第653話 バレてた!?

 ――明くる日の朝の食堂にて。


「昨夜はお楽しみでしたね」


 定番のセリフを言ってのけたのは、朝食が運ばれてくるのを待っているティナである。ツヤッツヤ肌の女性たちと体力の回復が間に合わなかったのか、怠そうにしているジョンを見てからの一言だ。


「ハハッ、だいぶ搾り取られたようだな」


「良かったね、ケビン君。これでハーレム王仲間が増えたよ」

「ハーレム王同盟?」

「なんか面白そー!」

「うふふ。魔王と同盟だなんて、歴史上初の快挙じゃないの?」


 食堂へ来るなりケビンたちから好き勝手言われているジョンだが、怠さマシマシで反論する気力さえない。


 その理由として、昨日はジョンが反撃を開始してからはいい試合運びとなっていたのだが、如何せん人数が多過ぎたのだ。


 調子に乗っていたジョンが次々と女性たちを満足させては取っかえ引っかえしていたものの、女性たちが欲しいのはジョンから与えられる快感もそうだが、本命はジョンの子種である。当然のことながら女性たちは、一人一人がそれを欲した。


 ゆえに、いくらラバスが5回もできると驚愕していたジョンの精力だったのだが、女性たち全員にするとなると話は変わってしまう。


 だから昨日のジョンは頑張った。それはもう、今までにないほど頑張った。そして、頑張って頑張って枯れ果てた結果が今の状況なのだ。


「なあ、おめぇは何でそんなにピンピンしてやがる? どうせおめぇも嫁相手にしたんだろ?」


 ここにはジョンとケビン以外にも嫁である女性たちがいるというのに、デリカシーの“デ”の字もないジョンの物言いなのだが、それくらいで機嫌を悪くするほどケビンたちは狭量でない。見ず知らずの他人ならいざ知らず。


「スキルのおかげだな」


「体力回復系か?」


「体力というよりも精力が尽きなくなる感じだな。オークとかが持っているスキル系統だ」


「魔物のスキルを持ってやがるのか!?」


「いやいや、魔物限定のスキルじゃないぞ。人族だって普通に持っている奴は持っている。いわゆるそっち方面に特化したやつで、中には【性豪】ってのがあるな」


「【性豪】……」


「まあ、お前もこれから女性たちを代わるわる抱いていけば、いつかは身につくだろ。早い話が回数をこなせばその分だけ、それ系統のスキルが身につく」


 ケビンとジョンがそのような会話をしていると、朝食の準備が整ったのか食事当番の女性たちが配膳をしていき、その配膳が終わったところで食事が始まる。


 すると、その頃には男二人の下ネタ話も終わりを告げていて、軽い世間話を交えながら朝食の時間が過ぎていくのだった。


 そして、朝食後のティータイムにて、ジョンがケビンのこれからの行動について探りを入れると、それに対してケビンは特に行動を秘密にする必要性もないことから、魔大陸の冒険を続けていくことをジョンに教える。


「おめぇ、ここよりも更に西側を目指すのか?」


「何か問題でもあるか?」


「……いや、俺としちゃあ問題はねぇが……マジでここから先はヤバいぞ。ここら辺は中堅クラスの魔王の領域だが、西に向かえばゆくゆくは古参である真の魔王たちの縄張りに入る」


「強い敵がいるなんて面白そうじゃないか」


 ついついバトルジャンキーな部分が出てしまったケビンの物言いに対してジョンは唖然としてしまうが、真っ当な意見を出してケビンの危うさを指摘した。


「おめぇが死んだらどうすんだ? 嫁さんたちが路頭に迷うんだぞ? 皇帝というのなら国も混乱に陥るだろうが」


「そこは問題ない。危なくなったら転移で逃げるしな」


「は……転移?」


 聞きなれない言葉に首を傾げるジョンだったが、ケビンが説明とともにティーカップを転移させる実演を行ったおかげで、ジョンは転移について知ることができたのだった。


 だが、それと同時にジョンはその有用な魔法が欲しくなり、どうやったら使えるようになるのかと質問攻めをしたが、ケビンの答えは「お前には無理だ」という簡潔なものであった。


「だいたい、お前は魔法関係の鍛練とかしてないだろ。ステータスを見たらそれくらいわかる。基礎の“き”の字もできてないじゃないか」


「き……基礎だと……?」


「魔法にも人それぞれの適正ってのはあるが、全く使えない人は除いて何かしら努力した形跡ってのは残るもんだ。お前のステータスにはそれがない」


「いや、俺だって魔法を使うやつらの真似をして努力はしたぞ。その形跡がねぇってことはねぇだろ。そもそも、どうやって俺のステータスを知ったんだ? 魔導具ってやつか?」


