軌道の予測しやすい兵器でしかなかった。レーザー兵器の開発が進み、信頼度や出力が増すに至り、容易に撃破される兵器へと没落していく。
時代は探知砲撃戦へと移行していく。より早く敵性兵力を探知し、先にレーザー砲撃を行ったほうが勝利を得る戦闘が主流になった。
その中では探知が重要な位置を占め、逆に探知させない技術、電子戦も高度に発達していく。宇宙空間を舞台にした巧妙なかくれんぼが当然の戦場だった。
そこへ大きな革新が訪れたのはレーザー攪乱層の開発である。自機の周囲に磁場を展開。その中にレーザーを散乱させる霧を噴射し、ともに移動する技術である。
これにも出力の強化と散乱度の強化という鼬ごっこ的な競争が行われたものの、最終的にはレーザー攪乱層が勝利し、レーザー砲門の時代は終焉を迎えた。
この間に統一戦争が終結し、戦時技術開発も停滞の時が訪れていた。ジャンプグリッドが発見され、航宙技術のほうへと注目が移る。
しかし、ゼフォーン、バルキュラの移民成功が報じられ、三星連盟が樹立。その支配体制が本格化する気配を見せ始めた進宙歴250年頃から反攻勢力も姿を見せ始める。時代遅れなレーザー砲門を使用してゲリラ作戦を展開する反攻勢力に対し、三星連盟が投入したのはイオンビーム砲だった。
このイオンビーム砲はレーザー攪乱層では防御できず、反攻勢力を一掃していく。連盟の圧倒的な戦力の前に、各地の反乱はいとも簡単に瓦解していった。
情報統制により反攻勢力の蛮行ばかりがクローズアップされ、これが三星連盟が支配を強化する口実ともなり、情勢を加速させていったのだった。
三星連盟はイオンビーム砲の成功だけで満足しない。砲そのものの強化として重金属集束イオンビームへと進化させていく。と同時に、技術流出を懸念して防御法の確立も模索していた。
電磁偏向力場が発明されて、長距離ビーム砲撃から艦艇を防御する機構が戦場に投入される。この力場は長距離攻撃を無効化してしまい、探知砲撃戦という思想を否定してしまった。
次に訪れたのはイオンビーム砲を搭載した小型宇宙機による近距離砲撃の時代である。電磁偏向力場が作用し切れない近距離からの砲撃が有効であると考えを基に、戦艦には多くの小型宇宙戦闘機が搭載されるようになり、その攻撃により敵艦の撃破をするのが主流へと変化していったのだ。
大艦巨砲主義が衰退した戦場には数多くの宇宙戦闘機が飛び交い、互いに交戦しつつ敵艦へと接近し、撃沈させるのが目的へと変わっていく。戦艦は、偏向力場を持たないものの、小回りの利く戦闘機をいかに素早く撃墜するかが課題となる。そうなると人力では追い付かず、精密射撃が可能な三次元レーダー自動照準システムの開発が加速していった。
戦場は戦闘機の投入数で勝敗が左右されるようになり、パイロットの命が消費される場所へと様相を定めつつあった。
その状況に一石を投じたのが進宙歴321年のゼムナ遺跡の発見である。336年の人型戦闘兵器アームドスキンの登場は戦場を一変させてしまった。
従来、戦闘兵器の運用において、人型である必要は無いと考えられていた。技術的なハードルもあったが、それが開発が遅々として進まなかった原因でもある。
宇宙空間では大推力を持つ戦闘機が有効であり、地上戦では不整地でも運用の容易な多脚式戦機が主流になっていたのだ。
しかし、実際に試作された人型戦闘兵器は驚くほどの機動性を示した。
同時期に遺跡技術の転用から生まれた操縦補助装具
しかも、
腕部に装備された磁場形成型イオン噴射還流盾、ジェットシールドはイオンビームからさえ機体を防御できる。長距離砲撃でアームドスキンを撃破するのは非常に困難だ。
そこへ進宙歴327年から実用化されていたターナ分子のうち、レーダーを含めた電磁波を変調させる化合物ターナ
三次元レーダー波は無効化され、レーダー照準など不可能になる。敵性勢力探知はレーザースキャンか、ジャンプグリッド探査で培われた重力場検知しかない。前者は自機の位置を容易に特定させ、後者は検出できる相対位置に大きな誤差が生じる。
その条件は、戦場を有視界戦闘の時代に逆行させてしまう。光学機器の進化で前時代まで引き戻されることはないが、大きな後退だ。
こうしてアームドスキンが闊歩する戦場は、光学観測可能範囲内でしか戦闘ができない場所へと移り変わっていった。
そんな中、三星連盟を揺るがす事変が勃発する。
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