第600話 記念SS ケ「何で……?」 サ「寒いから」
季節が冬となり12月後半のある日のこと。ケビンはサキュバスの里を訪れていた。
それは何故か……
ケビンが街ブラをしていた時に、厚着をしたサキュバスに出会ってしまったからだ。
それを見たケビンはサキュバスらしくないサキュバスを目にしてしまい、慌てて駆け寄りそのサキュバスに事情を聞けば、当たり前のように「寒いから」という返答が返ってきた。
そのような経緯があったために、ケビンは急遽サキュバスの里を訪れていたのだ。
「マジか……」
そこでは見渡す限り厚着をしたサキュバスしかおらず、ケビンが見蕩れるようなエロエロしいサキュバスの影は、全くもって見受けられないのだった。
「あっ、ケビン様だ」
ケビンの姿を認めたサキュバスが近寄ってくる。本来ならケビンとしては大歓迎なのだが、如何せん今のサキュバスはサキュバスらしさがない。
そのサキュバスからガバッと抱きつかれてしまうが、今まで感じていた柔らかい感触を得ることはできずに、どちらかと言うとゴワゴワとした感触であり、ケビンとしてはちっとも嬉しくならないのだ。
「……柔らかくない」
「……? どうしたの、ケビン様?」
「柔らかくないんだ……ぽよぽよむにむにが得られない」
「ぽよぽよむにむに?」
「みんなに抱きつかれても柔らかくないんだよ……」
「……? 冬服着てるから?」
「そうだな」
「だって寒いんだもん」
「そうだな」
「家の中なら暖かくできるから、ある程度は脱ぐよ?」
「くっ……北国を治めた弊害がこんなところでっ! 何で帝国はほどよい気温の地域になかったんだ!」
サキュバスがエロくないのは、北に位置する帝国のせいだとケビンは結論づけるが、この地にサキュバスを連れてきたのはケビンなので、全くもって責任転嫁も甚だしい。
むしろ、帝国というものに意思のようなものがあれば、『解せぬ』と思うこと間違いなしだ。
「ケビン様、ないものねだりはダメなんだよ?」
「っ、そうか! ないなら創ればいいんだ!」
サキュバスの言葉に天啓を得たと言わんばかりに思いついたケビンは、さっそく抱きついているサキュバスの家に向かうのだが、その道中でケビンの姿を見た他のサキュバスたちは、カルガモの行進のごとくその後に続いていく。
ぞろぞろと移動を始めるケビンとサキュバスたち……
その行進が始まってからというものあまりにも人数が増えているので、ケビンは当初の予定であった自宅訪問はやめてリリス邸までやってくると、客室の1室を拡張して全員が入れるようにしたのだった。
「ケビン様、いきなりやってきて何をしているの?」
「リリス様が見たらビックリするよ?」
今となっては主であるリリスが帝城に住んでいるためか、現状屋敷の管理しかしていないアグラとナーマが、ケビンのやることに対して溜息をついている。
「サキュバスにサキュバスらしさを取り戻させるんだ」
「意味がわからないよ?」
「サキュバスらしさって……ケビン様がいっつも抱いてくれるよね?」
唐突に主張してくるケビンについていけないためか、アグラやナーマはキョトンとしてしまうが、一緒に来ていたサキュバスたちがケビンの望むものを代わりに伝えるのだった。
「厚着をしたからエロくないって……」
「お腹に赤ちゃんがいるから薄着になるわけないのに……」
そう。リリスを始めとする一部のサキュバスは、今現在お腹の中にケビンとの子がいるのだ。
全員がそうでない理由として、強制妊娠以外の者たちについてはコウノトリ任せにしているからである。
ケビンとしてもサキュバスとガッツリやれなくなるのは痛手であり、麦畑のお世話もあることからそうしているのだが、サキュバスたちはガッツリやれなくなるというところだけに共感して、ケビンの方針に従っているのだ。
何気にウィン・ウィンの関係である。
それからケビンは、拡張した客室にあった家財道具を全て【無限収納】の中に回収したら、ふわふわ絨毯を一面に敷いてしまい、ソファを出すでもなく地べたに座り込んだ。
「さて……何から創るべきか……」
ケビンが悩み始めた中、サキュバスたちはただ立っているのも手持ち無沙汰なので、ケビンに倣うかのようにして絨毯に座り込むと、ガールズトークに花を咲かせていく。
「ケビン様どんな服を作ってくれるのかな?」
「ケビン様だからエッチなやつよ」
「そうなるとこの後は宴会だね」
「今日は畑仕事の日じゃなくてよかったー」
「畑組は悔しがるわね」
そのような会話がなされている中で、ケビンは1着目を創り終える。
「よし、次にいこう」
そのできあがった1着目をサキュバスが手に取ると、ケビンに言われたわけでもないのにその場で着替え始めた。
「ねぇねぇ、どうかな?」
仲間のサキュバスに着替え終わった姿を見せるサキュバスは、どういう感想がくるのか期待に胸をふくらませていたが、返ってきたのは普通の反応だった。
「普通ね。まだエロくない」
普通と言われてしまったサキュバスの服装は、ふんわりとしたニットにフレアスカートというカジュアルファッションだ。確かに普通でエロさはない。
「次、わたしー」
既に2着目ができていたのか、着替え終わっているサキュバスが感想待ちをしていたら、またもや同じ反応をされてしまう。
「まだ普通」
まだ普通と言われたサキュバスの服装は、ダボッとしたニットにプリーツスカートを合わせたものだ。
それから次々と着替えていくサキュバスたちの、冬服ファッションショーが地味に開催されていくが、上がニットであることはケビンにとって固定らしく、下に履くスカートの種類が色々と変わるだけになる。
「きたっ、エロス!」
とうとうエロくなった服装がきたのかサキュバスがそう感想をこぼすと、それを着ているサキュバスは膝丈となるロングニットの姿だった。