 ここにきて、ジョンは何故ケビンが自分のステータスの内容を知っているのかと疑問を呈したが、ケビンがそれに答えるともう何度目かわからないくらいの驚愕を味わわされるジョンだった。


「非常識過ぎるだろ……」


 もう疲れたと言わんばかりのジョンの呟きは、ケビンにとって既に慣れてしまっているリアクションであり、全く動じる気配すらない。


「そもそもお前は体を変化させて戦うスタイルなんだから、わざわざ魔法を覚えなくてもいいだろ。手や腕を銃火器に変化させて遠距離攻撃ができるんだしな」


 だが、ここで引かないのがジョンである。特にラノベ知識などは要していないのでロマン云々は横に置いておくとしても、実際に人が魔法を使っているのを目の当たりにしては、使ってみたいと思うのが人としてのさがだろう。


 ゆえに、何とかならないものかとケビンに対して相談してみると、ケビンはヤレヤレといった感じで教本の複製をジョンへと渡した。


「それは人族社会における学校の教科書だ。ミナーヴァ魔導学院と言ってな、魔法関係のエキスパート校とも言える。そこのありがたい教科書をお前にやるから好きに学べ」


 しれっと自領のエレフセリア学園ではなく、他領の、しかも親戚関係にあるエムリス国王の国のミナーヴァ魔導学院の教本を渡してしまうケビン。


「本気で学びたい時はミナーヴァ魔導王国の首都へ向かうといい。入学に年齢制限はないから、大人でも生徒として入学できるぞ。ちなみにミナーヴァ魔導王国の場所は、お前が召喚された国の神聖セレスティア皇国から見て北東の方角にある」


 万が一、自国にあるエレフセリア学園に来られるのを防ぐため、ケビンはご丁寧にミナーヴァ魔導学院の場所までジョンに教えたのだが、完全に面倒なことが起きた場合の責任放棄とみえる。


 だが、そのようなケビンの思惑など、ジョンは知る由もない。そのジョンから見たケビンの評価は、『意外と良い奴だな』という勘違いからの高評価であった。


「そこまでしてやったんだから、俺は心置きなくこの城を冒険中の拠点として使うぞ」


「ああ、この城は好きに使ってくれて構わねぇ。部屋は昨日使った部屋をおめぇ専用として周知させておく」


 ケビンは思わぬところ……もとい、狙っていた活動拠点を手に入れ、逆にジョンは内政や教本を手に入れたことにより、しれっとお互いにウィン・ウィンの関係を築いてしまったようだ。


 その後、ケビンたちは魔王城近辺の探索に向かい、ジョンは配下の者たちを集めて、昨日から放置している勇者問題について周知徹底させていく。


 やはり魔王だと思っていた者が、実は勇者であったという問題について混乱が後を絶たなかったが、ジョンが今まで通り魔王城を根城として領土を治めていくことを伝えると、配下の者たちはすんなりと受け入れることは難しいが各々納得していく。


 と言うよりも、むしろ納得するしか道がないのだ。配下の者たちが反旗を翻そうにも、ジョン相手に勝てる道筋が見えてこないからで、腑に落ちないが腑に落とすということをしているだけに過ぎない。


 更にジョンは昨日戦ったケビンたちについても説明を行い、客人として魔王城に滞在することと、決して戦いを挑むなということを徹底させた。だが、それでも戦いたい者については、命の保証はしない旨を明確にして、自己責任で戦うように注意喚起する。


 そして、極め付きは魔王城に住む女性たちの待遇である。ジョンからの説明により、今までアプローチを繰り返していた狼人族や魔人族たちは地面を叩き、涙する。しかも、かなりの人数がだ。


「そりゃねぇよ、魔王様っ!」

「俺たちの夢を返してくれ!」

「勇者云々よりも、そっちの方がショックだ!」

「嘘だ、嘘だと言ってくれ!」


 これにはジョンもドン引きである。勇者という正体を明かした時よりも、配下の者たちのどよめき方が半端ない。


「俺が連れてきた元村人の女性たちはわからねぇが、ここに囚われていた女性たちがてめぇらになびくことはねぇぞ。貢物として捕まえられてからは、自由を奪われていたんだからな。てめぇらを恨みこそすれ、好意を抱くことは断じてない」


