第620話 原チャで缶蹴り?
勇者たちのいる場所から飛び去った
その
「ちょっと、聞いてるの?! 早く私を元の場所へ帰してよ!」
だが、ブラックドラゴンとブラウンドラゴンが並行して飛んでいることにより、ブラウンドラゴンの手に掴まれている
それゆえに、そろそろ何か反応が欲しいと思っていたところ、ようやく
「お前は俺の性奴隷1号なんだから、帰すわけがねぇだろ」
自身の欲望を隠そうともしない
「なに言ってんのよ、このクズ! 誰があんたなんかの性奴隷になるか! 女とヤリたきゃそこら辺の娼婦を買うか、奴隷を買えばいいでしょ!」
「てめぇ……」
勇者たちとの邂逅を果たした
当然のことながら傲岸不遜な
ゆえに、
それから
「主人に逆らった奴隷がどういう目に遭うか、存分に思い知れ」
そう言い放つ
そのような中で、
「ひっ――!!」
次の瞬間、
それは何故か。
なんてことはない。
何故ならば、
物を掴んでいる手を開く。そうすると当然のことながら、手の中にある物は重力に従って落ちるしかない。
基本的に手を加えていない物は上から下へ向かって落ちる。重力の仕組みがわからずとも、子供でも答えられる簡単な理屈だ。
それにより
風を切りながら真っ逆さまに落ちる
そして、地面へと落ちゆく
それにより茫然自失と化した
それを迎えるのは、愉悦の笑みを浮かべた
「身の程を思い知ったか?」
圧倒的優位性を確立している
先程まで死と隣合わせの体験をさせられていたのだ。まともな受け応えができる状況でないのは、誰の目にも明らかであろう。
だが、先程まで罵声を浴びせられていた
それからの
そのことに満足のいった
そして、自身の乗るブラックドラゴンの背に
「ハハッ! いいザマだな」
そう言う
「また落ちたいのか? 今度はそのまま地面に直撃するかもしれないぞ」
たとえ途中でドラゴンに掴まれると知っていても、自分の意思とは関係なくスカイダイブさせられるのは、
その上、今度はドラゴンに掴ませることなく、そのまま落ちるという脅しをかけられたのだ。
「アオ、終わりか?」
そこで声をかけたのは、今まで成り行きを見守っていたダーメである。
「ああ、奴隷の教育はご主人様の務めだからな。躾ってのは何事も最初が肝心なんだ。甘い顔を見せるとつけ上がるし、徹底してどっちが上なのかをわからせたら終わりだ」
「で、あの中からその女を選んだ理由は?」
そう言うダーメは粗方の予想をつけていたが、最終的に決め手となった理由には検討もつかないので、
「そんなの簡単だ。魔術師ってのは自身を守るすべってのを持たないからな。こいつらの独壇場は、仲間の影でしか強気になれない遠距離だけだ」
「やはりか」
「あとはこれだな」
そう言った
「なっ――!?」
「ほら、こいつのでけぇだろ? こんだけありゃ、パイズリが楽にできるってもんだ」
「汚い手で触らないで!!」
肩を抱かれた先程とは違い、明確な意志を持ってパシンっと強く払い除けた
「そんなに死にたいのか?」
その怒気を孕んだ声を耳にした
「いっ、痛い!」
ローブの下に着込んでいた服が、しわくちゃになるくらいの力強さで胸を揉まれる
「っ……誰か……助けて……」
だが、その呟きを聞いた
「こんな空を飛んでいる所に誰も助けに来ねぇよ。お前らの中でドラゴンを使役している奴でもいるのか? いるわけねぇよなあ? いたらあの場にドラゴンがいるはずだし」
「く……来るわよ! あの赤いドラゴンはあんたを殺すって言ってたんだから!」
「は? 馬鹿かお前。ドラゴンが襲いに来たらお前も助かる前に死ぬぞ。当然戦闘になれば戦うのはこの空なんだからな。振り落とされて地面に真っ逆さまだ」
そのことが容易に想像できたのか、
「そんなことよりも、お前……小便漏らしたのか? ズボンが変色してるじゃないか。スカイダイビングがそんなに嬉しかったとはな。まさに嬉ションってやつか」
「ったく、排泄の躾からしなきゃいけないなんて、お前は奴隷枠どころじゃなくて犬猫みたいなペット枠だな。俺様が抱く時には嬉ションなんてしてくれるなよ? 潮吹きなら歓迎するが」
その言葉に対して
何故ならば嫌悪する男に好き勝手胸を揉まれ、それだけでも嫌なのに、更には失禁してしまったことまで知られてしまった上に、レイプ予告までされてしまったのだ。
もういっそのこと、ここから飛び降りようかという思考すら頭をかすめてしまう。
