第654話 なかまに なりたそうに こちらをみている!
翌月の4月、ケビンはいつものように毎年恒例の行事を済ませると、相も変わらず魔大陸の冒険に出かけていた。
そして、神聖セレスティア皇国へ遠征に出かけていた勇者たちもまた、行きと違って帰りがケビンの転移ではなく馬車移動になっているため、未だに帝都には帰りついていない。
しかしながら勇者御一行は、帰りにタミアへ寄って温泉で疲れを癒してくることを、既に随伴の嫁たちが嫁ネットワークにて連絡済みであるため、帰りが遅くとも帝城待機の嫁たちは特に誰も心配はしていなかった。
そのような日々がすぎていく中で、ケビンはジョンから興味深い情報を手に入れていた。
「そろそろ暖かくなってきたから、ラミアたちが活動を再開させてい「ラミアだとっ!?」……」
ジョンの言葉に対して被せ気味に発言したケビンの頭の中では、既に半人半蛇である女性の姿が想像されており、これは是非とも会いに行かねばという衝動に駆られ始める。
そして、そのウキウキとしているケビンの様子を見ている嫁たちはいつものことなので落ち着いていたが、ケビンの素行を知らないジョンからしてみれば、ラミア相手に何をそんなに高揚しているのかさっぱりであった。
「もしかして戦いに行くのか?」
そう言われたケビンの返答は否である。何故ならば、ケビンの中にある真実はいつもひとつだからだ。
――色々なモン娘に会ってみたい!
ただそれだけのためだけに、ケビンはラミアを見つけようとするのだった。
それからのケビンは、ジョンからラミアが棲息しているであろう位置や、ラミアと相対する時の注意事項などを事細かに尋ねていく。そして、尋ねられたジョンはわかる範囲でラミアのことをケビンに教えていった。
その後、粗方の情報を手に入れたケビンたち一行は、ラミアを捜し出すべくジョンの城から外へ出た。今となってはジョンの城も進化していて、ケビンの手伝いにより以前よりも遥かに荘厳な城と化している。
今までは城と一部の建物しかなかった魔王城の敷地だったが、それが劇的ビフォーアフターによって以前の面影が一切見当たらない。
配下たちの修復作業によって多少はマシになっていた城壁も、何と言うことでしょう。今となってはケビンの土魔法によって、立派な城壁に様変わりしていた。
敷地内に多少はあったみすぼらしい建物も、ケビンの手によって立派になり、その代表的な例として、家畜小屋の名前が上がる。
その家屋はまさに家畜小屋と言えるような見た目だったのだが、今となっては一般家屋と評価されても過言ではないほどだ。
そのように様変わりしたジョンの魔王城近辺は、領地内から移り住む人も増えてきており、都市と呼ばれるほどの発展を見せている。
その街並みを眺めつつケビンたちが都市外へと足を運ぶのだが、既に街の住民たちはケビンの姿を見慣れてしまっていたのか、人族が歩いていてもさほど気にするような素振りは見せなくなっていた。
「あら、ケビンさん。今日もお出かけですか?」
そのように声をかけてくるのは、城下町に移り住んできた魔人族の女性だ。この女性は、元々住んでいた村から上京してきており、ここでの生活にも慣れてきていた。
「やっぱり冒険者は冒険してナンボだからな」
「魔大陸を冒険する人族なんて、そうそうにいませんよ?」
「俺が死んだ後は、歴史に名を残せそうだ」
「変な人族として、名が残らなければいいですね」
「それは後世の歴史家に期待するしかない」
ケビンはそのような世間話を交わしつつ、城下町の発展具合を確かめながら都外に出た。
「さて、ラミアのいそうな南側に進むとするか」
おもむろにそう呟いては、南に進路をとるケビン。相も変わらずバイコーンは貸し出し中であり、移動手段は徒歩となる。
「またケビン君の現地嫁が増えちゃうね」
「既定路線」
「そんなに半魔の女の子が好きなのかな?」
ティナが未来予知のように語り出せば、それを確定事項にしてしまうニーナ。それに続くクリスは、モン娘のどこがそこまで惹かれるものなのかと首を傾げる。そのような中でも、サラだけはいつものように頬笑みを浮かべていたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ジョンの城を出たケビンたちが、適度に戦闘を繰り返しながら数日間歩き続けていると、ジョンからの話にあった森らしきものを見つけることができた。
ケビンの今回の目的はラミアを見つけることだったため、他の魔王領を通りつつも人がいる所を避けており、それが殺風景な風景を見続ける理由となってしまっていたのだが、久しぶりに見る自然に違和感を覚えてしまう。
「何と言うか……遭難後に人里をやっと見つけられたような感覚だな」
「それって嬉しいことじゃないの?」
ティナはそう言うが、ケビンが感じているのは戸惑いだ。
「砂漠で遭難して、やっとオアシスを見つけたと言った方が近いか」
「それならもっと嬉しいことだよね?」
「うーん……表現するのが難しいな。本当にオアシスなのかどうか信じきることができないって心境で、もしかしたら幻でも見ているんじゃないかって感じなんだが」
