第435話 模擬戦の結末
ケビン対メイド隊の試合が終わったところで、生徒たちは思い思いに感想を述べていた。
「あの人……ケビン先生の恋人かな?」
「抱きついてるね」
「ケビン先生も嫌がってないし……」
「むしろ自然……?」
だが女子生徒は戦闘の内容よりも、ケビンに抱きついているプリシラとの関係が気になるようである。
「地面がボコボコだぞ……鉄球の人なんてパワーだよ……」
「ってゆーか、あの消える人凄くねぇか? 攻撃の時だけ姿が見えてたぞ!」
「あの2刀流の人も凄いだろ。連撃の音が鳴り響いてたし……」
「それよりもあの弓だろ。連射してたんだぜ!」
一方で男子生徒は戦闘の内容を討論していたが、見せ場のなかった1人については誰も語ってはいなかった。
そのような時にメイド隊との模擬戦が終わったケビンは地面を元通りに戻すと、次なるお相手である嫁たちへ声をかける。
「次はどのパーティーでくるの?」
「私たちよ」
前へ進み出したのはティナとニーナ、アリスとクララである。
「お、クララを選ぶとは珍しいね。てっきりクリスかシーラを入れると思ってたけど」
「あまり偏らせると残りのパーティーのバランスが悪くなっちゃうでしょ? それにクララとクズミが一緒になると片方の勝ち目がなくなるのよ」
「あぁぁ……確かに戦力バランスが極端に崩れるな」
「それじゃあケビン君、始めるわよ」
「いつでもどうぞ」
ケビンとティナたちが一旦距離を空けると、戦いの火蓋はケビンの予想通りでステータスの高いクララが切った。
殴りかかるクララに対してケビンが初手を躱すと、クララの拳が地面へと突き刺さりもの凄い轟音とともに地面が割れる。
「ちょお前っ、手加減くらいしろよ! 地形を変える気か!?」
「主殿が受けてくれると思うたから殴ったというに……避けてはそうなるであろう」
地面にクレーターを作るではなく地面を割るという行為のクララに、生徒たちは口をポカンと開けては呆然としていた。
「なぁ……アレって素手だよな……?」
「地面って割れるんだな……」
一方でケビンはこれ以上地面を割られては修復が面倒なのでクララの攻撃を受けては流してとしていたら、結局のところ地面へと流しているので地面は割れないにしろララの時よりも酷いクレーターが量産されていく。
「ケビン先生って何者だ?」
「何でアレを受けれてるんだ?」
「あれは地面へと力を流しているからよ。だから地面が壊れていくの」
生徒たちの疑問へジャンヌが答えると、みんなしてケビンの技術力に感嘆としていた。
そのような格闘戦を繰り広げている中で、アリスは2人が戦うところへ混ざるほど強くはないのでニーナとともに魔法で攻撃をする。
そしてケビンとクララが戦っているところへ容赦なく魔法を打ち込むと、それに合わせてティナも魔力矢を連射していく。
「クララ、仲間から狙われてるぞ」
「あの者たちの攻撃ではそこまで深刻なダメージはない。あるとしたら着物が破ける程度だの」
「それはダメだろ。クララの肌を晒すわけにはいかない」
「では主殿が守ってくれたら良いであろう?」
「何で対戦相手を守らないといけないんだよ」
ケビンがぐちぐちと言いながらもクララの服へ被害を出さないために場所移動を行うと魔法を回避して、再びクララと格闘戦を繰り広げる。そこへ再び降り注ぐ魔法と魔力矢で現場は混沌と化していた。
さすがにこれ以上は面倒くさいと思ったケビンは後衛として動いている3人をリタイヤさせるべく動いたが、すんでのところでしっぺ返しを食らってしまう。
「にぃに……ヤダよぉ……」
「ぐはっ!」
近接もこなせるアリスを先に仕留めようと動いたケビンであったが、アリスによる伝家の宝刀にて一刀両断にされてしまった。
「捕まえたぞ、主殿」
そして怯んだケビンの隙をクララが見逃すはずもなく、ものの見事に抱きつかれてしまうのであった。
