第626話 脱落者続出!?

 冬の寒さが厳しくなってきた今日この頃。魔大陸で勇者ごっこを続けているケビンたちは、今現在、吹雪に見舞われている。


「さぶっ!」


 いくら北国に住むケビンとて、寒いものは寒いのだ。この日はそうそうに冒険を諦めてしまうと、話し合いにより【携帯ハウス】で暖を取ることにした。


「ふぃ~家の中は暖かいな……」


「それにしても、変な気候だね」

「摩訶不思議」

「いきなり降ってきたもんねー」

「雪山にいるようだったわ」


 そう語り合うティナたちが不思議がるのも、当然のことである。ケビンたちは晴れていた平野を歩いていたのに、ぽつりぽつりと雪が降り始めたかと思いきや、さして時間も経たぬうちに吹雪へと変貌したのだ。


 これがサラの言うように雪山であれば納得できたものの、平野でのいきなりの天候変化である。言うなれば異常気象だ。そして、そのことを当然と思える者はこの場にはいない。


「もう外は真っ白な銀世界だな。というか、白以外が見当たらない」


 窓から外の様子を窺うケビンの言う通りで、今現在、外は猛吹雪に見舞われ、一寸先は闇ならぬ一寸先は白と言わんばかりに、白以外の色が無くなっている。


「仕方がない。今日はこのままのんびりと過ごすとして、明日の天候状況でまたどうするか決めよう」


 外を見ながらケビンがそう伝えたことにより、ティナたちは装備品を外していくと部屋着に着替え、思い思いの過ごし方を満喫していくのだった。


 そして、翌日。朝食を済ませたケビンたちは、これからの予定を話し合っていく。


「えー……みんなも見てわかってると思うけど、今現在、この家は埋もれてる」


 そうケビンが語るのは冗談でも何でもなく、今現在、【携帯ハウス】は雪に埋もれている。雪に埋もれていると言っても、家全体が埋もれているわけではなく、家の半分近くが埋もれているといった状態だ。


 それは、窓から外を見れば一目瞭然であり、窓のほとんどの面が雪で塞がれているのだ。


「ここまでくると、雪かき云々ではどうしようもない」


「じゃあ、どうするの? 雪が溶けるまで待機?」


 そうティナが聞き返すのも仕方がないと言える。出入口である玄関のドアは完全に雪に埋もれていることが予想され、窓からの出入りも困難であることが目に見えて明らかだ。


 そして、天井窓とも言える浴室の開閉式窓は、雪が積もっていて真っ白な風景しか映し出していない。


「まぁ、家に籠ったとしても、食料は【無限収納】の中に十分にあるから問題ないけ――」


「エッチ三昧!?」


「チジョフ」


「ちょ、ニーナ!」


「ティナはブレないねー」

「ふふっ、そこがティナさんのカワイイところだわ」


 いつもと変わらないティナの願望にニーナは毒を吐き、クリスは呆れ、サラが生温かい視線を向けるが、言葉を遮られたケビンは溜息をつきつつも会話を再開させる。


「ティナの願望はともかく、言わなくても今がどういう状況だかわかるだろ?」


「ああ、アレね?」

「はた迷惑」

「連中も飽きないよねー」

「ムキになっているのかしら?」


 ケビンの言った言葉にそれぞれが察している通り、今現在、ケビンたちの置かれている状況は、なにも【携帯ハウス】が雪に埋もれてしまっただけではない。


 それは、朝食中に唐突に起こった出来事だ。


 のんびりと朝食を摂っていた面々だったが、いきなり轟音が鳴るとともに、すぐさま全員が気配探知を展開させたのだった。その結果、【携帯ハウス】が敵に囲まれていることがわかり、穏やかな食事風景から一変、騒々しく落ちつかない食事風景へと様変わりしたのだ。


 だからと言って迎え撃つということはせず、ケビンが「うるさい」とこぼすとともに遮音の結界を張り、結局のところ多少は外の様子が気になるものの、ケビンたちは穏やかな食事風景を取り戻すことになった。