何はともあれ、今の心境を言葉で表現するのは難しいと感じたケビンだったが、やっとの思いでたどり着いた場所に少しばかりの感動を覚えていた。
そして、ケビンが早速森の中へ入ろうとして近づいていく矢先、何やら草むらがカサカサと揺れるのを目にしてしまう。
すると、それを見たケビンが小動物もしくは小型の魔物ではと予想をして警戒していると、草陰から現れたのは漆黒色をしたスライムであった。
「へ……スライム?」
まさか魔大陸に最弱と言われているスライムが出てくるとは思わずに、それを見てしまったケビンは拍子抜けしてしまう。
「珍しいね」
「驚愕」
「よく生き残れていられるねー」
「隠れていたのかしら?」
ケビンと同じくティナたちも、まさかスライムがいるとは夢にも思わなかったみたいだ。
そして、観察を続けていたケビンたちの視界に映ったのは、スライムの通った後には何も残っていない土だけの光景である。それを見たティナが感想をこぼした。
「食事中かな?」
「多分、そうなんじゃないか? おおかた雑草でも食ってるんだろ」
そう言うケビンの視線の先で、唐突にスライムが動きを止める。
「見てる?」
「目がついてないからわかりづらいな」
すると、スライムは体をプルプルとさせていて、いかにも正解ですよと言わんばかりの行動をとっていたが、プルプルしていたスライムが動きを止めると、なんの前触れもなくケビンに向かって飛んできた。
これが、ただ飛んできたのならケビンもワンパンで殴り飛ばすのだが、如何せん飛んできているスライムが体積を増やしケビンを覆い尽くさんと広がっているため、ケビンは殴り飛ばすよりも回避を選択する。
「こいつ、俺を食うつもりかっ!」
ケビンが避けたことにより、スライムは地面にべちゃっとダイブすることになってしまったが、そこは不定形生物。特に問題もなく元の体型に戻ると、またプルプルとしだした。
そして、敵対行動をとられたケビンは、気分的に愛でていた感情を裏切られた形となり、お返しに容赦なく魔法を撃ち放つ。
「《ガトリングファイア》!」
すると、出てきたるは魔法による物量戦を形にしたケビンのオリジナル魔法。魔法陣から雨あられのごとく降り注ぐ火矢により、スライムに対して理不尽なまでのオーバーキルをしてのけようとする。
だが、それに対してスライムは再び体積を増やすと、余すことなく受け止めるという男気?を見せた。
「は……? はぁぁああ!?」
それを見せられてしまったケビンは素っ頓狂な声を上げてしまい、目の前の光景が理解の範疇を超えて信じられずにいる。どこからどう見ても最弱のスライムが、ケビンの放った魔法を余すことなく美味しく?頂いているからだ。
「あいつ、俺の魔法を食ってんのか!?」
美味しそうにモグモグとしているかどうかは別として、確かにケビンの言う通りであり、スライムは火矢によるダメージを受けるどころか、体内に取り込んでいるように見える。
そして、このままでは意味がないと悟ったケビンが魔法を解除すると、スライムは催促するかのようにしてプルプルと震えだす。
「お前、腹が減ってんのか?」
ケビンのその言葉をスライムが理解したかどうかは定かではないが、相変わらずプルプルと震えているのを止める気配がない。
そこでケビンは、【無限収納】に死蔵している肉をスライムの目の前に出してみるという行動を試みたところ、スライムが喜んでいるのかどうかはわからないが、肉に飛び移るとそのまま体内に取り込み始めた。
「摩訶不思議なスライムだ……」
最弱と認識しているスライムが食事をしている最中、そのようなことをケビンが言っていたのだが、それに対してケビンの嫁たちも同様に思っていたのか首を傾げている。
「魔大陸のスライムって実は強いとか?」
ティナがそのように言うと、ニーナがそれに対して相槌を打ち話が膨らんでいく。
「魔素を取り込んで強くなった?」
「ケビン君の魔法を取り込んだ時点で、ただのスライムじゃないよねー」
「魔大陸で棲息しているから、その特性かしら?」
そのような中でも、スライムが提供された肉を取り込んでは次々に吸収していると、ケビンはここぞとばかりに追加でどんどんと肉を出し続けており、在庫処分に励んでいたのだった。
「それにしても、よく食べるよな」
かれこれ10分以上は餌を出し続けているケビンだったが、スライムが手を休めるような素振りは見せず、未だに食べ続けていることに対して驚きを禁じ得ない。
それは嫁たちも同様であり、いったいどこまで食べ続けられるのだろうかと興味すら湧いてくる。
その後、いつまでもここでこうしてられないと思い至ったケビンは、最後にドサッと山積みの肉をスライムに与えるとこの場を立ち去るために動き出した。そして、その行動に対して嫁たちも同様に続いていく。
すると、山盛りの肉を食べていたスライムが、器用に体の一部を変化させ積まれていた肉を頭上に持ち上げると、ケビンたちの後を追いかけたのだった。
しばらくして、スライムがついてきていることに気づいた嫁から報告を受けたケビンが振り返ると、そこには器用に頭の上から肉を取っては体内に取り込んでいるスライムの姿があった。
「何故ついてくる……」
