第633話 ゴブリンヒューマンとの戦い

 九鬼たちが異世界言語論議をしていた頃、無敵は愛用の刀を鞘から解き放っていた。


 実は無敵、元々は長剣を愛用していたのだが、九鬼がドワン作の【蒼瀧そうりゅう】をことある事に、「やっぱり日本人なら刀だよな」と自慢してくるため、イラッとした無敵はとある日のうちにドワンに対して刀の製作依頼を出したのだ。


 そして、完全にあれやこれやの注文をつけた無敵の要望を聞いて、ドワンが完成させたのが【珀琥びゃっこ】という、その名すら無敵が付けた唯一無二の刀である。


 その【珀琥びゃっこ】は九鬼に対抗するためなのか、【蒼瀧そうりゅう】の刀身に龍が彫られているのに対し、【珀琥びゃっこ】の刀身にはその名が示す通り虎が彫られている。更には、鞘までもがケビンの持つ【白寂はくじゃく】を参考にして、白くしてもらう程の徹底ぶりだ。


 これによって完成した【珀琥びゃっこ】を受け取った無敵は、さっそくその足で九鬼を見返すために見せびらかしのお披露目会を開催したが、無敵自慢の【珀琥びゃっこ】を見た九鬼の何気ない感想が、鼻高々となっている無敵を再びイラッとさせた。


「虎なら虎雄が持ってこそだろ。何してんだ、お前」


 さすがにその安直な意見によってイラッとさせられた無敵は、そっくりそのまま少し変えただけの言葉を九鬼に返した。


「お前の龍だって竜也に持たせてないだろ! お前こそ、何してんだ!」


「は? 馬鹿かお前? 何で馬鹿に大切な俺の刀を渡さなきゃなんねぇんだよ!」


「馬鹿はお前だろ! 自分のことを棚上げするな!」


 それからもギャーギャーと言い合う2人を止めたのは、昔から仲裁慣れしている十前ここのつだった。


「俺は自分の剣と盾があるから、力也の刀はいらないぞ。仮にも【暗黒騎士】の俺が刀なんて使ってたら不釣り合いだろ。想像してみろ。武士の甲冑ならいざ知らず、西洋鎧を装備した俺が刀を振るうんだぞ? 違和感が半端ないだろ」


 十前ここのつの主張に対して、素直に想像してみる九鬼と無敵。


 その十前ここのつの戦闘時における格好は、【暗黒騎士】らしく黒い鎧に身を包み、これまた黒い鞘と柄が黒い長剣、ダメ押しで黒い盾まで装備しているのだ。「どこの中二病患者だ!」と言われても仕方のない格好である。


 そして、その姿から長剣を外して、代わりに刀を握っている姿を想像してみた途端、“騎士とはこういう姿だ”という先入観が邪魔をしたのか、2人は揃って首を振ってしまう。


「「…………ないな」」


 そこから更に追い打ちをかけるようにして、十前ここのつ月出里すだちの姿でも想像するように伝えると、再び2人は首を振ってしまった。


 結局のところ、十前ここのつの言に納得してしまった2人は、お互いに刀は自分が持つべきだという結論に達してしまうと、言い合いをしていたのが嘘かのようにして終息するのだった。


 経てして、そのような経緯があったものの、当時は戦闘時における無敵の【珀琥びゃっこ】を振るうさまがあんまりなものだったためか、九鬼が【刀剣術】の指導書をスキルで出して貸し出すという場面もあった。


 結果から見れば、なんだかんだで仲の良い2人なのである。




 ――閑話休題




 無敵が愛用の【珀琥びゃっこ】の峰を肩に乗せて相対しているのに対して、ゴブリンヒューマンは大鉈を大剣サイズにしたような斬馬刀を手にしていた。


 その斬馬刀は明らかに手入れをしていないさまが見て取れて、何らかの血の乾ききった跡がそこかしこに付着している。仮にそれで斬られようものなら、傷口から雑菌でも入って感染症に陥りそうなのは火を見るより明らかだ。


