第3話

街道を西に向かって歩き2時間ほどすると遠くに城壁みたいなものが見えてきた。


「きっとあれがスベリンという街だろう」


城壁が見えてから30分程で街の門にたどり着いた。真下から見た城壁は立派なもので高さは5m程もあった。


「すごい。 本物の城壁だ。 やっぱり魔物とかが出るから町を城壁で囲んでいるんだろうか?」


そんなことを考えながら街にはいる列に並んでいると修一に門番が話しかけてきた。


「身分証明書を出してくれ」


「すみません。 田舎から出てきたもので身分証明書は持っていません」


「それにしては荷物は持っていないんだな」


修一は慌てて言い訳を考える。


「あー、えーとですね。 ここにくる途中でちょっとした出来心で街道をそれて森の中に入ったんです。 そしたらフォレストウルフに囲まれまして、荷物などは放りだして逃げてきたんです。 その時に剣以外の荷物を失いました」


門番はかわいそうな者を見る目で修一を見ていた。


「大変だったんだな。 これにこりたら危ないまねはするんじゃないぞ」


「はい、わかりました」


「身分証明書も持っていないんだな。 随分田舎から出てきたようだな。 犯罪履歴を調べるから詰所まで一緒に来てくれ」


修一は門番の言うままに詰所まであとをついて行く。詰所に入ると椅子に座らされる。正面には門番が座る。


「これから仮の身分証明書を発行する。 この水晶に触れろ。 この水晶でステータスと犯罪歴を調べる」


机の上には直径20cmほどの水晶が置かれている。修一は水晶にかるく触れる。すると水晶は白く光を発した。


この水晶が赤く光ると罪を犯した者だと判断される。罪状も詳しく表示されるらしい。


「犯罪歴はないようだな。 名前はシュウイチというのか。 おれはエバンスだ。 朝から昼の3時までは門番をしている。 よろしくな」


「こちらこそ宜しくお願いします」


エバンスは水晶から得た情報をもとに仮の身分証明書を記載していく。


「よし、これで仮の身分証ができた。 銀貨1枚になる。 お金は持っているな」


「はい」


修一はポケットなら出すようにして【亜空間倉庫インベントリ】から銀貨を取り出してエバンスに渡す。


「仮の身分証明書の有効期限は一週間だ。 それをすぎると罰金として銀貨1枚が必要となる。 それまでには身分証明書を準備しておくように」


「分かりました。 でもどこで身分証明書を作れば良いでしょうか」


「そうだなー。 職人になるんだったら職人ギルドに入れるし商人なら商人ギルド、冒険者なら冒険者ギルドで会員証を発行してもらえばいい。 どちらにも属すことが無いのなら街の役場に行ってちゃんとした身分証明書を発行してもらうんだな」


「いろいろ教えていただいて有難うございます」


「なあーに、気にするな。 ようこそスベリンへ」


そう言って街へ招き入れてくれた兵士さんにお礼を伝え、冒険者ギルドの場所を聞きそこへ向かうことにした。


 言われたとおりに大通りを進むと、異世界でおなじみのエルフやドワーフに獣人など様々な種族が目に入ってきた。なかには首に首輪が嵌められてみすぼらしい格好をしているものもいる。


「きっと、奴隷だな。 この世界のは奴隷制度があるんだな」


しばらく大通りを歩いていると大きめな剣を交えた看板を掲げる建物を見つけた。


「ここだな」


目印の看板を見つけて両開きの木製のドアを開いて中に入ってみると正面に受付があり建物の右には酒場が併設されていた。マンガやラノベで想像していた通りの光景に胸が弾む。


