第484話 働く集団心理(勇者サイド)
※ この話から
答えが先に知りたい方は1番最後に解答を書き加えますので、一気にそこまで進めて答えを見てください。ちなみに今回は1人のみです。簡単なのでそのまま読み進めても差し支えありません。
その後はそのままでも読めそうな簡単な氏名に関しては、ルビ振りをせずにいきたいと思います。作者の手抜きです。ごめんなさい。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
生徒たちが固唾を飲んで見守る緊張の中で、教育実習生は【ガチャ】をガチャガチャと回すためのつまみに手を添える。
――ガチャガチャ……ガチャ……ガコン……コロコロ……
静寂に包まれた空間の中で何かが転がって出てくる音が響き渡ると、【ガチャ】の取り出し口に出てきたのは黒色のカプセルだった。
「え……黒……? 虹とかじゃなくて?」
厚かましくも教育実習生は物欲センサーがなくなったことにより、最高レアリティを引くつもりでいたらしいが、その気落ちした感情はソフィーリアの言葉によって掻き消される。
「凄いですよ、それはシークレットです! 早速引いてしまうなんて、貴女は豪運のようです。さぁ、カプセルを開けて中の紙を取り出してから、そこに書いてある文字を見てください」
「出たんだ……シークレット……」
密かに狙っていた本命のシークレットが出たことによって、教育実習生は戸惑いを隠せないでいる。
だが、まだレアリティがわからないので過度な期待はせずに、しかしながらシークレットを引いた自分の運に期待しながら震える手でカプセルを開けると、中には2つ折りにされた白い紙が1枚入っていた。
そして、この紙にシークレットの職業が書かれているかと思うと、その職業とレアリティに対して期待で胸を膨らませながら、震えの止まらない手でその紙を取り出してはそっと開く。
「せ……精霊使い……?」
紙に記載されている文字を見た教育実習生はシークレットである以上、レアリティもわからなければ、どれほど強いのかもかもわからない。そのように困惑する教育実習生を見たソフィーリアがレアリティを教える。
「おめでとうございます。URの【精霊使い】です。異世界で精霊たちと仲良く過ごしてください。トップバッターがいきなりシークレットURを引き当てるとは幸先がいいですね」
「これは生徒たちを守れるくらいの強い職業なのですか?」
「はい。考えてもみてください。貴女自身が直接戦闘をせずに精霊たちが代わりに戦闘をするのですよ? 他力本願街道まっしぐらです。ただし、精霊たちから気に入られないといけないというデメリットはありますけど」
「強いのにデメリットがあるんですね」
「無条件に強い力というのは振るえないものです。日本でもそうでしょう? 権力、財力、武力……それらの強き力を振るうためにはそこへ至るための努力と才能、そして努力するために消費する時間、更に時間を消費したことによりできなかったことなど、それ相応の支払う対価というものがあるはずですよ?」
「確かに……」
「では、どんどん他の方も【ガチャ】を回してください」
ソフィーリアが先を促すと様子を見ていた生徒たちは、お互いに顔を見合わせながら『先に行けよ』と言わんばかりに表情で訴えかけていた。中には顎をクイッとして、あからさまに促している者までいる。
だが、こういう時においてさっさと自分の職業を引いておきたいオタク組は、行きたい気持ちもあるが人生経験上の観点から、出しゃばって何かを言われてしまう確率の方が高いと、ウズウズしながらも集団の片隅の方で様子を窺っていた。
それを見兼ねた教育実習生がその場を仕切り始めると、出席番号順に【ガチャ】を回すように指示を出していくが、この中で1人、クラスの一員でない者が声を出してつかつかと歩いていく。
「私が引こうではないか」
その者は何を隠そう一緒にいることを忘れられていた、次期女子生徒会長その人だ。
「このようなことを体験するのは初めてだが、URというものを引けば良いのだろう?」
「あら、貴女は知識のない人でしたね。確かに1番良いものはURです。引けるかどうかは運次第ですけど……」
「なに、今日はミートソーススパゲティを食べ損ねたんだ。悪い運は既に消費したから、残る運は良いものしかないだろう」
いったい何を根拠にそう判断したのか、次期女子生徒会長は自信満々に胸を張って答えていた。そして、【ガチャ】の前に立つと彼方此方と観察をしながら口を開く。
「これの中身は見てはいけないのか? URが入っているのかわからないのだが……」
「別にそういうわけではありませんよ。何が出るかわからないからこその、楽しみ方というものがあるでしょう?」
「うーむ、初めてするから見てみたかったのだが、そう言われてしまうと引かざるを得ないのか?」
「別に見ても構いませんよ」
そう答えるソフィーリアが指をパチンと鳴らすと、不透過だった【ガチャ】の筐体が透けていき、中身のカプセルが見えるようになっていく。
「おお、この1番派手な虹色の物がURなのか!?」
「そうです。それを引くことができれば最上級の職業に就けます」