そのような後ろ向きな思考によって
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところかわって、マリアンヌたちのいる場所には、マリアンヌから呼び出されたケビンが魔大陸から転移してきた。
「――ということなの」
「そりゃまた凄いことになったな」
緊急事態ということで、すぐさま勇者ごっこを中断して転移してきたケビンにマリアンヌが説明を終えると、ケビンは俺TUEEEE君に手を貸すやつがいたことに驚いていた。
「んで、アレはずっとやってるのか?」
そう言うケビンが視線を向ける先には、思いのほか粘って倒れない九鬼との戦いが楽しくなり、一方的にボコるつもりがつい長々と“かわいがり”を続けている紅の長の姿があった。
ちなみに、その戦いに熱狂して声を上げているのは、この場においてただ1人。紅の長をカッコイイと思っている
そのこともあってか、熱狂する
「そうだの。相変わらずの馬鹿で、殺そうとしていた相手が逃げたことにも気づいとりゃせん」
「はぁぁ……」
ケビンとしては九鬼にとっても良い経験となるので、クララがけしかけたのは問題ないとしても、紅の長の視野があそこまで狭窄しなければ、そもそも
かと言って、このまま放置というわけにもいかないので、仕方なくケビンが紅の長を止めることにしたのだった。
そして、ふらっと歩き始めたケビンに皆が視線を向けると、次の瞬間には紅の長と九鬼の間に入り、攻撃を放っていた紅の長の拳をパシッと受け止めていた。
「と……止めたぁぁぁぁ??!!」
それに対して声を上げたのは、千喜良の代わりと言わんばかりに叫び役となっている小鳥遊だ。勇者である能登が簡単に殺されると言われていた格上ドラゴンの攻撃を止めたことによって、小鳥遊の驚きが天元突破している。
その驚きようは他の勇者たちも同様であり、ケビンの強さの底が見えないことに動揺を隠せない。
だが、結局のところ、最終的には“ケビンだから”で落ち着いてしまう小鳥遊及び勇者たちなのである。
「久しぶりだな、紅の長」
「てっ……てめぇは!?」
自分の拳をいとも容易く止めて見せたケビンの登場に、楽しい“かわいがり”から一変、紅の長があからさまに狼狽する。
「け……ケビン……さん……ゼェゼェ……来たならすぐ……止めて……ゴホッゴホッ……ください……よ……」
息も絶え絶えになり満身創痍でケビンに向かって抗議する九鬼だが、それを聞いたケビンが振り返ると、相も変わらずなケビンイズムを披露した。
「良い経験になっただろ? ドラゴンの長を張るだけあって、強さがそこら辺のヤツらとは一線を画している。世の中は広いってことだな」
「こ……こんな……命懸けの経験は……ハァハァ……遠慮……します……ケビンさんと……ダンジョンで充分……うっぷ……」
「そう言うな。こいつと戦おうとしたら舎弟をボコり続けるか、集落まで行って喧嘩を売るしかないんだからな。滅多にない機会だぞ?」
そう言ってケビンが九鬼を回復させると、九鬼はようやく終わったのだと安堵のため息をつく。
「で、紅の長」
「な、何だ?! 俺様は拳で語り合っただけで殺してないからな! てめぇから文句を言われる筋合いはねぇぞ! 俺様を責めるなら白のやつも同罪だぞ!」
あからさまにケビンからの報復を恐れている紅の長は、クララさえも巻き添えにしてしまえと名前を出したが、それを遠巻きに見ているクララは『殴ってやろうか』という思いが頭をよぎる。
更には、同じくその言葉を聞いた九鬼は「語り合ってない! 一方的に語られただけだ!」と抗議したかったが、それならそれで「語り合ってみるか?」とケビンから言われそうなので、すんでのところでその言葉を飲み込んだ。
「知ってるか? お前の獲物はもう逃げ出した後だぞ?」
「…………は?」
そこでようやく紅の長が自分の獲物に関して思い出し始めると、
「あれ……?」
「クキが骨のあるやつで楽しくなるのは仕方がないがな、お前が狩ろうとしていた獲物の動向くらいは把握しておけよ。舎弟たちが今のお前の姿を見たら幻滅するぞ?」
「な……え……あ、あいつは何処に行ったぁぁぁぁ?!」
「そんなの俺が知るかよ。このマヌケめ」
「あの野郎、なんて小賢しい下等生物なんだ! この俺様を欺きやがって! これだから缶蹴り原チャは嫌いなんだ!」
