第652話 女性たちの計略

 楽しく食事を終えた後は、客人扱いとあってかケビンたちが先に入浴を済ませることになり、嫁たちと一緒に配下用のではなく魔王専用風呂をいただくことになった。


 その時に、ラバスに案内された先で「ごゆっくり」と、定番のお言葉を頂戴したケビンたちは脱衣室に入っていき、テキパキと服を脱いでは浴室に足を踏み入れた。


「素っ気ない風呂だな」


 ケビンが浴室に入るなり、魔王専用風呂が簡素な造りをしていることについこぼしてしまった感想は、ティナから当たり前のようにして指摘されてしまう。


「誰も彼もがケビン君みたいに、好き勝手に魔法でいじれるわけじゃないんだよ」


「珍しくティナが正論」

「明日は雨かなー?」

「あらあら、うふふ」


「ちょ、ちょっと2人とも!」


 どこにいようがいつもの光景となるティナをからかう場面によって、奇しくもケビンは『それもそうか』と思い至ると、この際だからと浴室を勝手に改造しようと画策し口にする。


「ケ、ケビン君! ジョンさんの許可は……?」


「別に困るもんでもないし問題ないだろ」


 ティナからの要望で食堂を広くする時に指摘した場面とは打って変わって、自らの意思でやる場合は全く気にしない上に、完全に棚の上に放り投げているのがケビンイズムと言えよう。


「とりあえず、湯船の給水口はドラゴンの頭部にしておくか。マー〇イオンなんてこの世界じゃマイナーだしな」


 そう口にするケビンは、さっそくジョンの許可を取らずに浴室の改造を始めてしまった。


 その他には『どうせ子供たちとも一緒に入るだろ』という自分の価値観を織り交ぜた拡大解釈のもと、空間を拡張し湯船自体も広げて、更には子供用の湯船も作ってしまうと、帝城と同じように遊べる感じに仕上げていく。


 そして、終わってみればほぼ帝城と同じような浴室の造りとなってしまい、元の簡素な浴室は見る影もない。


「あぁぁ……いい仕事をしたなぁ……」


 完全にやりきった感を出しているケビンは、バスチェアに座るとさっそく新たに取り付けられたシャワーを使い、出てもいない汗を流し始める。


「頑張ったわね、ケビン。ご褒美にお母さんが洗ってあげるわ」


 そう言ってそそくさとケビンの背後を陣取ったサラは、ケビンからいつものお風呂セットを出してもらうと、体を使った洗身を提供するのだった。


「ああっ、お義母さんズルい!」


 サラの行為にすかさず不満を漏らすのは、エロいことに関してだけは負けていられないティナだ。


 そのティナがサラに負けじと洗身を始めてしまうと、ニーナやクリスも交ざって至れり尽くせりなご奉仕を開始した。


 そして、嫁たちがケビンを洗い終えれば、今度はケビンが嫁たちを洗う番となり、お礼も兼ねて体の隅々まで洗っていく。


 それから仲良く5人で広くなった湯船に浸かると、ケビンを囲い込むかのようにして嫁たちが周りに集まる。その配置としては、ケビンの左側にはサラが座り、右側は壮絶なる戦い(ジャンケン)の結果、見事戦いを制したニーナが陣取っている。


 これにより戦いに負けたティナとクリスは、ティナがケビンから見て左前で落ち着き、クリスは右前という位置取りとなった。


 容姿端麗な裸の女性4人に囲まれている時点で幸せすぎる光景だが、ここから更にケビンの両腕はサラとニーナの胸にそれぞれ挟まれており、ケビンは“腕が幸せ”という状況を噛み締めながら風呂を堪能している。


「そういえば俺がジョンと話していた間、ティナたちは何をしていたんだ?」


 ケビンはティナの口がこの中では一番軽いことから名指しで質問をぶつけると、案の定ティナはケビンの期待を裏切らず女子会のことを話し始めた。


「女性たちみんなで集まって楽しくお喋りしてたんだよ」


「へぇー何を?」


「何で人族が魔大陸の中部までやって来たのかの理由かな。勇者って誤解されたけど、ちゃんと冒険者だからって答えておいたよ。あとは、もうバレてるから帝国の皇帝ってのも教えたかな」