「楽しくなってきた。それでは引かせてもらうとしよう」
「出るといいですね」
そして次期女子生徒会長は、意気揚々と【ガチャ】のつまみを握りしめる。
――ガチャガチャ、ガチャガチャ……ガチャ……ガコン……コロコロ……
他の者たちが固唾を飲んで見守る中、次期女子生徒会長が出てきたカプセルを掴み、出てきた色を見てへこんでしまう。
「虹色のカプセルじゃない……」
そう……次期女子生徒会長が引いたのは虹色ではなく、黒色のシークレットだった。本人としては虹色のカプセルを引きたかったため、シークレットを引いたというのに感動が薄い。
哀愁漂う背中を見せながらカプセルを開けて中身を取り出すと、そこに書いてある文字の意味がわからなくてソフィーリアへと見せる。
「虹色のカプセルではありませんが、その職種のレアリティはURですよ」
「そ、そうなのか? ……有言実行できるとは、恥をかかなくて済んだようだ」
「貴女は運がいいようです」
「ミートソーススパゲティを食べられなかったからな」
いったいどれだけ食べたかったと言うのだろうか、未だにミートソーススパゲティに固執している様は、最早執念としか言いようがない。
「この【武聖】というものは何だろうか?」
そう言う次期女子生徒会長の言葉を聞いた他の者たちも興味があったのか、ソフィーリアへと視線を向けた。
「それは簡単に言ってしまえば、武の頂点と言ったところです。【剣士】の頂点は【剣聖】、【拳士】の頂点は【拳聖】……それら全ての頂点が武聖となりますので、あらゆる武器・格闘を使いこなすスペシャリストとなります。貴女にわかりやすく言えば、多芸に通ずると言ったところです」
「ほう……それは武の心得がなくとも使いこなすことが可能なのか?」
「最初に言った通り基本スキルがデフォルトで備わりますから、例えば剣を持った時点で何となくその使い方がわかり、それによって素人とは違い、剣術の体捌きが自然とできるようになります」
「至れり尽くせりだ。これはもう私が最強なのではないか?」
「そういうことはありません。【武聖】は武に特化した職業ですので、魔法は一切扱うことができません。魔導具を使用する程度なら可能ですけど……」
「なんと……いささかピーキーな職種ということか……」
「魔法が扱えず武闘のみという点では限定的な強さになりますので、ピーキーと言うのも間違いではございませんが、それを補って余りある強さを持つことができるでしょう」
「努力次第というものだな」
「はい。才能だけでは強くなれませんので、たとえ【武聖】であっても何もしなければ、努力を続ける剣士にも劣ります」
「助言感謝する」
そこからは教育実習生の指示通り出席番号順に【ガチャ】を回していき、喜ぶ者や落胆する者、良いのか悪いのか判断がつかぬ者と反応は様々であった。
「狙っていた職業を取得できた者や、できなかった者がいるようですね。引き直しをするのであれば今のうちです。向こうへ送り出したらもう変更はききませんので」
ソフィーリアのその言葉を聞いた生徒たちは、引き直しする考えが頭をよぎってしまうが、寿命と引き換えというのが思い浮かび二の足を踏んでいると、声を挙げる生徒がいた。
「引き直しさせろ。やるのは11連ガチャだ」
その声を聞いた生徒たちは我が耳を疑う。聞き間違いでなければ、『11連ガチャ』とその生徒は言ったのだ。つまり対価はオマケの1回分を除く寿命10年分。明らかに正気の沙汰とは思えなかった。
「無敵君! 何を言っているのですか!? 寿命を10年分捨てるのですよ?!」
「教育実習生ごときが口を挟むな。よぼよぼのジジイになっても生きていくなんざ、まっぴらごめんだ。しかもアレだろ? 最近は認知症というのがあるらしいじゃないか。自分が誰かもわかないくらいになる可能性があるなら、その前に死んだ方がマシって話だ」
「絶対にそうなるとは限りません!」
「その保証がどこにある? もしそうなったらあんたはどう責任を取る? 俺がよぼよぼのジジイってことは、あんたはその上を行くババアだぞ? 人1人の人生の責任をあんたは取れるのか?」
「それは……」
「理解したなら黙ってろ。俺の人生は俺が決める。他人のあんたが口を挟む余地はない」
「ヒュ~力也の無敵感がぱねぇ!」
「認知症って何だ?」
「あたしに聞くなよ」
「ボケるってことよ」
「そりゃなりたくないわな」
「私も引こうかな……」
そして無敵はまさかの寿命10年分支払いで、11連ガチャを回してしまった。
次々と並ぶ色とりどりのカプセル。シークレットから下は銅色まで。各種レアリティを全て出し、その中から黒、虹、金のカプセルを開けていく。
「……ほう……これはいいものを引き当てたな……」
「力也ぁ、何を取ったんだ?」
いつもつるんでいるグループの男子がそう問いかけると、無敵は思いもよらない返答をした。
「大魔王だ」
無敵の告げた言葉によって一同は沈黙し、この場が静寂に包まれてしまうが、仲間の1人がすぐに騒ぎ始める。
「マジかよ!? 力也マジぱねぇ!」
「それって凄いのか?」
「だからあたしに聞くなよ」
「悪のトップだよ」