 ジョンからの言葉によって、抗議していた喧騒がやんでしまう。配下の者たちも、色々と自覚しており思うところがあるようだ。


 だが、たとえ思うところがあっても納得いかないのは事実であり、行き場のない気持ちは原因を作った者へと向かっていく。


「だいたい先代魔王が悪いんだよ……」

「今どき貢物とか流行んねぇよ……」

「でも、逆らえねぇし……」

「下っ端は辛い……」


 あちらこちらから聞こえてくるボヤキ……。それらを見てあまりにも不憫に思えたジョンは、配下の者たちへちょっとした希望を見いださせることにした。


「落ち込むのはまだ早ぇぞ。これから先、領土内の村を魔王城の近郊に移転させる。守るべき者たちを手の届くところに置くわけだ。そうなると、どうなると思う?」


 ザワザワ……ザワザワ……


「ここを首都とするのなら、首都の周りに人が住み始める。首都を大きくして、そこに住まわせることだってできる。当然、若い女たちも来るぞ?」


「「「「「――ッ!」」」」」


「まあ、それらのことはてめぇらの働き次第だけどな。てめぇらが何もしないんじゃ発展なんてしようがねぇし、人なんて集まることすらねぇ」


「「「「「魔王様っ、何なりとご命令を!!」」」」」


 配下の者たちによる鮮やかなほどの手のひら返しは、先程まで愚痴っていたのは何だったのかというくらいの、活気に満ち溢れたものだった。


 とてつもなく不純な動機によりやる気を見せている配下の者たちだが、ジョンとしては思い通りに働いてくれるのなら細かいことは気にしない方針とした。


「よし、まずは――」


 そして、ケビンからアドバイスをもらっていたジョンは、これからどういう風に発展させていくかの説明を、配下の者たちにしていく。


 その説明を今までにないくらい真面目に聞いている配下の者たちは、これまた今までにないくらい協力し合って、どう進めていくのが効率的に良いのか意見交換をするのだった。


 この日以降、ジョンの治める領土は少しずつだが、魔王城を中心として発展していくことになる。


 せっせと働く配下の者たちの動機はとても不純だが、それを知っているのは同じ志を持つ者たちとジョンだけなので、傍から見れば働き者にしか見えないのが困りものだ。


 そのような彼らに春が来るのかどうかは、また別の話である。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ケビンがジョンの魔王城を根城にしてから翌月のこと。暦は3月となり、春の訪れを感じさせる温かさとなっていた。


 そのような月にケビンは嫁たちを連れて一時帰宅をする。


 その理由としては、サーシャの娘エミリー、ニーナの娘ニーアム、スカーレットの双子の娘であるフェリシアとフェリシティ、その4人がエレフセリア学園の普通科を卒業するからだ。そして、4人が4人とも専門科へ進学することを決めている。


 まず、エミリーは気弱で荒事が苦手なため、母親のサーシャと同じ道である冒険者ギルドの受付嬢になることはなく、二ーアムと同じ内政科に進学予定で、フェリシアとフェリシティは案の定というか予想を裏切らない範囲で、冒険者科への進学を決めていたのだ。


 そしてケビンはその話を聞き、4人ともが進学することに大手を振って喜んだ。何故なら4人が4人とも12歳であるため、ぼちぼち婚約者という影がチラチラと見え隠れしそうだからである。


 無論、ケビンとて娘たちが好きな相手なら致し方なしと思える心は持っている……はずだ。那由多の彼方まで歩みを譲った上で。


 そして、そのようなケビンだが、公言として自由恋愛をうたっている。これは、帝国に住む各貴族はもちろん知っていることで、皇族相手に政略結婚を企てようとする輩はいない。


 だが、各貴族としての考えは、皇族の血を何としてでも家系に入れたいところ。しかも、ただの皇族ではなくケビンの系譜であるが故に。


 だからだろうか、各貴族家においては子供たちに対して、積極的に好きな相手へはアプローチしろと教育をしている。もちろん、両親の第一希望はケビンの子供たちだ。


 そのケビンの子供たちについてだが、ケビンが政務よりも子作りを頑張っているため、選り取りみどりな感じで人数が多い。ただ単に嫁の人数が多いということもあるが。


 だから各貴族も、言葉は悪いが狙いやすいと考えている。競争率として確かに高いことには高いが、それでもなお、たった2~3人を大勢で狙うという超高倍率とは違って、数十名単位でいるケビンの子供たちなので、例えは悪いが“下手な鉄砲かずうちゃ当たる”という思考になっている。


