第5話 消えたパンツ
「遊理くん……? 大丈夫? どんどん顔色が……悪くなっているけど」
悟られちゃいけない。知られたくないっ!
俺が彼らを殺したということをっ!!
俺は過呼吸寸前の呼気を無理やり止め。瞼を閉じて数回深呼吸した。
「ごめん……もう大丈夫」
「無理しないで。男の子だからって堪えることないよ。あんなの……怖すぎて当然だよ」
そう言った真夜ちゃんは、何故か下半身をもぞもぞとさせて、恥ずかしそうに俯いた。
ん……? どうしたのだろうと真夜ちゃんの下半身に目を向けると。
スカートをギュッと握り締めるているのだが、そこからポタポタと雨漏れしている。
「……あっ」
「言わないでっ! だって仕方ないじゃない目の前で人が殺されたのよ自分が殺されるかもしれないのよしっ、ししし、失禁だってするわよっ!!」
突然声を荒げたと思ったら、物凄い早口で失禁は当然の結果だと言い放っている。
もちろん。俺は失禁したことを馬鹿にしたりはしない。
現に俺は泣き喚き、吐いている。
それは非常にみっともなく無様だろう。
だけどあの状況で泣かない奴や、ゲロ吐かない奴がいるのなら、そいつは軍人か何かに違いない。
少なくとも一般市民の反応は、俺や真夜ちゃんの反応だと思う。
でも、俺が言いかけたのはそんなことじゃない。
失禁は全然いいのだが、問題はその強烈な臭いだ。
先ほどのオークは鼻をクンクンさせていた。あれは間違いなく人の臭を嗅いでいたに違いない。
だとすると、失禁は不味い。
さっきは運良く返り血まみれのオークだったから、鼻が利かなかったけれど。返り血を浴びてないオークもいるかもしれないし、オークの鼻の良さは個体差があるかもしれない。
もし、そんな奴等と出くわし、強烈なアンモニア臭を漂わせていたら……確実にアウトだっ!
だけど……とても……非常に……物凄く……その、言い難い。
けど、言わなければ。俺は死にたくないのだからっ!
「真夜ちゃんっ!」
「は……はい。……なに?」
「えっと……その……ゴックりっ」
生唾を飲み込み、緊張から鼻息が荒くなってしまう。
「パパパ、パンツ……」
「パンツ……?」
小首を傾げる仕草はとても愛らしいのだが、そうじゃない!
言うぞ。思い切って言うぞっ!
「パンツ脱いでっ!」
「ひぃっ!?」
軽く飛び跳ね体をビクつかせて、赤面してはドン引きしている。
その証拠に一歩二歩と俺から遠ざかっていく。
言い方が不味かったのかな?
それとも、自分だけ脱ぐのが嫌なのか?
「わかった。俺も脱ぐから真夜ちゃんも一緒に脱ごうっ!」
「なっ、ななな、何言ってるのよっ、この非常時にっ! 遊理くん変態さん過ぎるっ! それに私まだ経験がないんだからっ!!」
へっ、変態っ!? 経験がないっ……!?
何を勘違いしてるんだっ!
とはいえ……処女なのか。へへ。
てっ、そんなこと言ってる場合じゃないっ!