「…………缶蹴り原チャ? おい、九鬼。こいつ、何言ってんだ? 最近の日本って原チャで缶蹴りするのか?」
「そんな危険極まりない遊びがあるはずないでしょ! 何言ってるのか僕にだってわかりませんよ!」
紅の長の発言にケビンは首を傾げ、通訳を無茶振りされた九鬼も意味不明な発言に頭を悩ませる。
「缶蹴り原チャ……缶蹴り原チャ……んー……」
考えれば考えるほど、原チャで缶蹴りをしている危険な光景が頭の中を占めていき、ケビンは意味不明な発言によって難解な袋小路に追い詰められてしまう。
「おい、紅の長」
「何だ?!」
「それはこっちのセリフだ。缶蹴り原チャって何だ?」
結局のところケビンの取った行動は、本人に説明させるというものであった。
「缶蹴り原チャも知らねぇのか!? 馬鹿だろ、てめぇ」
馬鹿に馬鹿にされるという屈辱的な体験をしてしまったケビンは、紅の長を殴り飛ばしたくなる気持ちをどうにか押さえ込むことに成功すると、先程から頭を悩ませている“缶蹴り原チャ”についての説明をさせた。
「仕方がねぇ、馬鹿なてめぇにもわかるよう、この俺様が教授してやる」
「ぐっ……」
「ケビンさん堪えて。僕も缶蹴り原チャが何なのか気になって、夜も寝られなくなりそうですから」
「クククッ……てめぇも知らねぇのか、中等生物」
いつの間にか下等生物から中等生物にランクアップしていた九鬼は、そっちの要素も気になるが、今は缶蹴り原チャが最優先。そして、大人しく説明を待っていると、紅の長は誇らしげに語り出した。
「いいか? 缶蹴り原チャってのはな、頭のいいやつのことを指す言葉だ。知識人とか言って鼻にかけやがって、男は強く度胸があればいいんだ! 非力な頭でっかちなんぞより、この俺様の拳の方がもっとすげぇ!」
「知識人……?」
「……知識人って言いましたね」
『マスター、恐らく目の前の馬鹿は、“インテリゲンチャ”のことを言いたいのかと。世間一般で言われている“インテリ”の語源ですね』
『えっ!? あれって“インテリジェンス”の略じゃなかったの!?』
『ああ、確かに“インテリジェンス”は、“知能”や“知性”って意味がありますからね。よく間違われていますが、語源はロシア語の“インテリゲンチャ”です』
『へぇへぇへぇ――』
『やった! 10へぇ獲得した!』
サナからのトリビア説明を受けたケビンは、その受け売りを九鬼に説明したところで1へぇを獲得すると、そこでハッと我に返ってしまい盛大に得意顔の紅の長へ向けてツッコミを入れた。
「てか、
よく難しい言葉(本人にとって)を、独自解釈によって“
「ああ、あいつも変な日本語を使いますよね。むしろ、日本語枠に入れたくない。同じ日本人として恥ずかしい」
そう言う九鬼の言葉に対して、ケビンは自ら抱える借金奴隷の1人でもあるためか、あれはあれで可愛いところもあるのだとフォローを入れるも、九鬼にとってはどうでもいいことだった。
そんなこんなで“缶蹴り原チャ”の謎が解けた2人は、それによって更なる謎を抱え込んでしまう。
「僕、思ったんですけど……」
「言うな。気になって夜に眠れなくなるぞ」
「いや、既に思っている時点で眠れないのが確定しているのと、それを察しているケビンさんも恐らく眠れないですよね?」
「くっ……確かに……」
「なので、言っちゃいます。何で紅の長はロシア語を知っているんですか? 間違って覚えていましたけど、意味もしっかりと理解していましたよね?」
「そ……それは……そ、そうだ! 過去の転生、もしくは転移者にロシア人がいたんだ! そうに違いない! それか、まさにインテリを気取った日本人が教えたに決まっている!」
「仮にそうだとして……“缶蹴り”と“原チャ”って、この世界にないですよね? あの単語は何処から来たんでしょう?」
「ぐあああああ! これ以上、深淵に触れるな! 深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているんだぞ!」
謎が謎を呼ぶ負のスパイラルに突入した2人の会話は、ケビンが絶叫をあげることによって強制的に終了となる。その絶叫を聞いた紅の長が、ビクッと反応してしまったのは言うまでもないが。
それから、なんだかんだで紅の長の暴走を止めたケビンは、マリアンヌから請われた
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