第530話 男の友情
姪っ子、生徒会長と思わぬ出会いをしてしまった翌月の12月、ケビンは執務室で新たなる情報を報告される。それは、次々と勇者たち一行が帝国に入国してきたというものであった。
それを受けたケビンがその都度【マップ】で入国してきた勇者を検索すると、あちこちに散らばっている勇者たちのマーカーを見ることになる。
「はぁぁ……何でこの時期? もう今から寒くなって雪が積もるのに……」
ケビンは知らない。
そのような裏事情など知らないし予想もしていないケビンは、心の中で『冬に攻めてくるな、冬に攻めてくるな』とソフィーリア頼みをしながら、集中力を欠いた状態で執務を消化していくのだった。
それから季節は巡り年が明けて1月になると、暗部班のセリナが第1子で長女のセラフィムを出産し、翌2月には義娘ズのパメラが第1子で長女のパスカル、アズが第1子で長女のアベラ、ベルが第1子で長女のベレニス、カーラが第1子で長女のカロル、ダニエラが第1子で長女のドロテ、エフィが第1子で長女のエズメ、ナターシャが第1子で長女のナタリア、プリモが第1子で長女のポピー、ロナが第1子で長女のロゼッタを出産した。
そのような慶事がありつつも寒い日が続く中で、熱い男たちの戦いが人知れず始まろうとしていた。
その舞台となるのは帝都外ダンジョンである挑戦者用ダンジョン。このダンジョンは難易度が高いため、Sランク以上の実力者を推奨とした成長型ダンジョンである。ケビンが創ったときには100階層だったこのダンジョンも、今となっては1ヶ月に1階層というペースで成長している。
そしてそのダンジョンを日々攻略している冒険者たちとは別で、その挑戦者用ダンジョンを攻略しているのは、私有地・帝都外の上級者用ダンジョンを制覇した九鬼だ。その九鬼に対してケビンは規格外用ダンジョンには潜らせず、帝都外の挑戦者用ダンジョンをまずは制覇するように指示を出していた。
当然九鬼のことは嫁たちも知っていてケビンからの指示であるために、挑戦者用ダンジョンに来た際には、普通にバングルを手渡して素通りさせている。この件に関しては九鬼もありがたく、難易度によって支払う入場料やお守りバングルの値段が変わるので、今はまだSランク冒険者ではない九鬼が手痛い出費をせずに済んでいるのである。
そして今日も九鬼は、たった1人でダンジョン攻略を進めていた。
「はぁぁ……ケビンさんの訓練はキツイなぁ……」
残る敵にトドメを刺しながらそうボヤく九鬼は、ここのところ魔物が連携を始めたことによって攻略スピードが落ちていたのだ。パーティーメンバーがいたのならこちらも連携するということができたのだが、九鬼は1人である。連携なんてしようがないのだ。
そのようにボヤく九鬼でも、たった1人で50階層代まで到達できていることは褒められてもいいはずであるが、ケビン曰く、『守る人がいないのなら、その分魔物に集中できるだろ?』という、なんとも理不尽な物言いであった。
そのケビンの鬼のようなブートキャンプに晒されている九鬼も、次第と思考がケビンに似てきてしまったのか、『後衛を守る必要がないから戦闘は好きにできて楽だ』という、完全なボッチ思考に傾きつつある。
そのような九鬼(ボッチ加速中)が広間でのんびりと昼休憩を取っていると、別の道からやって来た冒険者たちとバッティングしてしまう。
「――ッ!」
その冒険者たちは冒険者服装ではあるものの、クラスメートの無敵たちであった。九鬼は全く気づかずにご飯をパクパクと食べていたが、声をかけられたことでそちらを向くと、懐かしきクラスメートの顔に驚いてご飯を食道に詰まらせてしまい胸を叩き始めた。
「ん"っ! ……の……のみ……も……」