「ふーん……」


 ケビンとしては特に興味を持つような内容でもなかったためか空返事みたいな相槌を打つが、続くティナの報告によって興味津々となってしまう。


「あとはねージョンさんに女性たちが襲いかかる作戦を立てたよ。みんなジョンさんのことが好きだけど、嫌われたくないから身を引いてたんだって」


「ほうほう、それは楽しくなりそうな話だな。ちなみに作戦って何をするんだ?」


「もう第二段階までは終わったよ」


「マジで!?」


「マジで。第一段階はケビン君に食堂を広くしてもらって、みんなで楽しく食事をすることだから」


「第二は?!」


「それは食事に精のつくものを使って、それを食べてもらうことだよ。ジョンさんだけが違うメニューだと怪しまれるから、みんな同じメニューになったけど」


 そこでケビンはふと思った。全員が同じメニューということは、精のつく料理を全員が食べてしまったのではないかと。


 あの食事会には子供たちも少なからずいたのだ。その子供たちに悪影響が出るのではないかと懸念したケビンがそのことをティナに問うが、そこら辺は女性たちが上手くやったようである。


 そのティナが言うには、子供たちの食事には子供たち用のメニューとして、少しだけ違う料理が出されていたとのことだった。


「今日はケビン君もハッスルだね」


「いつものこと」

「確かにねー」

「楽しみだわ」


 毎度いつものことながら、精のつく料理とか関係なくハッスルしてしまうケビンのことは、嫁たちにとって周知の事実であり、料理を食べようが食べまいが関係のないことなのであった。


 そのことを包み隠さず指摘されてしまうケビンだったが、そのことに関しては既に開き直っておりジト目をお見舞するようなこともなく、代わりに客室でどのようにして嫁たちとくんずほぐれつするかと画策していく。


 そして、ある程度お風呂も堪能したことで浴室から出たケビンたちはあてがわれた客室に引っ込むと、人様の城であるのに躊躇いもなくくんずほぐれつ合戦を開始してしまうのだった。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ところ変わって、私室にてラバスとイチャイチャしていたジョンは、ドアのノック音を聞いて入室を許可すると、中に入ってきた女性からケビンたちの入浴が終わったことを聞かされた。


 その報告を受けたジョンはラバスとともに入浴をしようと思っていたためかラバスを誘うが、ラバスは苦笑いを浮かべて曖昧な返事を返す。


 ここ最近で入浴時によく目にするラバスの曖昧な返事は日に日に頻度を増していくが、その理由をジョンは知らないし、思い至らない。


 実は、ラバス。日に日にお腹が大きくなるにつれて、子供が順調に育っているのは嬉しく思うが、ジョンからお風呂に誘われるたびに考え込んでしまうのだ。


 ジョンの前ではいつまでも綺麗なままの自分の姿でありたいと願うラバスにとって、今の姿は順調に育つ我が子によってお腹がぽっこりしており、自分の中にあるジョンに見せたい体型とはかけ離れているからだ。


 ジョンからしてみればそのようなことは全く気にしないのだが、それを気にしてしまうのがいつまでも乙女でいたいラバスの乙女心というものだろう。


 兎にも角にも、ラバスからいつも通り「先に行ってお待ちください」と伝えられたことによって、ジョンはいつも通り先に浴室へ向かうことになる。


 そして、ジョンが脱衣所に向かうとさっさと服を脱いではケビンが改造したことなど知らないまま、もう見なれている簡素な風呂の光景を頭に浮かべたまま浴室に入った。


「……なんじゃこりゃああああああ――!」


 ジョンの見渡す浴室はいつもの簡素な浴室ではなく、いったいどこの金持ちの浴室だと言わんばかりの広さを保っており、湯船を見ればドラゴンの頭部の彫像が存在感を発揮していて、いかにもここから水が出ますと言わんばかりであった。


 更には浴室の端に体を洗うスペースがあるのは以前のままだが、そこに備え付けられているものが違和感を禁じ得ない。


「シャ……シャワーだと……!?」


 こちらの世界に来てからというものシャワーなど見たこともなく、この世界の泊まったことのある宿屋でも、桶に湯を入れてタオルで拭うのが一般的な湯浴みだと説明を受けていた。


 そして、ジョンは視界にチラチラと入ってくるがそれを認めたくなくて、存在しないものとして頭から追いやっていたものの、とうとうそれに視線を移してしまった。


「…………」


 それをハッキリと目にしたジョンは、もう言葉が出なかった。


 その理由として、ジョンの視線の先にあったのは「どこのレジャー施設だよ!」と言わんばかりの、子供用ウォータースライダーだったからだ。


 そのウォータースライダーは、レジャー施設並の大きさを誇っているわけではないが、滑り台みたいに少し滑って終わりみたいな大きさでもない。


「ありえねぇ……これは夢だ、夢に違いねぇ……」


 ジョンがようやく絞り出せた言葉は、現実を逃避するものであった。


 そして、ジョンが現実逃避をしていると、ジョンの絶叫を聞いたラバスが浴室に入ってくる。更には、他の女性たちもそれに続けと言わんばかりに、あわよくばジョンの裸を堪能しようと下心ありきで入ってきた。


