第643話 いったい何の談義をしているのやら

 ふと、気がつくと目の前にはニコニコとしているソフィがいた。


 ……何故に裸?


「ん……? あれ?」


 ソフィが裸なのも気になるが、それよりも俺自身が裸なのも気になる。というか、えっ……


「子供になってる!?」


「ふふっ……ポークビッツが美味しかったわよ」


 ポ……ポークビッツ!? 確かにポークビッツ!!


 今まで散々と異世界のショボイ奴らのポークビッツを笑ってきたが、まさか自分自身の倅がポークビッツになるとはっ!!


 いや、待てよ……俺は今、子供だ。子供なら当然のごとくポークビッツである。つまり、俺はセーフ。社会的地位は失われずに済むはずだ。……よし、なにも問題はない。


「まだ混乱中のようね。記憶は定着させているから、何が起きたかはわかるはずよ?」


「記憶……?」


 ソフィの言葉を聞いた俺は、とりあえず何があったのかを思い起こしてみる。


 すると、何故か体験したかのような記憶が次々と沸き起こってくるが、実際はともかくとして今の俺自身は体験していないのだ。言うなれば、映画のスクリーンを見ているようなものだ。何とも奇妙な感覚である。


 というか、何だこれ……これ、なんて羞恥プレイ? 小さな頃の俺が、ソフィに弄ばれているじゃないか。


 そもそも、おねえちゃんて何だよ、おねえちゃんて……ソフィ、必死過ぎだろ……おばちゃんて呼ばれたことが、そんなに堪えたのか?


「おば――」


 その瞬間、俺は心臓を握り締められる錯覚に陥る。


「健……何か言ったかしら?」


 おばちゃん呼びがそんなに嫌だったのかと聞こうとしただけだったのに、問いかける時に使うだけでもNGみたいだ。別にソフィのことを“おばちゃん”呼びするわけでもないのに……解せぬ。


 というか、その無言の圧力をやめてくれ。アルカイックスマイルが、アルカイックスマイルじゃなくなってるぞ。後ろに般若が見え隠れしているじゃないか……それ、なんてス〇ンド?


 兎にも角にも、体を元に戻してもらわないと。


「もう元に戻してもいいの? 負けたままになっちゃうわよ、健くん♪」


 挑発するようにしてニヤニヤとするソフィ。


 ……よし……その喧嘩、買った!


 俺は安っぽい挑発に乗ってソフィを押し倒すと、挑発を口にしたその唇に貪りつく。


「ちゅ……あんっ、健くん……はげし……ッ……」


「まだ、健くんなんて言うか!」


 そうして始まったソフィとの対決は、その後は何度もソフィを攻めてはみるが、一向に事態は好転しない。


 対して、俺は余裕がない。というよりも、継続的に出し続けている。余裕云々の話ではない。絶賛負け戦継続中だ。


 だが、ソフィが俺の【精力絶倫】をオンにしっぱなしだったことにより、たとえ幾度となく出したところで俺が衰えることはない。むしろ、出しながら動き続けている始末だ。あ……また出た……



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 ――ちゅるん……


 ……あ……卵の中に入っちゃった♪


 いつもは健が避妊をするから問題なかったけど、今は私との勝負に必死になって勝とうとしているから、当然のことながらいつもの避妊魔法はかけていない。そして、私はそのことを伝え忘れていた。


 だって、頑張る健が可愛いすぎて、それで頭の中が占められていたんだもん!


 だから、これは事故だ。そう、事故。健もきっと許してくれるはず。たとえ許さなくても、許させる。


 それと、どこかの誰かから「確信犯だろ!」というツッコミが入りそうだけど、そんなのは知らない。健が理不尽を強いる時、たまに「俺がルールだ」なんて言っているから、私もそれに倣って言い返してやるわ。


 ――「女神である私がルールよ」って。


 ふふっ、これで前世の健との間に子供ができたわ。思わぬところでの幸運って、健の世界でどう言うのだったかしら? 確か……棚から牡丹餅?