「つまり、食み出し者らしいものを引いたのか」
「よし、やっぱり私も引こう」
「俺も引くぜ!」
そのグループの女子が同じように引きなおす意志を見せると、立ちどころに伝播してグループ全員が引きなおすことに決めた。
「んじゃあ、俺から行くぜ! 力也が大魔王なのに俺がただの神官じゃ、つるめねぇしな。ここは敵キャラっぽく悪魔神官とか出ねぇかな」
そんなことを呟きながら【ガチャ】を意気揚々と回していく男子は、既に寿命を消費することなど些細なことでしかないと思っていた。そして、そのグループは次々と【ガチャ】を回していくのだった。
「……よっしゃー! 悪魔じゃないけど【暗黒神官】ゲットだぜ!」
「俺は【暗黒騎士】だな。これは強いのか?」
「だからあたしに聞くなって……あっ、【陰陽師】が出た。これなら知ってる、安倍なんちゃらのやつでしょ!」
「安倍晴明よ。私は……【ネクロマンサー】ね。何だか女なのに【根暗マン】って言われそうじゃない? 【ネクロガールサー】ってないの?」
「ハハハハハッ! お前、根暗目指してんのかよ! それだと【根暗ガールさ】って言ってるようなもんじゃねぇか!」
「あんたねぇ……」
「最後は私ぃ~……何が出るかな……何が出るかな? あっ、【アサシン】だ~忍び寄って後ろからグサリだねー」
揃いも揃ってシークレットを引き当てていくそのグループを見ていた他の生徒たちは、自分の手に入れた職業を見なおすとレアリティの低い者は、引きなおしの思考が頭をよぎる。
そして、生徒たちが迷っているところでソフィーリアの声が響き渡った。
「それでは、もう引きなおす人はいませんか?」
「あいつら、引きなおさないんだな。もう2度と変えることができないってのに」
「11連の方がシークレット出たのに馬鹿だよな」
「シークレットを引く最後のチャンスなのにねー」
引きなおしをしたグループの面々がそのような会話をしていると、『シークレット』と『最後の機会』という言葉が効いたのか、ロストゲイン効果によってレアリティの低い生徒、欲しかったものと違う職業を引いた生徒たちが、【ガチャ】の引きなおしをソフィーリアへ告げていく。
そして1人、また1人と引きなおしをしてしまうと、本当にレアリティの高い職業を引いてみせて、バンドワゴン効果による集団心理が働いてしまったのか、生徒たちは勝ち馬に乗るために教育実習生の制止も聞かず、引きなおしをするのだった。
やがて、引きなおしをしたかった生徒たちが全員引きなおすと、ソフィーリアは他に引きなおしたい人がいないかを確認したら最後の説明に入る。
「これから貴女たちは異世界へと転移します。転移先の場所は勇者召喚を行った神聖セレスティア皇国という宗教国家です」
ソフィーリアの伝えた如何にもな国の名前を聞いた知識のある者たちは、ザワザワと色めき出す。
「ここでは何もできませんが、その国に転移したあとはテンプレでお馴染みの『ステータス』と思い浮かべれば、自分のステータスを見ることができます。仮に他人へ見せたい場合は、『ステータス オープン』と思い浮かべればいいだけです」
そこで一区切りつけたソフィーリアへ生徒の1人が手を挙げる。
「お話の途中ですみません、このカプセルは記念に持っていけますか?」
「欲しいのですか?」
「はい」
「……まぁ、別にいいでしょう。それは皆さんに差し上げます。いらない方はここへ置いていってください。勝手に消滅しますのでエコです」
ソフィーリアへ質問をした生徒はそこまでして欲しかったのか、カプセルをポケットに仕舞い込むと満足した顔を浮かべていた。
その後、ある程度の説明が終わったソフィーリアは、生徒たちへ別れを告げると神聖セレスティア皇国へと送り出すのであった。
「ふぅ……プレゼントも付けたし健がまた喜ぶイベントが発生ね。野心の強い生徒もいたようだから楽しくなりそうだわ。ふふっ、プレゼントの中身で健のビックリする顔が見られるわね」
そのようなことを独り言ちるソフィーリアの元へ、別の空間からテオが転移してやって来た。
「お母さん、お仕事は終わったのですか?」
「終わったわよ。テオはどう?」
「お父さんの畑に水やりをしました」
「そう、偉いわね」
「モニターで見ていましたが、あの者たちはお父さんの故郷の者たちですか?」
「そうよ。世界が違うから時間軸はズレているけど、転生する前のお父さんが生まれた地球って星の日本って所から来たのよ」
「へぇーいつか行ってみたいです」
「そうねぇ……いつかはお父さんと家族旅行をしたいわね」
「その日が来るのが楽しみです!」
「それじゃあ、その日が来ることを願いながら、お仕事の続きをしましょうか?」
「はい!」
こうして、日本から召喚された生徒たちを送り出したソフィーリアは、息子のテオとともに残りの仕事をするため、いつもの仕事場へと転移するのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
無敵 力也 (むてき りきや)
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