その様子にバタバタと駆けつけてきた無敵が、自分の飲み物を九鬼に差し出して声を上げる。
「飲め!」
ごくごくと喉を鳴らして詰まったものを飲み込んでいく九鬼がひと息つくと、生き返ったかのように息を吐き出した。
「ぷはぁー……死ぬかと思った」
「相変わらず抜けてるな」
そして、危うく天国に招かれるところだった九鬼に無敵が声をかけると、九鬼は久しぶりに会う旧友に対して、何事もなかったかのようにして挨拶を返す。
「久しぶりだね」
「お前はここで何をしている?」
「え……ご飯を食べてる?」
「……はぁぁ……」
聞かれた内容に対して深く考えずに、ありのままを伝える九鬼に対して無敵が溜息をついていると、その様子を窺っていた他の者たちがトコトコと近づいてきて
「元気そうだな」
「
「他人行儀な」
「あはは……」
過去がバレていないと思っている九鬼としては、一般的な男子高校生を振る舞っているため、
「他のパーティーメンバーは交代で警戒中か?」
「ん? 僕1人だけだから他はいないけど」
何てことのないように九鬼が無敵からされた質問に答えると、無敵たちはパーティーを組んでここまで攻略してきたと思っていたので、九鬼からの回答に沈黙してしまうが、
「桃太郎の癖に吹いてんじゃねぇぞ」
「え……本当だよ」
「テメェ……」
「やめろ、竜也」
「力也だってそう思うだろ!」
「それは確かめればわかることだ。九鬼、俺と勝負しろ」
「……え?」
「今の俺の強さを知りたい」
「いやいや、僕が無敵君に勝てるわけないじゃないか。ボコボコにされておしまいだよ」
「へっ、よくわかってんじゃねぇか桃太郎! やっぱりお前は雑魚だな。大魔王の力也に勝てるわけがねぇ」
「ほら、
「九鬼、俺はケビンからお前のことを聞いているぞ」
「え……会ったの?」
それから無敵は、セレスティア皇国のダンジョンでケビンと会話した時のことを九鬼に教えると、九鬼はケビンの奔放さに呆れてしまうのだった。
「……はぁぁ……」
「それにお前の過去は
「……何で? 喋ったの?」
「
無敵の言葉により九鬼の視線が
「ご、ごめんなさい! うっかり口を滑らせてしまいました! こ、これは道中で買ったお菓子です! どうかお納めください!」
マジックポーチから九鬼のご機嫌を取ろう大作戦のお菓子を取り出したら、それに両手を添えて頭上に掲げるのだが、そのお菓子に目をくれることもなく九鬼は落ちたトーンで
「他は誰に言った?」
「そ……それは……」
「女子全員だ」
九鬼からの言葉に言い淀む
「ち……千代……あんたも手伝ってよ! 一緒に謝る約束っしょ!」
「ふぇっ!?」
「千喜良さんも何かしたの?」
急に話を振られた千喜良は変な声を出してしまうが、九鬼に視線を向けられたことで顔を青ざめさせてしまうと、
「い、今まで馬鹿にしてごめんなさい! 許してください!」
「……は?」
「千喜良はお前を馬鹿にしてたから報復を恐れてるんだよ」
「いや、千喜良さんなんかどうでもいいし」
「うっ……」
奇しくも
「やっぱりな」
「で、
無敵の言葉を聞いた九鬼は立ち上がりお尻をパンパンと叩いて
「いや、落とし前をつけたところで、今更知られてしまったことは取り消せないよ。千喜良さんと同じで
「うっ……」
「
千喜良と同様にグサッと精神ダメージを負わされてしまった
「九鬼、やるぞ」
「本当に?」
「俺たちは魔王に挑むんだ。確実に強くなってなきゃいけない」
「あぁぁ……魔王ねぇ……それはオススメしない。諦めた方がいいよ」
「……お前、魔王に挑んだのか?」
「いや、弱い僕が魔王に挑むわけないよ。死ぬだけだし」
「ハハハハハ! やっぱり桃太郎は桃太郎だな!