「とりあえず、連中の攻撃程度でこの家がビクともしないことは実証されているが、如何せんウザい」


「それじゃあ、迎撃する?」

「迎撃魔法展開?」

「完全な雪の上での戦闘かぁ……」

「滅多にない機会ね」


「まぁ、そうなるな。この雪の中でも、満足に動き回れる魔物というのにも興味はある。きっと、レア素材が手に入るはず」


「うーん……寒冷地仕様の装備品が作れるかな?」

「むしろ作りたい」

「ドワンさんにお願いだねー」

「他のみんなの分も剥ぎ取らないといけないわね」


「ということで、作戦はまず――」


 こうして、ケビンは魔物を見てみたいという好奇心で、ティナたちは新しい装備品を作るための素材目的で、それぞれがそれぞれの目的のために、【携帯ハウス】を攻撃中である魔物と戦う意思を持ってしまった。


 その後、話し合いを終わり戦闘準備を終えた面々がリビングに集合し、作戦の第一段階が開始される。


「それじゃあ、準備はいいか?」


「任せて」


 ケビンが確認を取ったのは後衛職のニーナだ。今回の作戦の第一段階は、固定砲台としてニーナをまず外に出して牽制させ、密集している敵をバラけさせるのが目的だ。


「それじゃあ、行くぞ!」


「うん!」


 そして、ケビンとニーナが外。正確には【携帯ハウス】から少し離れた所に転移すると、ケビンがすかさず声を上げた。


「家のことは気にするな! ガンガン殺ってしまえ!」


「了解! 【多重詠唱】、逐次魔法展開! 《ファイアランス》」


 ニーナの頭上から次々に展開される炎の槍が、目標地点である【携帯ハウス】へと飛来していく。


 その光景を前にしたケビンはニーナの成長ぶりに感心し、敵である魔物たちはいきなり飛んできた炎の槍に慌てふためき、なすすべもなく被弾していった。


 しかしながら、数は暴力と言わんばかりに魔物の数が多い。それゆえに、【携帯ハウス】に密集していた魔物たちは被害を受けていたが、待機していた周りの魔物たちはそうでもない。


 その待機していた魔物たちが次に取る行動というのは、手に取るように丸わかりであり、その予想通りにケビンたちの所へと殺到する。


「作戦の第二段階、発動!」


 ケビンのその言葉とともに姿を現したのは、サラとクリス前衛2人にティナだ。


「完全な雪の上での戦闘だ。いつもと勝手が違うから、気を抜くなよ!」


「「「了解!」」」


 そして、殺到する魔物相手に駆け出す2人。その2人は、いつもと勝手が違うと言われた通り、地を踏みしめようとするも、雪の中に埋もれてしまう感覚を感じ取ってしまう。


 ゆえに、まずは柔らかな雪の上での戦闘に慣れるために、いきなり魔物の集団に突っ込むことはせず、どのくらいの力で踏み込めばいいのかを、多対一にならないように立ち回りながら検証し始めた。


 変わってティナは、サラとクリスが感覚を掴むまでの間、魔物が殺到しないようにと弓を使い牽制する。その間にケビンは全体の状況を見ながら、魔物についてサナに相談したのだった。