「真夜ちゃんは何か勘違いしているよ! いいかい、俺が言ってるのは――」
俺は真夜ちゃんの誤解を解くために、全力で説明した。
その途中、見る見る紅潮していくのは自らの勘違いに気付いたからなのか、それはわからないが。
「紛らわしいのよっ!」とお怒りだったことから察するに、多分図星だろう。
ま、その甲斐あって、どうやら真夜ちゃんも納得してくれたみたいで、パンツを脱ぐことを決意してくれたようだ。
が、何故か俺をじっと見つめている。
そしてさらに、熟れたトマトみたいに赤くなっていく。
それはそうと、真夜ちゃんの髪はとても綺麗だな。
清純を絵に描いたような姿。
長く胸元まで伸びた濡れ羽色の髪は、木漏れ日を受けて艶やかな天使の輪をつくり、サラサラと風に揺れている。
潤んだ栗色の瞳は、お人形さんのように大きくて愛らしい。
きっとこの澄んだ瞳で見つめられれば大概の男はコロッと言いなりになるだろう。
胸なんかも大きすぎず小さすぎず、出るところは出て、引っ込むところはしっかりと引っ込んでいる。肌も初夏の日差しを跳ね返してしまいそうなほど白くて、キメが細かい。まさに美少女だな。
しかし、早く脱いだらいいのに……中々脱がないな。
「ねぇ、遊理くん」
「なに? どうしたの? まさか脱ぐの手伝えって言うんじゃ」
「そんな訳ないでしょっ!!」
俺が言い終わる前に言葉を被せ、怒気を上げた。
「後ろ向いてよっ! ガン見されながらパンツなんて脱げないわよっ!」
「そっ、そそそ、そりゃそうだよね」
「まったく。遊理くんあんまりモテないでしょっ!」
「……」
慌てて背を向けると、真夜ちゃんはとんでもなく失礼極まりないことを口にしている。
だけど、言い返すことができない。
それは俺がモテないからじゃない。
真夜ちゃんの声音に怒りみたいなものが感じられたから……言い返さない方が賢明だと判断した、結果だ。
まるで小姑のようにいつまでも文句を言っているのは、きっと恥ずかしいのを隠すためじゃないかと、俺は思う。
すると――
《MFポイント1獲得》
えっ……!? どういうこと?
何故か意味不明にMFポイントが加算されたのだが。なんで?
確か……MFポイントはミスフォーチュンポイント。つまり不幸ポイントだろ?
誰かを不幸にするたびに、俺にポイントが入る仕組みなのだが……。
そうかっ! わかったぞっ!!
真夜ちゃんがパンツを脱ぐという不幸を俺が誘導したからかっ!!!
しかし、真夜ちゃんがノーパンになったのに1ポイントだけとは……ケチくさい。
そもそもこのポイントの振り分けはどういう基準なんだよ。
事故とは言え、二人……死に追いやって25ポイント×2。
さらに、その後二人死んで30ポイント×2。
このポイントが高いのか低いのかわからないが、なぜ5ポイントも差が生まれたのだろう?
同じ命には変わりないのに……さっぱりわからん。
「もう、こっち向いていいよ」
考え事をしていたら、どうやら真夜ちゃんがパンツを脱ぎ終えたらしい。
振り返った俺は真っ先に真夜ちゃんの下半身に目を向けてしまった。
それがダメなことだとわかっていたのに、なんで俺は見ちゃったんだろう。
そのせいで真夜ちゃんの綺麗なお顔に皺が刻まれていく。
「もうっ! 遊理くんっ!!」
「いや、ごめんっ! わかってる、わかってるっ! 今のはその……動物的習性と言うか……その……とにかくごめんなさいっ!」
「遊理くん、大人になったらセクハラで訴えられるよっ!」
「……気をつけます」
今の一言は結構ショックだけど……ま、言われて当然だと自分でも思う。
それにしても……脱いだパンツはどこにやったのだろうか?
めちゃくちゃ気になるけど……聞いちゃいけないよね。わかってる!
「とにかくここを移動して、誰か探さなくちゃ。先生とかが居ればいいんだけど……」
真夜ちゃんの言う通り。早いとこ移動した方がいいな。
さっきのオークが戻ってくる可能性もある。
でも、先生が居たところで意味はなさそうだけど……。
ま、口は災いの元って言うから、余計なことは言わないでおこう。
こうして俺は志乃森真夜という仲間を獲得して、森の中を移動すると、
「ユーリ殿っ! ユーリ殿っ!!」
「この声……」
明智光秀……か。
まったくどうでもいい奴と再会した。
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