相変わらずの三下感を出している
「ルールは?」
「武器・魔法なし、身体強化のみの喧嘩だ」
「身体強化のみの殴り合いか……」
そして、広間の中央に移動する2人はある程度の距離を取ると、開始の合図は
「桃太郎なんかコテンパンにぶちのめせー!」
「これ、どっちが勝つ感じ?」
「殴り合いの喧嘩だしわからないよ……」
「九鬼君の実力が未知数だものね」
「2人とも、準備はいいか?」
「いいよ」
「ああ」
「千手、魔物よけのお香は焚いたな?」
「ここに繋がる各通路に焚いてるわ」
「よし……それじゃあ……始め!」
そこから無敵は手を休めずに連打を放っていくが、そのどれもが九鬼に当たるわけでもなく、避けられたり腕でガードされたりと有効打を浴びせることができない。たまに蹴りを放ってもみるが、それすらも身体強化された腕で防がれてしまい、肉体のぶつかる音だけが辺りを包み込んでいく。
「力也ぁ、手加減しすぎだろ。防ぐので手一杯の桃太郎が哀れに見えてくるぜ? いたぶるなら痛みも教えてやれよー」
喧嘩の内容が九鬼の防戦一方と判断した
そして、無敵がギアを上げて九鬼を攻め立てていくと、有効打ではない大した攻撃でもない時に九鬼に当たり、それを受けた九鬼が吹き飛ばされてしまう。
「ヒャッホー! クリーンヒットだぜー力也パネェ!」
「九鬼、お前……手抜きしているだろ?」
「何のことかな? 僕は精一杯真面目にやってるよ。無敵君が強すぎるだけだよ」
「詫びを入れるなら今のうちだぞ、桃太郎! 力也にボコボコにされる前に土下座でもするんだな。まぁ、力也が終われば次の相手は俺だけどー」
ヤジを飛ばす観客としては申し分ない
「九鬼……いや、
「……本気?」
「本気だ」
無敵の言葉を聞いた九鬼は、ある程度のところでさっさと負けてダンジョン攻略を再開させようと思っていたのに、それを邪魔されると言われてしまい当初の計画が頓挫してしまいそうになる。そして、今の九鬼が優先しているのは無敵との喧嘩ではなく、ケビンからの指示であるダンジョン攻略だ。
「邪魔をするのか? 本当に?」
「くどい。ここはもう元の世界じゃないんだ。真面目ぶる仮面なんか脱ぎ捨てろ。この世界で真面目ぶってもサラリーマンにはなれない。むしろ元の世界に戻れたとしても、俺たちは留年してるか退学させられている。まともな会社には勤められないぞ」
「はぁぁ……そんなに俺とやりたいのか?」
「当たり前だろ。俺の中で1番の強者は
「やれやれ……」
無敵の決意を改めて聞いた九鬼は
「虎雄、俺が止まらなかったらそれを使ってケビンさんに知らせてくれ。頭でケビンさんを思い浮かべて話しかければ、それだけで通信できる魔導具だから」
「わかった。すまんな、力也はお前のことが心配なんだ」
「ヤローに心配されても嬉しくねーよ」
「女に心配されても同じことだろ」
「まぁな」
九鬼が
「桃太郎が調子こいてんじゃねぇぞ! なに虎雄を呼び捨てにしてんだ! ぶっ飛ばすとゴラァ!」
「うるせーよ、雑魚が」
その瞬間九鬼の姿がブレたかのように見えたかと思えば、
「これで静かになったな」
「うそっしょ……」
「猿が1発……」
「強すぎる……」
「鬼神降臨だ」
それから九鬼は無敵の所まで戻っていくと、無敵に対して声をかける。
「力也、死ぬなよ?」
「ぬかせ、俺だって強くなってんだ。前みたいにボコボコにはなってやらねーぞ」
「そうか。最初から本気を出せよ?」
「ああ。楽しませてもらう」
それから本気をお互いに出した2人の戦いは、肉弾戦だと言うのに激しい音と衝撃が辺りを包み込んでいく。それを離れた所で見ている
「あ、ありえないっしょ!?」
「本気の無敵が押されてるなんて……」
「あれがあの九鬼君なの……まるで別人じゃない!?」
「やっぱり強い。理性が残ってて助かるな。俺だとアレは止められない」
「ハハハハハ! やっぱり