「履いてる? 履いてない?」
「履いてないよ」
「エロい!」
サキュバスとしてエロさを追求するのは種族としての特性なのか、ケビンがそう求めなくても各自エロスに邁進している。それもこれも一般的に売られているゴワゴワした服ではなく、ケビンが創り出した徐々にエロくなる服装ゆえだろう。
そこからロングニットの脅威が巻き起こる。
「それ、絞ってあるから胸が強調されてる!」
「段々と短くなってきてるよ!」
「うわっ! これ、胸のところに切れ目がある! 手とか入れられそう!」
「こっちは胸あきだよ! 谷間が丸見え!」
「それ、横がないから横乳見えてるじゃん! ってか、後ろも丸見え!」
ケビン旋風によりサキュバスたちのテンションが上がっていると、ようやく思いつく限りを創り終えたケビンがひと息つく。
「中々に絶景だけど、何かが足りない……」
冬といえばニット。ケビンの中ではそう固定されているものの、どこか物足りなさを感じている。何かしら見落としがあるのではないかと。
そのようなことを考え込みながら、1人でうんうんと唸っているケビンにソフィーリアから通信が入った。
『あなた、今日は何月何日?』
『今日は確か……12月24日か?』
『何か思い出さない?』
『――ッ!』
『この世界にはそういうイベントがないから、忘れてしまうのも仕方がないわ』
『神よっ!』
ケビンは改めて理解のあるお嫁さんに感謝の祈りを捧げると、サンタコスとトナカイコスを創り出していく。
当然のことながらケビンの創り出すサンタとトナカイの衣装なので、エロくなるのは必然とも言えるが、ここにはエロくても喜ぶ者たちしかいないために、やり過ぎだと言ってケビンを止められるような者は存在しない。
こうしてソフィーリアからの助言により、ケビンの【エロくないサキュバスをエロく着飾ろう】は大成功を収めて、1日早いクリスマスパーティーを開催するのだった。
その後は畑仕事を終えたサキュバスたちが戻ってきた時に、非番のサキュバスたちが1人も見当たらなかったのだが、本能を掻き立てる匂いがリリス邸から漂ってきているのを感じ取ってしまい、ケビンとお楽しみ中であることを把握してしまう。
すると、当然のことながらサキュバスとして乱入するしか道はないので、次々とリリス邸へ向かって駆けていくのだった。
そしてリリス邸に到着して、嬌声が聞こえる匂いの濃い客室へと向かい中へ入ったら、そこは乱痴気騒ぎの真っ最中である。
「私たちも混ぜてください!」
「混ざるならそこの衣装を着るのが義務よ!」
乱入してきたサキュバスたちに指示を出したのは、1戦を終えて休憩をしているサキュバスだった。
その言葉を聞いたサキュバスが視線を向けてみれば、そこにはケビンの創り出した衣装が山となっている。その中でも一際目を引くのは、やはりサキュバスゆえなのかエロい服装になってしまう。
嬉々としてその服装を選び着替えるサキュバスたちの傍らには、選ばれなかった普通の服装と、今まで自分たちが着ていたゴワゴワとした服装が山となってしまった。
「ケビン様! 着替えました!」
「今日の疲れを癒してください!」
「ケビン様のために畑仕事を頑張ったんです!」
次々と参戦してくるサキュバスたちにケビンも目一杯応えるため、更に追加で分身体を出し続けていき、サキュバスたちが満足のできる体制を整えるのだった。
やがて、次々と休憩に入るサキュバスたちが多くなると、ケビンのために夕食を作り始める。
その間にケビンは夕食をサキュバスの里で摂ることをソフィーリアに伝えたのだが、これが後に思いもよらぬことへ発展する。
その後、ケビンが王様気分で夕食をサキュバスたちから食べさせてもらっていると、いきなり客室のドアが解放されて、嫁の1人であるティナがやってきた。
「ケビン君! 私も混ぜて!」
「……え?」
「ソフィさんに聞いたんだよ! ケビン君がサキュバスのみんなとエッチな衣装で楽しんでるって! 何で呼んでくれないの!」
「あ、はい」
ものすごい剣幕で言ってくるティナに対して、ケビンはタジタジとなってしまう。そして、ティナだけかと思いきや、次々と他の嫁たちも中に入ってきた。
「やっほー私も遊びに来たよー」
「クリスもか……」
「主殿が何やら面白いことをしていると聞いての」
「クララまで……」
「他のみんなも来るよ」
「ニーナまで来たのか……」
「他のみんなはまだご飯を食べているわ。早食いができなくて淑女らしくお淑やかに。でも、いつもよりかは少し早めで頑張って食べているのよ」
「母さん……」
ここへ先に到着したのは早食いができた嫁たちのようで、まだ到着していないのは早食いがしたくてもできないメンバーのようだ。
「旦那様! ここにミートソーススパゲティがあると、私の勘が訴えているぞ! というか、旦那様が帰ってこないと私のミートソーススパゲティがないではないか! さあ、出してくれ! あ、抹茶もよろしく頼む」
九十九はクリスマスパーティーに参加するというよりも、ただ単にミートソーススパゲティ欲しさにこの場へやってきたようだが、その九十九節に対してケビンは呆れ果ててしまう。
「
兎にも角にも、ケビンはミートソーススパゲティと抹茶を九十九に提供すると、自身は引き続きご飯を食べさせてもらうことにした。食べさせる係は、この場に来た嫁たちが順次交代していってるが。
やがてケビンが夕食を食べ終わり満足する頃には、続々と他の嫁たちも到着してきており、そこから先はいつも通りの展開となっていくのであった。
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