見たまま冒険者という筋骨隆々な男や魔術師のような格好をした人。様々な人がいる。


ちなみに受付に座る女性は皆美人である。みんな美人なのである。これは非常に重要なことなのである。


とりあえず美人は緊張して話せなくなりそうなので、一番空いてるおばちゃんがいるカウンターに向かった。美人は怖い。


「すみません。あのー。 冒険者になりたいんですが」


「ん? なんだい坊や。 冒険者になりたいのか? ヒョロッとしとるが、大丈夫かねぇ?」


人の良さそうなおばちゃんは腰に手を当て、仁王立ちの姿であるが、心底心配している顔でそう述べた。おばちゃんから見たら修一は子供に見えるのだろう。


「はい、少しは戦えると思うので大丈夫だと思います。それに自分の力でお金を稼ぎたいので……」


「そうかい? まあ、登録は自由だし、止めることはできないんだけどねえ」


「大丈夫です、登録お願いします」


「はいはい、わかったよ。だがねえ、このカウンターは買い取りカウンターなんだ。 登録はあっちの担当なんだよねえ」


美人たちの並ぶカウンターを指差しながらおばちゃんは困ったように言った。


「えっ?」


修一はいきなりミスって、恥ずかしい思いをした。


「ははは、そんなに驚かなくてもいいだろう。 ここにも書いてあるしねぇ」


ちゃんとカウンターの上にも買い取りカウンターと書いてあった。痛恨のミスである。


それはそうと、この世界の文字……英語のようなギリシャ文字のような見たことのない文字だが、修一は問題なく読めるようだ。この発見があっただけいいとしようと思った。



「まあ、今は暇だし、私がやってあげてもいいよ、登録」


そんなことを考えていたら、おばちゃんはそう言ってくれた。


「ありがとうございます! よろしくお願いします」


かなりの勢いで修一はお辞儀をした。


はっはっはっと笑いながら了承してくれるおばちゃん。臨機応変な対応……仕事のできる女だ。


「とりあえずこれに名前と使用武器や使用できる魔法なんか書いておくれ」


差し出された紙に、名前と武器、魔法を書いていく。

文字が読めたから書けるかなあ、と楽観的に思っていたが、問題なく書けた。書こうと思う字と、書いてる字が違うし、見たことない文字をかけてしまう自分はまさに天才なのではないかと疑う。


馬鹿である。


武器は剣、魔法は風と書いておいた。


「書けました。お願いします」


「はいよ。お、剣がつかえるのかい? それに風魔法使えるなんて、あんた優秀だねぇ。 将来が楽しみだ」


手際よく登録手続きをしながらそう言ってくれた。


「ははは、そんなにたいした魔法は使えませんし、器用貧乏です」


修一はとりあえずそんなことを言っておく。


「はい、この針で指を少し刺してこのカードに一滴血を垂らしておくれ」


「わかりました」


血を垂らすと、カードに染み込むように消えていき、一瞬パァッと明るく光る。


「はい、これで登録は完了だよ。あとは冒険者ギルドについて説明があるけど聞くかい?」


「はい、お願いします」


おばちゃんが説明することを、要約すると、冒険者ランクはFから始まり、E、D、C、B、A、Sと上がっていく。


主な仕事は討伐、採取、護衛などで、たまに学園の講師や貴族の子供などへの家庭教師のような仕事もある。Cランクからは指名依頼があり、なにかしらの問題がない場合以外は断ることはしないで欲しいが、断ることもできるとのこと。


討伐などは魔物のランク、難易度によって依頼のランクも決まる。依頼の失敗には罰金があるので、自分の力量をよく考えて受けることが大切だが、難易度が明らかに依頼ランクを超えていた場合はその限りではない。依頼は自分のランクの1つ上のランクの依頼まで受けることができる。


だいたいこんなところだった。あとは常識の範囲内の行動をすれば大丈夫とのこと。犯罪や、ギルドに対して明らかに不利益になるようなことをした場合は強制的に除名となる。冒険者同士の争いにギルドは不関与。決闘の見届け人となることはあるが、基本は本人同士での解決してもらうということだ。


