宇宙開拓史(2)

 単なる偶然だった。


 その宙域では時折り不明船が出ているのは確かだったものの、他宙域でも事故は一定数発生している。データの偏りの一つだとされていた。


 ただ、その事故船舶には、冒険好きな政府高官の子弟が乗船していたのだ。

 捜索が徹底的に行われる。その最中に、更に不明船が出るとなれば異常事態だと確認される。綿密に原因調査が行われる最中、それが観測されたのだ。


 或るポイントに向かっていた捜索船が消失した。僚船がその様子を記録している。現場に集結した捜索船団は、注意深く接近するが何も起こらない。ただし、センサーはかなりの異常を訴えている。そこは空間的に異常なポイントだと確認された。


 速やかに招集された天文学者が出した結論は、そこがワームホールになっているというものだった。ただ、接近しても変化がないことから、一定条件下でしか作用しない特殊なワームホールであると推測される。宇宙軍から派遣された艦艇がその解明に投入された。


 集めうる限りのセンサーが監視する中、実験が敢行される。僚船が観測した消失船の持つ様々なファクターの中で、等しい速度でポイントに突入した時、軍艦は消失した。

 そして、事態の確認が為される中、二時間後に復帰してきたのである。不明となった捜索船二隻と遭難船を連れて。

 勇気ある乗組員に喝采が叫ばれるも、この事実は大きな影響を社会に与える一事となった。


 進宙歴212年のことである。


   ◇      ◇      ◇


 それから十二年が経過した進宙歴224年。 


 時空連結点と考えられたワームホールの研究は進み、更に発見も相次いだ。第二惑星であるゴートから第四惑星ドルバまでの250光秒の空間に、実に28もの時空連結点が観測されたのである。


 この時空連結点の跳躍ルールを学んだ人類は、当然それを利用することを考える。しかも都合の良いことに、跳躍先からは近傍に大気を待つ移住可能惑星が発見されるケースがあまりに多かったのだ。

 ジャンプグリッドと呼ばれるようになった時空連結点を使用する宇宙開拓の歴史がここに始まったのだった。


   ◇      ◇      ◇


 植民が本格化した十五年後の進宙歴239年、時代を大きく揺るがす事態が発生する。


 跳躍先でも数多く発見されたジャンプグリッド。その到達点に、かの移民船団が到着した惑星が相次いで二つも確認されたのだ。一つは惑星ゼフォーン、もう一つは惑星バルキュラと名付けられていた。

 長き年月を経て邂逅した人類同士は再会を喜び、ジャンプグリッドによる交流が始まる。移民惑星では既に惑星国家が樹立していたのである。


 進宙歴250年。

 協議を重ねたゴート、ゼフォーン、バルキュラの各政府は三星連盟を結び、新たな宇宙開拓の道へと邁進する。


 しかし、その四十一年後の進宙歴291年、もう一つの移民惑星アルミナの存在が確認される。当然接触を図った三星連盟だが、あまりに特殊な政治形態、王制を敷いていたアルミナ政府は三星連盟との交流は承認するも、連盟への加入は拒んだ。少し距離を置く惑星国家として存続したのである。


 拡大の一途を辿る人類圏に興隆を求めた三星連盟は、他の植民惑星に供出を求めるようになった。資源の独占管理を始めたのだ。

 支援の必要な植民惑星はそれを受け入れ、三星連盟による権力は徐々に浸透していく。連盟による支配体制が確立されていった。


 そんな国際情勢の中、再び時代の転機がやってくる。


   ◇      ◇      ◇


 惑星ゼムナへの植民が開始されたのが進宙歴317年。そして、その地下から先住文明の遺跡と思われるものが発見されたのは四年後だった。


 発見当初は驚愕を持って迎えられた。それは全高22mにも及ぶ人型機械。

 構造そのものは現行技術でも再現可能なもの。ただし、技術的問題点はクリアできずに実現されていない巨大人型兵器。技術者は、その遺跡に群がって解析を始める。


 その結果、進宙歴325年に新技術として実用化に至ったものの一つが反重力端子グラビノッツ。重力に対して反力を生み出し、物体の重量を軽減する機能を有した機構である。

 軽量化を求めれば格闘戦を行えるような強度は望むべくもなく、軍事転用可能なほどの構造強度を求めれば駆動が困難になる二律背反に陥る巨大人型兵器は実用化困難とされていたのだが、この反重力端子グラビノッツが全てを解消した。


 もう一つはσシグマ・ルーン。搭乗者が装着する装具で、常時装着者の動作とその時の脳波を検出・学習することで、人型機械の操縦の簡易化が可能。

 σシグマ・ルーンは機体同調器シンクロンと連動することで操縦を補助する。ただし咄嗟に手を掲げたり飛び避けるなど、人間には反射だけで行う動作もある。それらは実際に直接操作する形で操縦系が構築されていった。


 遅れること二年、動力系から抽出された素材からとある性質を持つ分子構造が解明された。

 研究者の名前からターナ分子と名付けられた物質は、電磁波の波長を変調させる性質を持つ。これも画期的な発見で、ターナ分子化合物は有害な放射線を光へと変調させる。人類は動力源である対消滅炉から放たれる放射線や有害宇宙線から解き放たれたのである。


 こうして開発された巨大人型兵器は「アームドスキン」と呼ばれるようになる。戦闘用の宇宙服の拡大版として、スキンスーツと対比する形で呼称が決まったのだ。


 宇宙開拓史にアームドスキンが登場し、人は宇宙を戦場へと変えていった。

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