 そのような不衛生極まりない斬馬刀を軽々と持ち上げるゴブリンヒューマンは、無敵と同じように肩に乗せると不敵な笑みを浮かべている。


 それはまるで、格下相手に先手を譲ってやると言わんばかりの表情であり、あからさまに無敵を挑発しているのが見て取れた。


「なんだぁ? 来ねぇのか?」


 ゴブリンヒューマンが態度だけではなく言葉でも挑発を始めてしまうと、無敵は挑発に乗るのは癪だがこのままでは時間を無駄にするだけだと感じ取り、先手をとることに決めた。


「《ダークアロー》」


 無敵は相手の手の内を探るために、まずは魔法で牽制することにしたようだ。


 ゴブリンヒューマンに向けて飛来する数多の黒矢。無敵としては避けるか結界を張るかのどちらかだと踏んでいたが、ゴブリンヒューマンは第三の選択を披露した。


「しゃらくせぇ……【魔刃】」


 ゴブリンヒューマンが斬馬刀を横薙ぎにひと振りしたかと思えば、放出された魔力の刃が黒矢を打ち消す。それでもなお勢いの衰えない魔力の刃は、そのまま飛んでいくと天井付近の壁にぶつかり亀裂を生み出した。


「しょっぼい魔法だなあ?」


 そう言いつつニヤニヤと笑みを浮かべるゴブリンヒューマンだったが、その得意げな顔つきを見た無敵が口を開く。


「小手調べの初級魔法を打ち消せて満足か? お前のちっぽけな自尊心を満足させられたのなら、俺も魔力を消費した甲斐があったってもんだ」


「っ……てめぇ……!」


 どうやら無敵の言葉が癪に障ったようで、余裕綽々だったゴブリンヒューマンは斬馬刀を片手に駆け出し、無敵との間合いを詰める。


 そして、迎え撃つ無敵は打ち消された黒矢を再度撃ち放ち、ゴブリンヒューマンを苛立たせていく。


「きかねぇって言ってんだろ!」


「それはいま初めて口にしただろ。自分が何を喋ったかもわからないほど、お前の頭は空っぽなのか?」


 間合いを詰めながらも黒矢を打ち消していくゴブリンヒューマンは、無敵の言い返しにフラストレーションが溜まる一方だ。


「煽りまくってんな、力也……」


「まぁ、いつものことだろ」


「敵の冷静さを欠かせるという点では、有効な戦術ですね」


 外野として戦いを見守っている3人が感想をこぼしていると、ゴブリンヒューマンは無敵のいる部屋の中央辺りまで迫っていた。


「死ねや、人族風情がっ!」


 振り下ろされる斬馬刀に対し、無敵は刀を振り上げ迎え撃つ。それによって激しくぶつかり合った武器は、金属音を鳴り響かせる。


 そして、最初は拮抗していた鍔迫り合いだが、少しずつ無敵が押され始めると、無敵は片手持ちから両手持ちに変えて耐え続けていく。


「くっ……!」


 もとより、振り下ろしと振り上げである。どちらがより多くの負担になるのかは、誰の目にも明らかだ。更には、斬馬刀の大きな刀身と刀の細い刀身とでは、質量そのものも違ってくる。


 やはり腐っても魔王ということなのか、無敵が両手で耐えているのに対して、ゴブリンヒューマンは片手で押さえ込んでいるあたり、自力にも差が出ているようだ。


「さっきまでの威勢はどうした?」


 ニヤニヤとした顔つきで嘲るように言うゴブリンヒューマンによって、無敵のイライラ度が増していく。それによりイラついた無敵は、とある理由が原因ではなはだ不本意ではあるのだが、効果としては初見の者に対しては絶大な威力を発揮する、とある人物の技を使うことにした。


「《ファイア》」


 そして、いきなり眼前に火を出した無敵によって、ゴブリンヒューマンは怯んでしまい、無敵の作戦としては成功を収めることになる。


 だが、無敵としては不本意極まりない。何故ならば、これはよくケビンが使う手であり、ケビン曰く「猫騙し魔法バージョン」と名付けているこの技に、早くも頼らなければいけなくなったからだ。