『アレってイエティか?』


『イエティが実在するわけないじゃないですか。プークスクス』


『ぐっ……じゃあ、アレは何だ?』


『スノーマンです』


『まんまかよ!』


 そうツッコミを入れるケビンの視線の先には、真っ白な体毛に覆われた二足歩行の魔物がひしめいている。


『聞くまでもないが、弱点は火属性だろ?』


『まぁ、答えるまでもないですね』


 ケビンはサナからの回答に溜息をつきつつ、ニーナに次なる指示を出す。


「ニーナ、家の周りはだいぶけてきたから、あとは魔力消費を抑えて手数で援護だ。ちなみに、思っていた通りで弱点は火属性だ」


「わかった。《ファイアアロー》」


 ファイアランスから手数勝負となりファイアアローに切り替えたニーナは、ティナが対応しきれていない魔物に対して、怒涛のごとく炎の矢を撃ち出していく。


 すると、ニーナに対抗したのかどうかはわからないが、スノーマンたちは足元の雪を掴み取ると、丁寧ににぎにぎと圧縮し始めた。


「おい……まさか……」


 ケビンがスノーマンの行動に対して、ある種の光景を思い出し戦慄してしまう最中、準備が整ったスノーマンが大きく振りかぶる。


「っ、まずい! 雪玉が飛んでくるぞ! 全員、避けることに集中しろ!」


 咄嗟に叫んだケビンによって、前衛2人は相対する魔物の後方に位置するスノーマンに注意を払い、ティナも矢を射るのをやめて回避行動を優先する。


 そして、ケビンはスノーマンにやり返すため、自身の複製体となる分身たちを【複製】により作り出した。


「2号から10号まで来い!」


「「「「「さぶっ!」」」」」


 だが、ケビンの複製体は当然のことながらケビンであり、登場そうそうに寒さからか震えている。


「なんてところに呼び出してんだ1号! 寒いだろ!」


「寒けりゃ着込め!」


「防寒着なんて持ってるわけないだろ! 服よこせ!」


「「「「「そうだ、そうだー!」」」」」


「我々は待遇の改善を求める!」


「「「「「そうだ、そうだー!」」」」」


 番号という序列からか2号が代表してケビンに文句を言い、3号以下の者たちはそれに賛同する。自身の複製体とは言え、ケビンは自分自身を相手にすると、こうも面倒くさい人間なのかと辟易した。


 そして、このままでは埒が明かないとして、ケビンはサクサクと【創造】で防寒着を創り出していくと、それぞれに投げ渡していく。


「もう寒くないだろ! あいつらにやり返せ!」


「ん……あいつら……?」

「うおっ!? イエティだ!」

「……雪……合戦……だと……!?」

「童心を思い出すな」

「こちとら江戸っ子でぇい!」

「俺は浜っ子」

「じゃ、わいはなにわっこや!」

「道産子はいないのか!?」

「いなくても、雪の降る街なら誰でも経験してるだろ」


「お前らは全員、俺産のケビンっ子だろうが!」


「語呂わるっ!」

「ケビンっ子はねーよな?」

「ネーミングセンスを疑うレベル」

「日本人あるあるか?」

「ある、ある」

「そもそも、俺たちはケビンの子供じゃねーだろ」

「複製体だしな」

「むしろ、本人?」

「それな」


「いいから、さっさと行けぇぇぇぇ!」


 どうにもこうにもやりにくい相手となる複製体にケビンが怒鳴り散らすと、全員が全員、ヤレヤレといった雰囲気を醸し出し、2号が指示を出しながらスノーマンに対抗するため動き始める。


「各自ペアを作って雪壁を築き、雪玉の製作に当たれ!」


 そして、2・3号、4・5号と順にペアを作っていくと、必然的に余るのが1人。それは、10号だ。


「いーよいーよ、どうせ俺はあぶれもんだよ……いっつもこうだ……」


 そう言ってやさぐれてしまう10号は、1人でフラフラと歩いていくと、これまた1人で作業を開始し、雪壁や雪玉ではなく、かまくら作りに精を出していく。


 そして、なんとも言えないその背中には哀愁のオーラが漂っており、嫁たちは雪玉を避けつつも同情の視線を向けている。姿かたちがケビンなので、なおさらである。


「ケビン君……あの子、かわいそう」


 そう言うニーナは何とかならないのかとケビンに尋ねると、ケビンは自分の複製体のことなので、いじけたとしても気にしてはいなかったが、他の嫁たちもケビンを見つめてくるため、仕方なしに追加で1人、複製することにした。


