第3話男の影

草木も眠る丑三つ時

そんな時間に蠢く影が一つ


「っ!」


影のすぐ近くをナイフが通った


「なんの用ですかね?こんな時間に」


僕はナイフを構えながら影を見る

視線の先はあの依頼人だ


「あなたが何者かは知らない。でもあなたが黒なら僕は手加減はしない」


睨みつける

男は黙ってこちらを睨み返している

その瞳には何か強い意志を感じる

それは殺意かそれとも別の何かなのか


「随分澄んだ瞳ね。やはりあなたの目は盗めなさそうね」


男は答えた

だが軽い口調だ

やはり腹が読めない


「いいわ、教えてあげるわ。私の目的。その澄んだ瞳に免じてね」


「……」


本当にこいつなんなんだ?

あと声は男だがこいつ女口調になってないか?


「そもそも名前すら名乗ってなかったわね。私の名前は…西麗早苗よ」


「は?」


「もちろんこの世界の西麗早苗とは別人…10年後の未来のね」


なんなんだこいつ

そもそも未来でも西麗さんは女だろ


「西麗さんがなんでこんな汚い男になるんだよ」


「汚い男ね…あなたは未来の自分をそう表現するのね」


「…お前は本気で何をいっている」


「私は真実を語っているだけ。この体はあなたのもの


「だった?」


「今あなたの体は私の意志によって動いている。ただそれだけよ」


「ますますお前の言っていることがわからん」


「それもそうね、順を追って話するわ。10年後の未来でもあなたは私の側にいたわ。ただある時私は体調を崩したわ。その時はただの風邪だと思った。けどそれは惨劇の前兆だったわ」


…惨劇?

西麗さんは何をするんだ…?


「私はその日の夜なんとなく月を見るため外に出たわ。そして理由もなく月を眺めていたわ。すると後ろからあなたが話しかけてきたわ。すると視界が突然歪み出したわ。そして気がつくとあなたの腹には魔法で貫かれた跡、私の手には魔法の弾があったわ」


「…僕は死んだのか?」


「そうね、私の意志ではなかっようなものではあったけど私はこの手であなたを殺したわね」


あっさり肯定した

そのあっさりさに恐怖を感じずにはいられなかった

こんなに残忍な人に変わったのか…


「それからあまり私もよく覚えていないわ。ただ何かの衝動に駆られた記憶だけはあるわね。そして正気に戻れた頃には何もなかったわ。私の体は血まみれ。そして私が立っていたのはおそらく人里。ただ街は残骸とバラバラに引き裂かれた死体だけだったわ。おそらく私が殺したのでしょうね。その時はただ棒立ちすることしか出来なかった」


「……」


「それから私は考えたわ。この惨劇は回避出来なかったのか…。ただ原因は分からず仕舞い。そして…答えがこれ。過去の私を殺す。それが結論」


「待て。お前の話が正しければ僕は死んだはずだ。ならば何故お前は僕の体を利用できている?そもそも時を戻すことも出来ないはずだ」


「……単純よ。死者蘇生の術と時間転生の術を使っただけよ」


「し…死体を…」


「そう…そもそも考えたことをやるには厄介なことがあった。1つは私の肉体がそう長くは生きれないこと。私は全てを破壊してまともな食糧はなかった。そして傷もあったため意識がなくなりかけたことが何度もあった。2つ目は時間を遡ることは禁忌の術。取り込むには時間を要する。だが私の体は長くない…それで考えたのが死者蘇生。死者蘇生と言っても意識までは戻らない。だからあなたの体を蘇らせて憑依した。ただそれだけ」


「…お前は僕を利用したのか」


「そうよ。死者蘇生の術でも限度がある。大半は無惨な死体ばかり役に立たなかった。でもあんたの死体はまだ綺麗な状態だった。あなたの死因は魔法の弾が刺さっただけだから利用可能な範囲だった。だから使用したのよ」


その時こいつの手から何かが落ちた

いや、垂れているのか?

水のようにポタポタ落ちている

血?

いや血にしては黒い

薄汚いヘドロようなものが垂れている


「これは…!?」


その時僕はこいつの顔を見た

こいつの顔も…

ヘドロになっていた

化け物…

そんな言葉以外表現出来なかった


「……もう腐敗が始まったのね。少し長く喋りすぎたかしら。あなたを2度も手を掛けるのね。どこか心が痛い気もするけど…でも…矢は放たれたのよ」


が投げた魔力弾は僕の周りを1周した

そのあと宙へと飛んでいった

僕には未来が見えた

この弾が落ちてくる

西麗さんがよく使う技だ

何故この技を……化け物が……


ドゴォォォ!


凄まじい爆発音と共に僕の体が空を舞う

これが死ぬということなのか

案外痛くないものだ

ただひたすら目の前の光景が白くなっていく


そう…ただひたすらめのまえが…

まっしろに…

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