「ジョンさ…………」


「「「「「ジョ…………」」」」」


 だが、ジョンのことを心配したラバスはもちろんのこと、ジョンの裸を脳内に焼き付けようとしていた女性たちまで、浴室に入った途端に固まってしまう。


 奇しくもここには裸でぽつんと立つジョンと、同じようにぽつんと立つ女性たちで占められていた。


 やがて再起動を果たしたジョンが自分の頬をつねってみるが、ちゃんとした痛みがある以上、目の前に広がる光景が夢ではなく現実であることを認識してしまう。


 そして、そこへ遅ればせながらやって来た爺やたちは、浴室が女性たちで溢れかえっているものの、服を着ていたため駆けつけた者の中から代表として爺やが中へと入っていくが、中に入った爺やも同様のリアクションをとることになり、その場で固まってしまった。


 その後は混乱もさることながら、ジョンが強引に自身の正気を取り戻すと呆ける者たちへ声をかけていき、問題の先送りをしつつ風呂に入る旨を伝えていく。


 それにより、ラバスを始めとする女性たちも心ここに在らずっといった表情で頷き、爺やは問題はあるが問題がないことを確認できたので、そのことを駆けつけた他の配下の者たちへ伝えるべく浴室を後にした。


 やがて、落ち着きを取り戻してきた女性たちは、不審に思われない立ち位置から最初の目的であるジョンの裸を脳内フォルダに保存していき、ジョンはジョンで未だ混乱から抜けきれていないのか、すっぽんぽんでいることに気づいてすらいない。


(ジョンさんの裸……!?)

(意外と筋肉質なのね)

(ジョンさんのジョンさんも凄い……!)

(じゅるり……)


 このまま放っておいたら、ハァハァしそうな雰囲気を滲み出している女性たちに懸念を抱いたラバスは、わざとらしさが出ないように気をつけながら女性たちを密かに浴室から退室させようと話しかけた。


(みなさん、せっかく立てた作戦が台無しになってしまいますから、ここは堪えてください)


(わ、わかってるわよ)

(ああっ、ジョンさんの裸が……)

(ちょっとだけ、ちょっとだけだから)

(あと5分……いや、10分だけでもいいから)


(色々とおかしいし増えてますよ!?)


 ラバスは、渋る女性たちの背を押しつつも浴室から退室させる。その時に中途半端に欲情してしまった女性たちの姿を見て、今夜の作戦は凄いことになるかもしれないと一抹の不安を抱えながら、入浴の準備を済ませてから未だ呆けているジョンと改築されてしまった風呂を堪能するのだった。


 その後、入浴を済ませた2人が私室のソファにてくつろいでいるところに、同じく後から入浴を済ませた女性たちがノック音とともにやってくる。


 その女性たちの来訪について、ラバスは作戦を知っているためか不思議に思っていないが、何も知らないジョンはそうもいかない。絶賛混乱中である。


 その理由として言えるのは、次々に入室してくる女性たちの姿が就寝用の平服に身を包んでいるものではなく、勝負服と言っても過言ではないようなネグリジェに身を包んでいたからだ。


 ちなみにスポンサーはティナたちである。さすがにソフィーリアやケビンのようにその場で創り出して渡すことができないので、女性たちに渡したのは余っていたお古だ。


 だが、一部……どことは言わないが足りてない部分がゆったりしていて、戦いを始める前から敗北感を味わわせられている者たちもいるが、概ね女性たちが満足できるほどにエロさが溢れだしている逸品であった。


「な……な……」


 魅惑的な女性たちの姿を見て、何でその姿で部屋に来たのかを尋ねようとしたジョンだったが、あまりの出来事によって上手く言葉が出ない。


 それも仕方のないこと。ジョンの視界には見渡すかぎり女性たちのエロい姿があちらこちらにあるからだ。


 その女性たちのネグリジェは、ティナたちプロデュースによるため当然のことながらスケスケであり、いたるところが丸見えなのだ。


 そして、依然としてジョンは固まったままだが、それに呼応したかのようにして、ジョンのジョンも固まってしまい激しく主張している。


 悲しきかな……嫁が好きでも反応してしまうのが男のさがである。


 そのジョンの心境など露知らず女性たちの中から1人、前へ進み出した者がいた。


「ジョンさん、好きです……抱いてください」


 その女性による一世一代の告白を前に、ジョンはキョトンとしてしまう。あまりの出来事が立て続けに起きていたので、理解が追いつかないようだ。


「これは……私たちの総意です。ラバスさんにも了承していただいています」


 ここで愛する者の名前が出たことにより、ジョンがガバッとラバスに顔を向けると、ラバスは小さく頷き相違ないことを示してから口を開いた。


「正直なところ、ジョンさんを独占したい気持ちはあります」


「それなら――」


「だけど、体が持たないのです」


「…………え?」


 ジョンは、自分が反対意見を出そうとした矢先にラバスが被せてきた内容を聞いてしまい、思わず思考が停止してしまう。いったい何のことを指し示しているのか、理解が追いつかないのだ。