 他人の技で優位に立つなど、無敵のプライドが許さない。しかし、劣勢に追い込まれていたのも事実。その事を考えると、無敵はグチグチと思考をめぐらせるより先に、怯んでいるゴブリンヒューマンに蹴りをお見舞して、体勢を立て直した。


 そこから今度は、先程の仕返しとばかりに無敵が刀を振るっていく。そして、無敵が先程のやりとりとは逆で、上段から刀を振り下ろすと、ゴブリンヒューマンはそれを下からの斬り上げで弾き返した。


「調子にのんなよ、ザコがぁ!」


 やはり腐っても魔王。無敵のように抑え込まれることはなく軽々といなしてしまい、そこからは2人の剣戟が幾度となく繰り広げられる。


 互いに一歩も引かない攻防が続いていく。だが、覚醒した魔王であるゴブリンヒューマンの方が優勢にあるようだ。


 そして、このままではジリ貧となるであろう無敵を眺めている九鬼は、何を思ったのか剣戟を繰り広げている無敵に声をかけた。


「おい、力也。そのままだと負けるぞ。助けが欲しいなら殺られる前に言えよ?」


 その声を耳にした無敵はゴブリンヒューマンを押し返し間合いを確保すると、その隙に九鬼へ振り返り声を荒らげる。


「黙って見てろ! お前の出番はねぇ!」


 ゴブリンヒューマンの隙をついて、あからさまにイラついた雰囲気で反論した無敵だが、相手にとってはそれが逆に隙となる。


 これがそこら辺の魔物相手なら、僅かな隙を晒したとしても対応できる無敵なのだが、相対しているのは魔王である。その僅かな隙は、魔王相手には十分すぎるほどの隙となってしまったのだ。


 そして、既に体勢を立て直しているゴブリンヒューマンは、その僅かな隙に入り込むような形で無敵との間合いを詰めたら、斬馬刀を振り下ろした。


「――ッ!」


 さすがにそれを拙いと感じた無敵は即座に反応したが、気構えている状態での防衛ではないので、簡単に力負けしてしまう結果を生み出してしまう。


「死ねや、ザコがぁ!」


 その言葉とともに振り抜かれた斬馬刀によって、無敵は防ぐことで精一杯となり、ゴブリンヒューマンの膂力を殺しきることができずに、思い切り吹き飛ばされる。


 そして、飛ばされた無敵は開きっぱなしの扉を通過してその先の壁に当たると、止まることなくその壁すらも破壊し、外へ放り出されてしまった。


「…………」


 その光景を沈黙し見送っていた九鬼に対し、十前ここのつは呼びかけた。


「……おい、泰次やすつぐ


「な、何だ……?」


 あからさまにやっちまった感を出していた九鬼だが、十前ここのつはそれがわかっているのか指摘を始める。決して九鬼を責めようとしているのではなく、事実をありのままに語ろうとしているだけだ。


「お前が話しかけなければ、力也は望まぬ空中飛行をせずに済んだんじゃないのか?」


「あ……あれはだな! 力也を鼓舞しようとしてやっただけで……じ、実際、鼓舞はしていただろ?!」


「鼓舞と言うよりも、あれはムカついていただけだな」


「焦りから一旦落ち着けたんだから、問題ないだろ?!」


「落ち着いたと言うよりも、逆上じゃないか?」


「ぐっ……そ、そもそも! あいつが本気を出さないのが悪いんだ! 余裕かましているから、ああなったんだ!」


「はぁぁ……」


 どうにもこうにもバツの悪い九鬼が責任転嫁を果たすと、十前ここのつは呆れてしまい溜息しかでない。そして、昔から変わらない2人に対し、まだまだ自分が面倒を見なければならないと思わせるには充分であった。