 まぁ、それはいいとして、前世の健と今世の健。2人の遺伝子をそれぞれ引き継ぐ子供を持つのは私が1番最初。また、1番が取れたわ。


 ここまできたら、ショタケビンも食べちゃお。こっちは5番になるけど、仕方がないわね。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 俺はその後も果敢に攻めてはいったが、結局のところ俺がソフィを降すということはできなかった。


 そりゃ、当たり前だ。いくらポークビッツがポークウインナーになったところで、たかが知れてる。神とポークウインナーさんじゃ、神が勝つに決まっているからだ。


「降参だ、ソフィ。この体だとソフィには勝てない」


「ふふっ……だけど、試合には負けても勝負には勝っているわよ」


「ん? どういうことだ?」


「だって、私の心と体は満たされたもの」


「そっか……それならいいや」


 ソフィが満足したということで、俺はソフィの隣に寝転がると何もない天井を仰いだ。まぁ、その仰いでいる天井なんて、端からこの空間には存在していないのだが。


 そして、ピロートークを続けていく俺とソフィだったが、ソフィが思い出したかのようにして伝えてきた。


「そういえば、2人目ができたわ」


「…………はい?」


 突拍子もない言葉に対して、俺は混乱が後を絶たない。


「2人目よ、2人目」


 やはり大事なことは3度言うソフィだが、俺はわけがわからなくなる。聞き間違いでなければ、ソフィは2人目ができたと言ってきたのだ。


 そう……2人目だ。


 俺の解釈が間違っていなければ、2人目というのは子供のことを指していると思われる。いや、むしろ子供のことだろう。それ以外はありえない。


 ん……待てよ……俺、避妊魔法って使ったか? いや……記憶を漁ってみても使った形跡がない……!?


「ソフィーリアさんや」


「なあに、健さんや」


「つかぬことをお聞きしますが、避妊魔法を使っていなかったことはご存知で?」


「知らないわ。だって、健が可愛すぎるんだもん! 私は悪くないもん!」


 ……いや、“もん”って……ほっぺたを膨らませて、あざと過ぎるくらいに可愛い仕草だけどさ。こういう時のソフィって確実に確信犯であることが過去の経験から推測できるんだけど、確信犯だよね?


「健は嫌なの? 2人目はいらない? 私は健が嫌なら、この子を消滅させるわ」


「それはしなくていい。生まれてくる子供に罪はない。俺が腑に落ちないのは、意識することなく孕ませたことだ。どうせなら、意識した上で孕ませセックスをしたかった」


「……種付けプレス?」


「ちょっ……どこでそんな言葉を覚えたの!?」


「地球のエロ本」


「…………」


 マジか……地球の創作者たちよ……君たちは知らぬうちに、異世界の女神に性教育を施したようだ。ってゆーか、まだ地球のアダルト漁りをしていたんだな。全くもって勤勉である。


「そうそう! それで健に聞きたいことがあったのよ!」


「嫌な予感しかしないけど……なに?」


「アヘ顔ってあるでしょ? 口を開けていたり、ヨダレが垂れていたりするのはわかるんだけど、どうして舌がだらんと垂れて伸ばされているのかなって疑問に思ったのよね」


「アヘってるからじゃないのか?」


「アヘってるのは私でもわかるわよ。そういう描写なんだから」


「それなら別に疑問に思わなくてもいいだろ」


 ソフィが何に対して引っかかっているのか、俺は皆目見当もつかないし、そもそも、アヘ顔をそこまで熱心に見るソフィはいったいどこへ向かっているのか、ということが気になって仕方がない。


「思考放棄は衰退の第一歩よ。よく考えてみて。舌を口から出す時って意識してするでしょ? 無意識にそれを行うことはできないわ。本来は口の中に収まるようになっているんだから。健だって、今は口の中に舌があるでしょう?」


「まぁ、出そうとしていないからあるな」


「それなのに、アヘ顔は舌を出しているのよ。絶頂の極みがアヘ顔でしょう? つまり、女性の視点で言えば、アヘ顔をするくらい絶頂しているのに、そこで頑張って舌を出しているのっておかしいのよ」


 うん……? ソフィの着眼点は意味がわからない。頑張って舌を出すって何だ? 女性がエロ本を見ると、エロさよりそこが気になるとでも言うのか?