「あぁぁっ! クララ、ズルい!」
「抜け駆け」
「ほほ、ボケっとしておるのが悪いのだ」
こうしてまたもや負けてしまったケビンは、原因であるアリスに対して怒るに怒れずモヤモヤとした気分になってしまう。
そして迎えた最終試合。プリシラのような芸達者もいなければアリスのような兄殺しもいない。ケビンはようやく勝ちを拾いに行けると確信していた。
その対戦相手は前衛のターニャとクリス、後衛のシーラとクズミで、ターニャはまだ技術的にもステータス的にも他の嫁たちまで追いついておらず、ケビンの目下の狙いは秀才であるクリスと後衛であるクズミの脱落である。
早速始まった試合では、ケビンの予想通りにターニャとクリスが間合いを適度に詰めてきて攻撃を繰り出してくる。
「せめて一太刀だけでも当ててみせますわ!」
「楽しいねー」
ケビンは2人の攻撃を捌きつつ後衛の動きに注意するが、あまり意識を向け過ぎてもクリスからの突拍子もない攻撃に対処できなくなるので、本人が意気込んでいるところに悪いとも思いながらターニャをさっさと脱落させるため間合いを詰めた。
「させないよー」
しかし、それを読んでいたクリスが絶妙なサポートを行い、ターニャの脱落が阻止される。
「恩に着ますわ、クリス」
そして仕切り直しとなった戦闘にシーラの氷矢が飛来するとケビンはそれを打ち払い続けるが、頭上に注意がいっていたため足元の小狐に気づかなかった。
「コン」
「――ッ!」
口を開けた小狐から炎が放出されてケビンを呑み込むが、やがてそれが終わるとその場にケビンはいなかった。
「はい、ターニャはこれで終わり」
いつの間にかターニャの背後にいたケビンが【X】印をターニャへつけたら、そのままシーラへ間合いを詰めて続けざまに印をつける。
「シーラもアウト」
「やられましたわ……」
「お姉ちゃんらしさが見せられなかった……」
そしてケビンは厄介なクズミへ間合いを詰めると、近接戦があまり得意ではないクズミは諦めたかのような表情になり無抵抗で印をつけられる。
「……」
「クズミも終わりで残るはクリスだな」
「取られる前に抱きつけるかなー」
そこからはケビンとクリスの剣戟がしばらく続いて、クリスは魔法を織りまぜながらケビンを追い詰めようとするが、ケビンは後顧の憂いがなくなったため安定して捌いていく。
やがて満足がいったのかクリスが降参すると、ケビンはようやく勝ちを手にして喜ぶのだった。
「全敗にならなくて良かったー」
「コン」
「ん? お前も祝ってくれてるのか?」
先程の小狐がケビンの肩に乗って頬ずりをすると、ケビンは頭を撫でて勝利を噛み締める。
「いやー楽しかったなー」
「あかんえ、ケビンはん」
「?」
クズミの声が聞こえたのでケビンがそちらに向くとそこにクズミはおらず、先程脱落させた場所から動いていなかったのでケビンは意味がわからなくなる。
「幻聴?」
先程まで肩にいた小狐が地面へおりて姿を変えると、その姿はクズミとなって真正面からケビンへ抱きつくのだった。
「愛してるえ……ちゅ……」
クズミから口づけされるケビンはいったい何がどうなっているのか全くわからず、キスされながらも目はパチパチと瞬きをしていた。
「あぁーあ、やっぱり取られたかぁ……」
「え……どういうこと? 俺の勝ちだろ」
「ケビン君の負けだよ」
先程まで戦っていたクリスに“負け”と言われてしまい、ケビンは納得がいかず抱きついているクズミをそのままにクリスへ質問した。
「多分ねぇ、あそこのクズミって偽物だよ」
「えっ……」
「あっちがいつもの狐ちゃんじゃないかなぁ? 戦闘が始まってから1歩も動かないし、何も喋らないから多分そうじゃないかなぁって予想だけど」
「クズミ?」
ケビンから呼ばれたクズミは体を離して佇まいを正すと、ケビンの疑問に答えるのである。