「殴られてんのに笑うのかよ! しばらく見ない間に変態になったんじゃないのか、力也?」
「ふざけんな! 変態はテメーだ。学生って職業の癖にどんだけ強くなってんだよ!」
「学生の本分は勉強だろーが。勉強してたら強くなったんだよ!」
「ふざけすぎだろ! 何で大魔王より学生がつえーんだよ!」
「そんなの俺が知るか! 【ガチャ】を用意した女神様に言えよ!」
殴り合いの喧嘩をしていると言うのに、久しぶりに会った旧友と会話を楽しむようにしてお互いに喋りながら、九鬼と無敵は己の拳をぶつけ合っていた。
やがてそれは無敵の体力が九鬼よりも先に尽きてしまうと、ダンジョンの地面に寝そべり天井を仰ぐことで終わりを迎える。
「はぁはぁ……やっぱり
「ったく、どんだけしぶといんだ。さっさと倒れとけよ。執拗く殴られるこっちの身にもなれってんだ」
「この世界はステータスがあるからな。俺の地力も日本にいる時とは比べようもないくらいに上がってる」
そのような2人の所に
「これを使うことがなくて助かった。俺だと
「そんなこと言ったって、昔はいっぺん止めただろ」
「あの時は死ぬ思いだったんだぞ」
「あぁぁ、あの時は俺も殺されるかと思ったな」
3人が仲良く昔の頃のように会話を楽しんでいる所へ、今度は1人伸びている
「九鬼君、過去をバラしてごめんなさい」
「私も馬鹿にしてごめんなさい」
「それは別にいいって言っただろ。お前らのことなんてどうでもいい」
「「うっ……」」
「グサる……」
「グサだよ……」
「九鬼君、それが地なの?」
「別に……どっちも俺だ」
「そう……変な詮索してごめんね」
「お前のこともどうでもいい」
「うっ……」
「これで
「
「本当にグサッとくるわね……」
奇しくも詮索してしまった謝罪をした千手は、
「
「ケビンさんからの指示だからだ」
「あのSランク冒険者か?」
「そう」
「
「遊ばれて終わり」
「マジか……いつか会ったら再戦しようと思ったんだけどな」
「どうせ力也のことだから、喧嘩バトルで挑もうとしてるんだろ?」
「当たり前だろ」
「ケビンさんを相手にそれは悪手、というかただのバカだ。俺は何でもありのルールでやっても勝てた試しがない」
「それほどか? それほどにSランク冒険者って強いのか? 俺たちも既にSランクになっているんだぞ」
「ランクを目安にしてたら、本当の強者にはいつまで経っても勝てないぞ。現に俺はAランク冒険者だからな」
「何で俺より強くてAランクなんだよ……」
「ダンジョン攻略を始めてから、通常のクエストの方はさっぱり受けられなくなったからな。Aランクになったのもついこの間だ。それまではCランクだったし」
「はあ? その強さでCランクって名乗ってたのか!?」
「詐欺っしょ」
「詐欺だね」
「詐欺よ」
「無茶苦茶だな」
「仕方がないだろ。クエストを受ける暇がなかったんだ。上級者用ダンジョンを制覇したら、一気にAランクに上がって俺だって迷惑してんだよ。まだ手をつけてないクエストとかあったのに、もうCランク以下のクエストが受けられないんだぞ」
「クエスト基準かよ……」
九鬼のランクを上げない理由がクエスト基準だと知った一同は呆れ果ててしまうが、過去に九鬼とつるんで性格を知っていた無敵と
「ねぇ、1つ疑問なんだけど、何で3人はそんなに仲良しなのに学校では一言も喋らなかったの?」
千手が仲良く会話をしている九鬼と無敵たちを見て、ふと疑問に思ったのかそのようなことを尋ねると、九鬼は「話しかけられてないから」とあっさりとした回答をしたのに対して、無敵はバツが悪そうに視線を逸らしてしまうと、
「
「確かにそうね……」
「高校に入ったら別の地域からの奴らも来るし、中学時代の奴らだって多少なりとも進路が別れて
「そういうことだったのね」
「まぁ、結論としては、親父さんを目標にしている
「無敵ぃぃぃぃ!」
「ばっ、千喜良抱きつくな!