「ご飯をあげたから懐かれたのかな?」
「摩訶不思議」
「捨て犬を拾った時みたいだねー」
「この場合は捨てスライムかしら?」
「よくわからん魔物のことは、地元民に聞くのが1番だな」
そう結論づけたケビンは、さっそくジョンに連絡をとることにした。こんなこともあろうかと、予め通信用の魔導具をジョンに与えていたことが功を奏したみたいである。
「――ということなんだが、何なんだこのスライムは?」
『スライムって何だ?』
だが、返ってきたのはスライムのことを知らないジョンからの逆質問であった。それにより、ケビンはスライムの姿などを伝えていき、見覚えがないかどうかを確かめ始める。
すると、ジョンからの返答は、魔大陸に来てからそのような魔物に出会ったことがないというものであった。
『んー……ちょっと待て。ラバスに何か知らねぇか聞いてみる』
それからジョンがラバスを執務室に呼び寄せると、ケビンから伝え聞いたスライムについて、何か知っていることはないかと訊ねるのだった。
それを聞いたラバスは最初は落ち着いていたものの、話が進むにつれて何か思い当たる節があったのか、魔導具に向かっていきなり声を上げた。
『ケビンさん! すぐに逃げてください!』
「ん? どういうこと?」
いきなり逃げろと言われたケビンが首を傾げていると、それを見ている嫁たちも話の内容がわからないために、同じく首を傾げてしまう。
『黒いスライムと出会ったのですよね?!』
「そうだけど……」
『魔法を吸収されたのでしょう?!』
「そうだね」
『そのスライムは間違いなく魔王です! いつから存在しているのかも不明な古参の魔王です! そのスライムが通ったあとは何も残らないことや倒しようがないこと、更には防ぎようがないことから、魔族の間では天災として認識されている最強の魔王の一角なのです!』
「え……魔王……? これが?」
ラバスがヒートアップしながら説明している状況の中、ケビンの視線の先にいるのは、美味しそうに肉をもしゃもしゃ?と食べてるスライムだ。
とてもじゃないが、天災と呼ばれているとは思えない程のほのぼのとした光景である。嫁たちもケビンが魔王と呟いたことは聞こえていたが、ケビンと同じく目の前のスライムが魔王だとは信じられない。
とりあえずケビンは、ラバスにとりあえず了解した旨を伝えて通信を終えると、目の前のスライムに鑑定をかけた。
名無し
性別不明 年齢不明 種族:カオススライム
身長:30cm 体重:5kg
職業:住所不定無職
状態:歓喜
備考:ここのところ草しか食べていなかったので、ケビンが肉を与えたことにより、喜びに満ちている。頭上にある肉はもったいないと思い、一気に食べずに満喫するために少しずつ食べることにした。ケビンについて行けば、また肉を出してもらえると思っている。
Lv.100
HP:4016
MP:4016
筋力:4016
耐久:4016
魔力:4016
精神:4016
敏捷:4016
スキル
【分裂】【合体】【タックル】
【吸魔】【打撃無効】【身体変化】【体積変化】
【熱変動耐性 Lv.10】【状態異常耐性 Lv.10】
【気配探知 Lv.10】【魔力探知 Lv.10】
【身体強化 Lv.10】
称号
雑食
共食い
根無し草
マナイーター
暴食の魔皇
魔物の天敵
魔族の天敵
天災の魔王
古の魔王
最強の一角
「ヤバすぎだろ……」
ケビンが呟いたことによって鑑定の内容がわからなかった嫁たちも、目の前のほのぼのスライムが実は危険な魔王であることを何となく感じとってしまう。
「ケビン君、どうするの? 戦う?」
不意にティナが戦うのなら準備をするという旨を伝えたが、ケビンはとてもじゃないが喧嘩を売って無事に済む相手ではないことを、スライムのステータスから知っている。
ゆえに、ケビンは喧嘩を売る以前に戦闘を回避するため、あわよくば何処かに立ち去ってくれないかと、淡い期待を抱きながらスライムを眺めた。
だが、依然としてスライムは肉を食べている。ケビンとしては、それを持ったまま立ち去って欲しかったが、見込みはなさそうだ。
そして、とうとう腹を括ったケビンがスライムに話しかける。
「お前、このままついてくるのか?」
すると、スライムがケビンの言葉を理解しているのかどうかは判断に苦しむが、体をプルプルと震わせる。そして、それを見たケビンが返事であると勝手に解釈して、更に話を続けていく。
「ついてくるのなら禁止事項として、俺たちを絶対に襲ったりするなよ? 俺たちのような人型の生物もだ。ゴブリンとかオークとかの魔物なら構わないがな。ここまではわかったか?」
再び震えるスライム。
ケビンは『こいつ、天才か!?』などと思ってしまう。だがしかし、安易に不確定要素に縋るわけにもいかないので、勝手にスライムに対して【言語理解】を付与して再確認を行った。
その結果、スライムが同行する意志をプルプルにて示してきたため、今回は間違いなくこちら側の言語を理解した上での返答だと判断したケビンが、スライムの同行を許すことにしたのであった。
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