「クリスの言うことは正解ですよ。試合が始まってからちょこちょこ動いていた小狐が私で、あっちにいるのがいつもの小狐です」
クズミがケビンへそう伝えたら、クズミの姿をしたもう1人のクズミはそのまま消え去ってしまう。
「あっ!」
「ケビン様、おわかりいただけましたか? 使役狐に【X】印をつけても意味がありませんよ。私本体ではないのですから」
「…………やられた……」
ケビンはまさに狐に化かされた形となり、先程までの勝利の美酒に酔いしれていた感情はなくなりガックリと肩を落とす。
「ふふっ、これで勝利者はプリシラにクララと私ですね」
「いや、パーティーだからみんなの勝ちだろ」
「いいえ、この試合には景品があるのですよ」
「景品?」
「ええ、ソフィーリア様が用意してくださいました」
「へぇーソフィも中々乙なことするんだな」
「はい。だから私たちは本気でケビン様へ挑んでいたのですよ」
「ちなみに私たちの勝利条件はケビン君へ1発当てるか、抱きつくことだよ」
「それで3人とも抱きついてきたのか……」
「ケビン君に1発当てるとか難しいからね、油断したところを抱きつく方が不意の行動で成功率が高いんだよ。でもライラは惜しかったね。1発当てられそうだったのに」
「ライラはヤバかったなぁ……あれでライラを先に脱落させようと思ったし」
そのようなところへ観戦していた他の嫁たちもケビンへ近づいてくると、ティナが労いの言葉をかける。
「お疲れーケビン君」
「ああ、みんなもお疲れ。ソフィが景品を用意しているんだろ?」
「うん」
「でも、後衛組とか不利なゲームじゃないか?」
「大丈夫だよ。参加賞があるから結局はみんな何かしらのご褒美はもらえるの」
「そうなんだ。景品って何?」
「ケビン君」
「……は?」
「ケビン君」
「いやいや、大事なことだから2度言いました的なことはいいから」
「勝利者にはケビン君独占権で、参加者にはケビン君とのデート券が1枚もらえるの」
「……マジ?」
「マジ」
「ソフィが?」
「ソフィさんが」
「はぁぁ……だからメイド隊の字面がおかしかったのか……」
「ケビン君がデートとかしてくれないからだよ。クエストを一緒に受けるだけでも私たちは嬉しいのに」
「それはごめん。ダメダメな亭主だな……」
「そんなことないよ。だけど、戦闘のできない人もいるからみんなにデートしてあげてね」
「それは必ずする」
こうしてソフィーリアが裏で企画していた【ケビン争奪戦 勝利を手にするのはいったい誰だ! ~参加賞もあるよ~】が終わり、嫁たちは急用もないことからこのまま残って臨時引率者の仲間入りを果たすのである。
「それじゃあ、模擬戦は終わりだ。このあとは【ウロボロス】の皆さんが君たちの鍛練に付き合ってくれるそうだから、きっちり学んで自分の力にするように。こんな機会は滅多にないからな、わからないことはちゃんと質問をして心残りのないようにしてくれ」
それから生徒たちは思い思いに鍛練へ励むかと思いきや、女子生徒たちが早速わからないことを質問をしてケビンは頭を抱えてしまう。
「ケビン先生の恋人は誰なんですか?!」
「3人の女性から抱きつかれていましたよね?!」
「最後の1人とはキスしましたよね? 本命ですか?!」
女子生徒たちからの質問にどうしたものかとケビンが悩んでいたら、機転を利かせてクリスがそれに答えた。
「ここにいるみんなケビン君の恋人だよ。ケビン君ってカッコイイし強いからモテモテで、他にもケビン君のことを好きな人が沢山いるよ」
「「「「「キャー!」」」」」
「大人よ、大人!」
「他にもいるんだって!」
「これがAランク冒険者の甲斐性なのね!」
「そういえば朝になるとジャンヌ先生たちって、ケビン先生の家から出てきてたよね?」
「つまりそういうこと? そういうことなの!?」