「照れてるっしょ」
「男の友情ね」
「力也、そんなことを気にしてたのか? 話しかけてきても良かったのに、相変わらず素直じゃねぇな」
「相変わらず女に『どうでもいい』発言するお前にだけは言われたくねぇぞ!」
「どっちもどっちっしょ」
「似たもの同士ね」
「フッ、そうだな」
「無敵ぃぃぃぃ!」
「千喜良はいいから離れろ! マジで痛てぇんだぞ!」
「じゃあ、九鬼ぃぃぃぃ!」
「寄るなウザイ」
「ぐはっ!」
奇しくも元気いっぱいマスコットポジションなチビッ子千喜良の九鬼に対する初アタックは、無敵や
「うぅぅ……
フラフラと癒しを求めて
「千喜良、難攻不落の
「うっ……石ころ……グサ再び……」
「千喜良だって竜也が抱きつこうと近寄ってきたら逃げるだろ?」
「猿は無理ぃぃぃぃ!」
「つまりそういうことだ。今の千喜良は
「……頑張る」
「何で俺がお前から物を貰わなきゃいけないんだ」
「うっ……」
「頑張るのよ、
「あの……九鬼君にあげようと思って買ったので……」
千手の応援や現状況によって、図らずもバレンタインデーにチョコを渡そうとしているような光景であり、奇しくも
「いらん」
「うぅぅ……」
そのような見込みのない状況がありありと見て取れる中で、崖下にグサが準備されている崖っぷちに立たされている
「
「うっ……身内からのグサ……」
その救世主かと思われた無敵の言葉を聞いた
「はぁぁ……力也の頼みだし貰ってやる」
難攻不落な九鬼にお菓子を受け取ってもらえた
「それ、結構高かったらしいから、美味いと思うぞ」
「そうなのか? それじゃあベネットさんにあげるかな」
「ほえっ?!」
まさかまさかの九鬼が受け取ったお菓子を、そのまま別の誰かに譲渡するとは思ってもみなかった
「べ、ベネットって誰だし!? ってゆーか、女の名前じゃね?」
「冒険者仲間だ」
「えっ、
「信じられん……」
九鬼の返答を聞いた無敵や
「マジか……あの
「環境が変われば人も変わるもんだな」
「ちょーっ!! ありえないっしょ! うちのあげたお菓子をその女にあげちゃうの!?」
「俺が貰った時点で俺の物だろ。その後にどう処理するかは俺の自由だ」
「ぐはっ!」
「
「で、そのベネットというのは
「は? 殴られ過ぎて頭がおかしくなったのか? そんなわけないだろ。ベネットさんはただの同行者で、ケビンさんの特訓を受けてる同じ境遇の人だ」
「かなりエグいっしょ……」
「盗賊から襲われていたところを助けたのなら、絶対に惚れてるよ……」
「まだ見ぬベネットさんもグサ仲間よ、きっと……」
「まぁ、なんだ。お前が相変わらずなのか1歩進んだのか判断に苦しむが、この後はどうするんだ?」
「そんなの下層に向けて下りるに決まってるだろ。力也のせいでとんだ時間を食っちまったからな。それに魔物を殺しまくれば気持ちも落ち着くだろ」
「それじゃあ、どっちが先に1番最下層まで辿りつけるか勝負だ」
「はあ? そんなのパーティー組んでる力也の方が早いだろ」
「見ての通り竜也は伸びてる。それを無理やり叩き起したりはしない。その間にひと足早く先へと進めばいいだろ?」
「勝手すぎんだろ」
「負けた方は1週間飯奢りだからな?」
「はぁぁ……そっちは1ヶ月奢りで1日の回数無制限、同行者あり。こっちは1週間で3食全員分。どちらも店の指定はナシだ」
「乗った」
「ちょー、その1ヶ月間回数無制限ってうちらも払わなきゃいけないの?」
「当たり前だろ。俺は力也と虎雄以外の払いたくもないどうでもいい奴らの分まで勘定に入れて、余分に金を失うリスクがあるんだぞ。そこにあの馬鹿が入ってるかと思うと最悪な気分だ」
「グサだし……」
「グサだね……」
「グサグサ……」
「
「俺の1発をもらっておいて、そんな簡単に目覚めるかよ」
「そりゃそうか」
「じゃあな、せいぜいお金をたんまりと貯め込んでおけよ」
こうして九鬼はケビンからの指示であったダンジョン攻略に加えて、無敵からの勝負の持ちかけで始まった賭けのゲームが上乗せされたので、今までの攻略スピードを上回る早さでダンジョン攻略に勤しんでいくのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねぇ、無敵……
「
「そんな威力なの? ヤバくね?」
「閉店時間を過ぎても起きないようなら、叩き起こせばいい」
「猿ぅぅぅぅ!」
「千喜良、騒ぐのはルール違反だ」
「
「うっ……グサよりヤダ……」
その日、結局のところ
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