 こうなってくると、無敵グループの中での一番の苦労人は、意外と面倒見のいい十前ここのつなのかもしれない。


 しかし、そのような九鬼と十前ここのつのやり取りも、ゴブリンヒューマンの声によって現実に引き戻されてしまう。


「次はお前たちだ」


 そう言いつつニヤニヤとするゴブリンヒューマンは、無敵に対して人族にしては中々にやるやつだと感想を抱いてはいたが、所詮はその程度という認識の枠組みからはみ出ることがなかったので、残りの2人もその程度という枠組みにはめてしまい舐めてかかっていた。


 しかしながら、ここにいるのは無敵ほど他人に関して優しくない九鬼だ。それが敵相手ともなれば顕著になってしまうことを、余裕綽々のゴブリンヒューマンは知らない。


「なに勝った気でいるんだ? 力也はまだ死んでないぞ」


「たとえ生きていても、お前らを殺したあとでトドメを刺しに行けばいいだけだ。その後は他の男どもも殺して、お待ちかねの種付け時間の始まりだ」


 下卑た視線をプリシラに向けながら、そう言うゴブリンヒューマンだが、その視線を受けるプリシラはどこ吹く風である。悲しいことに、ゴブリンヒューマンは全くもって相手にされていない。


「殺るのか、泰次やすつぐ?」


「殺らねぇよ。横取りなんてしたら、後で力也に何言われるかわかったもんじゃない」


「なら、外に逃げるか?」


「いや……外にいる力也へ着払いの宅急便だ」


 そう言いながら前へと歩き出す九鬼。その手には既に【蒼瀧】が握られていた。


「1人だと……? ザコがまたイキがるのかよ」


 まとめてさっさと殺したかったゴブリンヒューマンは、それに反して九鬼が1人で立ち向かってくることに辟易する。


 そして、そのゴブリンヒューマンが見つめる視線の先で、九鬼がゆらっと体を動かしたと思えば、その姿を見失ってしまった。


 すると次の瞬間には、九鬼が目の前にいる。


「――ッ!?」


 いったい何が起きたのか理解が追いつかないゴブリンヒューマンだったが、刀が振り下ろされているのだけは理解し、本能的に命を守ろうと斬馬刀を盾代わりに使う。


 鳴り響く金属音。


 咄嗟の防御によりゴブリンヒューマンが命を拾うことはできても、その場で堪えることはできなかったようだ。


 今回は無敵ではなく、自身が吹き飛ばされる羽目になったゴブリンヒューマンがそのまま飛んでいくと、元いた場所まで戻されてしまい、謁見用であったであろう椅子を壊し、その後ろの壁に激突する。


「ぐはっ――」


 壁に衝突したショックもあるだろうが、ゴブリンヒューマンはいったい何が起きたのか理解できない。ザコだと見下していた人族にしてやられたのだ。理解したくとも魔王であるプライドがそれを邪魔して、混乱が後を絶たない。


「おい、泰次やすつぐ。そっちに飛ばしてどうする。飛ばすならこっちだろ」


 さもその光景が当然であるかのように語る十前ここのつは、九鬼がゴブリンヒューマンを吹き飛ばしたことよりも、飛ばす方向が真逆であることを指摘していた。


「いや、そっちから斬りかかって行ったんだから、あっちに飛ぶのは当たり前だろ。あいつの後ろを取ったら、そっちに飛ばすから心配ご無用だ」


「あんまり遊ぶと力也みたいになるぞ」


「わかってる。さっさと外へ送らないと、力也が駆け上がって来そうだしな」


 なんてことのないように世間話っぽく、軽く会話をしている2人を目にしたゴブリンヒューマンは、魔王であるというプライドを大いに刺激されてしまう。


「……調子にのんなよ、このクソザコがぁぁぁぁ!」


 すぐさま体勢を立て直したゴブリンヒューマンは、脇にいた魔族の女兵士を掴むと、それを九鬼に向かって投げつけた。そして、ゴブリンヒューマンがそれを追いかける形で九鬼に迫る。