 それもあって、各貴族たちはケビン特製の【賢者タイム】を手に入れては、せっせと夜の業務に勤しんでいる。その副次効果として、冷めていた夫婦仲が再び熱くなるということも起きているようだ。


 何はともあれ、卒業する4人からはまだ婚約者の話は出てきていない。好きな人がいるかどうかも、今のケビンにはわからないのだ。


 そのケビンがわからないのは娘たちが教えてくれないとかではなく、ケビンがただ単に怖気付いて尋ねていないだけである。


 ケビンとしては、尋ねた時に「デリカシー無さ過ぎぃ」とか「パパには関係ない」なんて言葉が娘の口から放たれては、ショックでどうにかなりそうだからだ。


 要するに、娘関係に関してだけはチキンなのだ。何とかして嫌われないように努力するのがケビンである。ゆえに、娘に対しては激甘スイーツデラックス状態となっている。


 そして、今まさに激甘スイーツデラックスのケビンは、憩いの広場にて4人と一緒にテーブル席に座り、お茶を楽しみながら面談しているのだ。


「よーし。それじゃあ4人とも、何か欲しいものはあるか? 卒業祝いに何でもお願いを聞くぞ?」


 そのように伝えてしまったのは、相も変わらず懲りないケビン。過去に何度も“何でも”というパワーワードでしくじり先生をしているというのに、その時に反省はしても後には活かされない。


「私は……ないよ」


 同じテーブルにて控えめ気味にそう答えたのはエミリーだ。母親であるサーシャとは違ってその控えめな性格は、いったい誰に似てしまったのか。もちろん、ケビンということはない。


「エミリー、それだとパパが困るよ」


 そう言ったのは、いつもエミリーとつるんでいることが多いニーナの娘であるニーアムだ。そのニーアムは、しっかりと母方の家系遺伝子を受け継いでいるのか、人見知りが激しい。


 それ故に、学園でも人見知りを遺憾なく発揮しており、あまり他人と喋ることはない。ゆえに、エミリーとつるむことが多くなってしまったのだが。


 その他にもエミリーの大人しいところが、ニーアムとしては一緒にいて落ち着くという心境であり、つるむ理由に一役買っている。


「ニーアムは何か欲しいものがあるの?」


「私は……三角帽子とローブかな。お母さんとお揃いのが欲しい」


 このように母親とお揃いの装備が欲しいという可愛らしい要望を言っているニーアムだが、本当の目的は違う。


 ニーアムは知っているのだ。ニーナが外に出る時はその服装で出かけており、他人と目線を合わさないでいいように三角帽子を目深に被って、不要なコミュニケーションをやり過ごしているのを。


「私がお母さんとお揃いにしちゃうと、ギルドの仕事服になっちゃう……」


 何か欲しいものとして別に仕事着にこだわる必要はないのだが、そこを指摘する者はこの場にはいない。むしろ、小さなエミリーが受付嬢姿でいるのを皆が想像しては、ほっこりしているぐらいだ。


「カワイイかも……」


 かくいうニーアムもその1人であったようだ。


「フェリシアとフェリシティは何かないのか?」


「「パパとの赤ちゃん!」」


「ぶふぅぅぅぅ――??!?」


 とんでもないことをいきなりぶっ込んできた2人の回答によって、ケビンは飲んでいたお茶を思いきり吹き出してしまった。しかも、それを言った本人たちに浴びせてしまうという失態つきで。


「ゴホッゴホッ……ご、ごめん、2人とも……」


「我々の業界では――」

「ご褒美です!」


 いったい誰がその言葉を教えたというのか、ケビンはそのことを突っ込まずにはいられない。しかしながら、今はそれよりも注視すべき案件があるのだ。


 そのためケビンは2人を魔法で綺麗にすると、先程の迷回答が何かの聞き間違いであって欲しいと僅かな希望を抱いて、再度2人に対して尋ねてみたのだが、返ってきたのは先程と変わらぬ回答である。