「うん、だいたいわかりました。 ありがとうございます」


「はい、頑張ってランクアップしなよ! まあ、怪我したり死んだりしたら元も子もないから無茶は厳禁だがね」


(よし、とりあえず登録も出来たし、なんか依頼受けて金稼がないと、今日の宿代もないや。あ、そういえばゴブリンの魔石とかあるんだった)


「おばちゃん、来るときにゴブリンとか倒してきたんだけど、魔石とか売れるかなあ?」


「おや、あるのかい? あるなら買い取るから出してみな」


俺は【亜空間倉庫インベントリ】からゴブリンの魔石を7個にスライムの魔石を4個にカウンターのトレイに乗せるとフォレストウルフ5匹をカウンターの下に取り出した。


「ほぉ、なかなかあるじゃないか。 空間魔法も使えたんだね。 全部自分で、倒したのかい? やるねえ。 だけどフォレストウルフは裏の倉庫の前で出してくれるかい」


「わかりました」


修一はフォレストウルフを【亜空間倉庫インベントリ】に仕舞うとおばちゃんの後を追いかけてギルドの中を通り抜けて裏口から倉庫にむかった。


「ここに出してくれ」


倉庫の前に着くとおばちゃんの指示に従って【亜空間倉庫インベントリ】からフォレストウルフを取り出す。


「それで良いよ。 さあ、カウンターにもどろうか」


フォレストウルフを倉庫の前にだすとおばちゃんはカウンターに戻っていった。修一も一緒に戻る。


「それじゃあ、計算するよ。 ゴブリンの魔石は7個で7,000ルビー。 スライムの魔石は5個で2,500ルビー。 フレストウルフは5匹、魔石、毛皮、肉込みで75,000ルビー。 合計で84,500ルビーにねるね。 新人にしちゃいい稼ぎだね。 本当に期待の新人だよ」


そう言いおばちゃんはお金を渡してきた。そのお金を修一は【亜空間倉庫インベントリ】に仕舞う。


「とりあえずなんか依頼を受けてみようと思うんですけど、なんかいいのありますか?」


おばちゃんにとりあえず受けれそうな依頼について聞いてみた。


「そうだねぇ……ゴブリンもグレイウルフも討伐できるなら外出ても大丈夫だろうし、今日のところは初めての依頼だから常時張り出されている、薬草の採取、魔草の採取、ゴブリン討伐なんかはどうだい?」


常時張り出されている、とくに依頼を受ける申告のいらない依頼を教えてもらったので、それを受けることにした。


「じゃあ、それやってみます。薬草と魔草ってどんな葉っぱなのか教えてもらえますか?」


おばちゃんに葉の特徴を聞くと、カウンターの下から本を出して、薬草と魔草の特徴について教えてくれた。


「これとこれだよ。 似たような形の葉っぱもあるけど、ここに持ってきてくれればちゃんと見分けつくから少しくらい間違えて持ってきたって大丈夫。 心配せずに持ってきな。

薬草は1つ100ルビー、魔草は120ルビー、ゴブリンは魔石が1つで1,000ルビーになるよ。 薬草と魔草は根ごと持ってきて、状態が良ければ上乗せされるから頑張りな。

依頼の完了報告はあっちのカウンターだからね? 討伐証明部位をあっちに出して、依頼完了報告と報酬をもらってからこっちで素材と魔石の買い取りをするんだよ」


修一は初の冒険者としての依頼に胸を弾ませた。


「ありがとうございます。それじゃあ行ってきます」


「はいよー、気をつけてねぇ」


「あ!おばちゃん、名前なんて言うですか?」


「あら、あたしったらまだ自己紹介もしてなかったかね? すまないね、私はハンナだよ! よろしくね、シュウイチ」


「ハンナさんですね、よろしくお願いします。 それでは今度こそ行ってきます」


笑顔で送り出してくれたハンナさんに手を振りながら、ギルドを出て街の外へ向かう。

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