 この行動に至ったゴブリンヒューマンとしては、飛んできた女兵士を受け止めた九鬼を、そのまま女兵士ごと斬り捨ててしまおうという作戦だった。


 それは、人族特有の人情というものに訴えかけた非道な行いである。ゴブリンヒューマンは、人族に限らず大抵の人型種がそういうものだと認識している。


 そして、根っからの魔物であるゴブリン種にそのようなものはない。あるのは弱肉強食の理と繁殖のみだ。よって、ゴブリン種のゴブリンが進化したゴブリンヒューマンとて、その例外ではない。


 完全に勝った気でいるゴブリンヒューマンは自然と口角が上がり、九鬼を殺したあとはそのまま残る十前ここのつまで迫り、さっさと斬り殺してしまおうという先の見通しまでしていた。


 だが、嬉々としているゴブリンヒューマンの作戦は成功しなかった。


 何故ならば、相対しているのは九鬼だからだ。これが、無敵や十前ここのつなら別の未来もあっただろうが、相手はあの九鬼である。


 迫り来る女兵士を九鬼は受け止めることなく、刀を構えるとそのまま心臓を一突きして、背後から迫るゴブリンヒューマンを刺し貫こうとした。


 言うなれば、ゴブリンヒューマンの立てた作戦を、そっくりそのままやり返している形だ。


「――ッ??!!」


 驚愕で目を見開くゴブリンヒューマン。


 自分の予想していた展開とは全く違う形、むしろ自分が行おうとしていたことを九鬼からされたことにより、意味がわからず理解の範疇を超えてしまう。


 そして、スローモーションのようにゆっくりと自分の体に迫る刀の切っ先を見てしまったゴブリンヒューマンは、必死の思いで身を捩り躱そうと試みる。


「くっ――!」


 ゴブリンヒューマンがこのままいけば躱せると思ったのも束の間、刃を立てた状態だった刀は九鬼が手首を捻ることによって横向きとなる。


 それによってゴブリンヒューマンが刺し貫かれることはなかったが、脇をサクッと斬られてしまうことになってしまった。


「チッ……浅いか」


 再び距離を取ったゴブリンヒューマンは、信じられないものを見るような目つきとなる。


 ゴブリンヒューマンが距離を取ったことにより、九鬼は刺していた女兵士から刀を抜き取ると、シュッとひと振りして刀についた血を払う。


 そして、足元に転がっている女兵士を掴んだかと思いきや、そのまま横の壁に向かって放り投げた。


 その際に壁際にいた赤ちゃんゴブリンが「グギャッ!」と声を上げたので、もしかしたら下敷きになった可能性がある。九鬼が駆除するために、狙ってやったかどうかは定かではないが。


「て……てめぇ! 人情ってもんがねぇのか!? 相手は無抵抗の女だぞ!」


 使い捨てにしようとした挙句、その原因を作った者が何を言っているんだと、非難を浴びること間違いなしの発言だが、それを聞いた九鬼は非難をするでもなく正論を返す。


「は……? 馬鹿かお前? お前を含め、あいつやここにいる奴らはこの国に攻めてきた敵だろ。何で敵を助けなくちゃいけないんだ?」


 全くもってその通りであるが、ゴブリンヒューマンとしては腑に落ちない。今まで見てきたどの人族と比べてみても、九鬼の持つ価値観が違いすぎるからだ。


 これがはみ出し者扱いされる盗賊とかなら、ゴブリンヒューマンとて納得もできる。自分と似たような価値観を持っているからだ。


 だが、目の前にいる九鬼は、この国を救おうとしてやって来たやつらの仲間という認識だ。正義のために立ち上がった者たちの仲間とは、百歩譲っても到底思えないような言動である。


「そもそも、お前が苗床にした時点で精神崩壊してるだろ。本人から殺してくれてありがとうと感謝はされても、原因を作ったお前から非難をされる筋合いはないぞ」


「……人の皮をかぶった化け物め」


「いや、今更自己紹介とかいいから」


「っ……きさま……!」


 こうして、無敵の時とは違い九鬼が相手になった途端、その九鬼の価値観によって劣勢に立たされてしまったゴブリンヒューマンは、再び動き出した九鬼によって無敵に送るための配達準備を進められてしまうのであった。

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