「健はイク時にそれのことしか頭にないでしょう? 女だってそうなのよ? 絶頂する時に、『この後のご飯は何を食べようかな?』みたいな思考はできないのよ。演技でイク振りをしていた場合は別よ?」


 例えが突拍子もない。なぜ、ご飯の話が出てくるんだ? お腹が空いたのか?


「腹でも減ったのか?」


「もうっ、そこに食いつかないで! つまり、私が言いたいのは、アヘった時に舌を出しているのがおかしいって言いたいの! 絶頂しているんだから、舌を出さなきゃって思考は生まれないの。むしろ、舌なんて出していたら絶頂の勢いで噛んでしまうわよ。痛いだけじゃない」


「はぁぁ……つまり、ソフィは絶頂している時に、わざわざ舌を頑張って出しているアヘ顔の描写が気に入らないわけだな? それをしている時点で意識して出しているから、絶頂は演技であると?」


「そう、それよ! それに加えて、がに股を晒してアヘっている描写もおかしいのよ! アヘるほど絶頂しているのに、がに股で踏ん張れるわけないじゃない! いったいどれだけ過酷な筋トレよ!?」


「ぶふっ……き、筋トレって……」


 ソフィがとんでもない例えをするものだから思わず笑ってしまうが、確かに過酷な筋トレではあるだろうと妙に納得してしまう俺がいる。


「だが、絶頂の事後でアヘっているわけだろ? 何となくできそうじゃないか?」


「……よく考えてみて。アヘるほど絶頂した後に、『あっ、舌を出さなきゃ!』って実行に移しているのを想像すると、アホに見えない? しかも、アヘ顔まで作ってよ? がに股なら、そこから更にポーズをとってキープするのよ?」


「…………しらけるな」


「でしょう!?」


 これにより、研究熱心なソフィによって思わぬ影響を受けてしまった俺は、今後、エロ本でソフィが言ったような描写を見た時には、素直にアヘっているとは思えなくなるだろう。


 それは、俺の楽しみが減ってしまったとも言える瞬間だ。いや、まぁ……地球産のエロ本なんて手に入らないから、別にいいんだけど。


 結局のところ、ソフィの気になっている点という名の愚痴を聞いている感じになってしまったが、体はまだ元に戻して貰えないのだろうか……


 いや、それよりも子供の話だな。ソフィに2人目ができたってことは、ここから芋づる式に次々と名乗りを上げてくる嫁たちが出てくるだろう。


 全員に対して平等に1人目の子供を産ませてからと考えていたけど、こうなってしまっては致し方がない。2人目以降の子供を作る時は、コウノトリ任せにしよう。もう、避妊はやめだ。


「それはそうと、ソフィ」


「なあに?」


「体を元に戻してくれないか? 自分で試そうとしているんだけど、ソフィのかけた封印が解けなくて元に戻れないんだ」


「いいわよ。ついでにスキルの限定封印も解くわ」


 そして、再び俺の体が光に包まれると、ようやく元の体に戻っ…………てないっ!!!?


「さあ、ショタケビンで延長戦開始よ? 私に1番をくれなかった罰なんだから♪」


 こうして俺はソフィから延長戦を申し付けられ、スキルの封印を解いてもらったこともあり、体は小さかろうといつも通りの攻めを繰り出すことができた。


 それにより、ソフィに対して敗北宣言をすることなく、ソフィを何度も絶頂へと導くことに成功する。


 ちなみに、ソフィが素のアヘ顔を披露してくれたが……うん。確かに舌は出ていない。どうやら、ソフィの言ったことは正しかったことが証明された瞬間でもあった。

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