 だが、そのようなジョンの理解が追いつくのを待つことなく、ラバスが矢継ぎ早に悩みを話していく。


「ジョンさんはえっち過ぎです。確かに求められるのは私としても嬉しいのですけれど、あの……回数が多いかなって……元夫でも多くて2回くらいでほとんどが1回してしまえば終わりだったのに、何でジョンさんは5回もできちゃうんですか! しかも、日中は日中でしているのに、夜になるとタガが外れたみたいに襲いかかってきますし……今は身重なので回数は減りましたがせめて日中1回、夜1回くらいに抑えて欲しいです。そりゃあ、ジョンさんとイチャイチャしているうちに、ムラムラしてその行為を受けてしまう私も私ですけど……正直に言ってしまうと体が持ちません……」


「…………」


 もうジョンとしては唖然とするしかない。まさかラバスを求める行為において、その本人からダメだしされるとは夢にも思わなかったのだ。


 そして、何故ラバスが了承したのかの理由がわかってしまったジョンは自分の行いに深く反省するのだが、眉を八の字にして困ったような顔つきでいるラバスを見ると、反省したばかりだというのにそんなラバスの表情が可愛く思えてしまい、抱きたい気持ちが込み上げてくるのだった。


「ということで、ジョンさん。ラバスさんには万全の体調で出産を迎えて欲しいので、今日からは私たちがジョンさんの性欲を受け止めます」


「これは私たちとラバスさんで話し合った結果です」


「ラバスさんに代わり、日中だろうが夜だろうがジョンさんのしたい時に私たちと肌を重ね合わせてください」


「いや、しかしだな……」


 女性たちが次々と主張してくる中でも、ジョンの態度は煮え切らない。これがお金を払って抱く娼婦との関係であればジョンも割り切ってすぐにでも抱けただろうが、今回はそういう関係性でもない。


 言うなれば一緒に住んでいる女性たちから好きだから抱いて欲しいという、ジョンの気持ちの整理を待たない速攻を仕掛けられているのだ。


 そして、引き続き女性たちが主張を繰り返していく中で、それでもなお渋っているジョンに対して、女性たちがとうとう痺れを切らした。


 その女性たちがジョンに群がると、座っていたジョンをソファから立ち上がらせてベッドへと引っ張っていく。


 しかしながら、ジョンの身体能力を駆使すれば群がる女性たちを振りほどくのは容易だが、力任せに振り払えば女性たちを怪我させてしまうのは明白。何気にフェミニストであるジョンは、その行動を取ることができない。


「ま、待てっ、おい!」


 あれよあれよという間にジョンがベッドへ拉致されてしまうと、いつもは見せない女性たちの素早い動きによってジョンは衣服を剥がされてすっぽんぽんになってしまった。


「ごくり……」

「……大きい……」

「ジョンさんのジョンさんがこんな間近に……」

「ビクンビクンしてる……」

「これは女泣かせのイチモツだわ……」


 思い思いの感想を口にしていく女性たちの視線は、ジョンJr.をロックオンして既に釘付けだ。


「ちょっと待て、お前ら! ラバスっ、お前からも何とか言ってやってくれ!」


「ごゆるりとご堪能くださいね」


「そうじゃない!」


 助けを求めたつもりが女性たちへの援護射撃にしか思えないような返答をしてくるラバスによって、ジョンの逃げ道は塞がれてしまった。


 そして、ここまできたら致し方がないとして、多少の怪我は大目に見てもらおうとジョンが決意したその瞬間――。


「もう我慢できない!」


「おぅふっ!?」


 ジョンが女性たちを振りほどこうとした矢先、女性の1人がとうとう待ちきれずにジョンへタックルをかましたのだった。


 それからというもの、1人の成功者を作ってしまうと、後に続けと言わんばかりに女性たちがジョンに群がりわちゃわちゃとし始める。


 しかし、ジョンは逆レに対する反撃の狼煙を上げると、ラバスが見守る中で女性たちを次々と抱いていき、それが終わるとラバスも呼び寄せて更に女性たちを貪り続けていくのであった。

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