「なんでまたそんなことを……」


 テーブルに肘をついて頭を抱えてしまうケビン。そして思ってしまうのは、『いったいどこで育て方を間違ってしまったんだ……』というありきたりなことだ。


 ただし、それを思ってもいいのは、真っ当な育て方をしている親に限る。言うなれば、双子をちゃんと真人間にしようと四苦八苦しているスカーレットとかである。


 ちなみにケビンにそれを思う権利はない。娘に激甘スイーツデラックスなケビンは、基本的なのびのび教育に加えて何でも許してしまうからだ。そのようなケビンが説教をする時は、決まって子供たちが道理に反した時だけ。


 そして、ケビンの子供たちは基本的に道理に反することはしない。そこら辺は、周りにいる母親たちの教育の賜物と言えるだろう。仮にしたとしても、兄弟姉妹間でケンカをするときくらいである。


 当然のことながら、子供のケンカにケビンは口を挟まない。兄弟姉妹間のケンカなど、家族内ではよくあることとして見守ることにしているからだ。


 つまり結論を言うと、子供たちから見たケビンの父親像というのは、基本的に“娘に激甘”、“息子にはちょい甘”、“滅多なことでは怒らない”、“フラフラしている”、“新しい母親を連れてくる”、そして誰もが絶対答えると言っても過言ではない“仕事をしていない”である。


 あえてケビンの名誉のために言っておくのならば、仕事に関してはするにはしている。ただ、それを必要最小限に留めている(注:押し付けている)ため、仕事をしていないように見えているだけだ。


 兎にも角にも、ケビンは双子に言わなければならない。真っ当かどうかはこの際横に置いて、1人の父親として。


「2人とも聞いてくれ。実の娘に手を出したとなると、俺のいた世界では事案となる。要するに――」


 せっかくケビンが珍しく道理を説こうとしているのに、双子がすかさず口を挟んだ。


「それ知ってる!」

「おまわりさんこの人でーす!」


「「だよねー♪」」


「…………」


 ケビンは言葉を失うしかなかった。そして、再び頭を抱えてしまう。


(誰だ……いったい誰が俺の可愛い娘たちに日本文化を教えている……)


「それにー」

「知ってるんだよー」


「何をだ……?」


 もう既にケビンの語気は弱々しい。ただ、欲しいものを聞こうとしただけなのに、思いもよらぬところからの深刻なダメージが襲いかかってきている。


「パパってぇ」

「ヤったよね?」


「ん? 何を――」


「「オフェリア」」


「なっ!?」


 驚愕するケビン。まさか、オリビアの娘であるオフェリアとの件が知られているとは思わなかったのだ。


「「じ・あ・ん♪」」


「ごふっ……」


「「おまわりさんこっちでーす!」」


「ぐはっ……」


「もうやめてあげて」

「パパのライフはゼロよ」


「「イェーイ!」」


 陽気にハイタッチを交わすフェリシアとフェリシティ。2人が他の人を相手にしてからかう姿であれば、ケビンも心穏やかに見ていられたものだが、いざ自分がその対象になってしまうと、途端に被害者たちの心境がわかってしまった。


(こういう気持ちに陥るのか……)


「ということで、パパ」

「私たちも抱いてね?」


「いや……しかしだな……オフェリアの場合は、サキュバスという特性のせいであって……」


「へぇーパパはオフェリアのことを特性だけで抱いたんだぁ」

「オフェリアがそれを聞いたら泣いちゃうなぁ」


「言っちゃおうかなぁ、かなぁ?」

「ガン泣き必至な上に口をきいてくれないかもねぇ」


「ま、待てっ!」


 巧みな口撃という技法によって、ケビンをどんどんと追い詰めていくフェリシアとフェリシティ。いったい誰がここまで厄介な存在に育て上げたというのか。


 ケビンは言いたい。「親の顔が見てみたい」と。そのままブーメランになること間違いなしだが。


「でも……しかし……うぅん……」


 それでも煮え切らないケビンに対して、フェリシアとフェリシティは最終手段に出た。いきなり立ち上がったかと思えば、ケビンの両サイドに立ったのだ。


 そして、ケビンの耳元に口を近づけると、左右からそっと囁く。


「私たちね、初潮がまだなの」

「つまり……中出しし放題」


 すると、双子からウィスパーボイスで囁かれたケビンは、背中の辺りがゾクゾクしてしまいブルっと体を震わせてしまう。


(こ、これが俗に言うASMR!?)


 双子の伝えた内容とは別で、その声音にゾクゾクしてしまったケビン。だがしかし、よく分からない最後の防波堤がケビンの理性をつなぎ止めた。


 それによって、双子のお願いは専門科を卒業したら叶えるという問題の先送りをしたのであった。

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