「……11号」


「ん? なになに? あまり呼ばれない俺が呼ばれたってことは、乱交でもすんの? ……ってか、さぶっ! どこだよ、ここ!」


「はぁぁ……10号を頼む。それと、防寒着だ」


「うわっ! これ、あったけー……で、10号だっけ? また、あいついじけてんの?」


「見ての通りだ」


「……ぶふっ! ギャハハハハハ! ボッチだ、ボッチがいる!」


 新たに現れた11号が10号を指さししながら大笑いしていると、その様子を見たニーナがつい本音をこぼす。


「性格わるっ!」


 そして、溜息をつくケビンに促された11号は、笑いながら10号の所へと行くのだった。


「よう! 俺が来てやったぜ」


「……11号か」


「かまくら作ってんのか?」


「まぁな」


「どうせなら、豪邸バージョンにしようぜ」


 追加要員となる11号は、10号に近づくと戦線に復帰させるのではなく、そのまま一緒にかまくら作りを始めてしまった。さすがのケビンもこれにはビックリで、もうどうでもいいやという気持ちになると、放置することにしたようだ。


 そして、いつの間にか始まってしまった、複製体たちとスノーマンの雪合戦。辺りは飛び交う雪玉で危険地帯と化した。


「うわっ!」


「4号が被弾したぞ!」


「あ……あとのことは……頼んだ……ガクッ」


「4ごぉぉぉおおおお!」


 4号と5号による茶番劇が繰り広げられていると、それを見たケビンが呆れてボソッと呟く。


「何やってんだ、あいつら……」


 そして、茶番劇で倒れたはいいものの、雪がもの凄く冷たかったのか4号がむくりと起き上がり、何事もなかったかのように雪玉飛び交う危険地帯を苦もなく移動し始めて、10号のいる安全地帯へと向かった。


 すると、ケビンは10号か11号と交代するのかと思いきや、交代要員は派出されず、4号が加わったことでかまくら作りは3人作業となる。


 それから、1人、また1人と被弾する者が出始め現場の人間が減っていくと、それに比例してかまくら作りの作業員がどんどんと増えていく。


 最初は1人から始まったかまくら作り。今となっては追加で呼び出された11号、最初に魔物からの被弾で脱落した4号。そして、何故か被弾して増えていった他の者たち。


 今やスノーマンとの雪合戦より、妙にこだわりを持ったかまくら作りに複製体たちは精を出していた。


「おい、ダイニングはこんな感じでいいか?」


「リビングはくつろぎスペースなんだから、もっとこだわろうぜ」


「キッチンは仕上がったぞ!」


「風呂とトイレはどうする?」


「部屋数はどれくらい必要なんだ?」


 かまくらを作っているのがケビンの複製体とあってか、こだわりだしたらキリがない。そのかまくらは既にかまくらとは言えず、イグルーを超えて雪製の一戸建てとなろうとしている。それもひとえに、DIY好きのケビンが元凶と言えるだろう。


 しかしながら、スノーマンとの雪合戦は今もなお続いている。残る複製体も雪製の家が気になるのか、チラチラと脇見をしては雪合戦を繰り広げている。


「よし、ここは俺が突破して風向きを変える!」


「大丈夫なのか、7号」


「大丈夫だ、問題ない。伊達にラッキー7の数字を冠していないことを、ここに証明してやるぜ!」


 そして、ニヤリと笑みを浮かべ親指を立てたら、特攻を仕掛ける7号。すると、目標物が雪壁から出てきたとあってか、スノーマンたちは一斉に雪玉を投げ始める。


「【身体強化】」


 しれっとスキルを使った7号は、飛来する雪玉の中から大した威力でないものを選別すると、わざとらしさが出ないような被弾をしてのけた。


「ぐはっ……死角から……だと……」


「な、7号!?」


「くっ……俺の屍を越えてゆけ…………ガクッ」


「7ごぉぉぉおおおお!」


(しめしめ……まんまと騙されたな。ラッキー!)


 作戦が上手くいったことを内心ほくそ笑む7号は、やられた者とは思えないほどに飛び起き、先程とは違って雪玉をかすりもさせず、DIYの現場へと駆けつけるのであった。

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