「夜から朝まで一緒なの!?」
クリスの言葉によってお年頃の女子生徒たちの話は膨らんでいき、ケビンはクリスへ苦言を呈するが逆にケビンが追い詰められる結果となる。
「こういうことは下手に隠すよりもある程度公開した方が、変に詮索されずに済むんだよ」
「それよりもケビン君……ジャンヌたちに手を出したの?」
「いや……まぁ……うん……」
「もう……エッチがしたければ帰ってくれば良かったのに」
「いや、不慮の事故?みたいなもので」
「ケビン君って事故が多いわね」
「流されエロ魔神」
「ケビン……お姉ちゃん心配よ」
「ケビン様はちゃんと責任を果たしますから」
「でもケビン君ってセフレがいるよね? イグドラに」
「主殿は盛んだの」
「ケビンはん、溜まるんやったらうちの体を好きにつこうてもええんよ?」
「ケビン君、まだ私の部下には手を出してないよね? よね!?」
「みんなが俺に抱く印象っていったい……」
ケビンのボヤきに対して「絶倫皇帝?」とティナが言えば「性欲魔神?」とニーナが続いて、「いや、絶倫性帝?」とティナが言い直したら「それなら性欲性神?」とニーナも言い直した。
「おい……」
更に「嫁生産工場?」とクリスが言えば、「おなごホイホイだの」とクララが付け足して「種族無視の女性キラー」とクズミが追い討ちしてしまう。
段々と落ち込んでいくケビンに対してアリスが「愛の伝道師」とアリスらしいことを言って、「自慢の弟」とシーラがいつもと変わらず言えばターニャが「それでも好きな人」と締めくくる。
最後はフォローを入れてもらったものの下手に否定できない部分があり落ち込むケビンをプリシラが抱きしめると、いつの間にか用意していたテーブルセットに座らせてお茶を振る舞うのだった。
ケビンがお茶を飲んでいるとクリスが仕切って鍛練講習会と題して、騒いでいた生徒たち(女子生徒限定)を落ち着かせる。
それから生徒たちの得意武器、魔法、配置などでグループ分けをしたら、それぞれの分野で得意とする嫁たちをバラけさせて指導に当たらせるのだった。
だが、人の枠から外れているクララとクズミは教えようがないので、ケビンとともにお茶を楽しむ結果となり、メイド隊のプリシラが給仕に当たる。
「くっ……プリシラ、お前ばかりズルいぞ!」
「ケビン様へ一太刀入れて服を切ったライラが言うのならまだしも、貴女は気づけば負けていた唯の敗者でしょう? しかも1番最初に。生徒たちへの印象も薄くて噂にすらされないのだから精進しなさい」
「ケビン様ぁぁっ!」
プリシラからグサグサと突き刺されてしまい、ケビンへ抱きついて泣きつくニコルの頭をポンポンとしたケビンがニコルを慰めると、機嫌を良くしたニコルがドヤ顔でプリシラへ「ふふんっ」とやり返して講習会へ向かう。
「ニコルめ……」
その後は生徒たちへの指導をする嫁たちを眺めながら、ケビンは3日目の実習を終えるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ところ変わって帝城の憩いの広場では。
「良かったわね。貴女たちにもデートをしてくれるそうよ」
「よろしいのでしょうか? 私たちも含めるとなるとかなりの人数になりますが」
そこにはモニターでケビンの様子を眺めているソフィーリアや子供たち、それと手の空いている嫁たちがくつろいでいた。
「多分、分体を出すんじゃないかしら。あれなら何人いようと関係がないから。まぁ、大人数のケビンが城下でデートをしていたら、そこにいる住民たちがビックリしそうだけど」
「ご主人様は途方もないですね」
「パパすごーい!」
「でも負けたー!」
「パパよわい?」
子供たちは景品の話よりも父親の戦っていた姿の方が重要であり大興奮しながらはしゃいでいたが、そのような子供たちの感想にソフィーリアが答える。
「パパは本気じゃなかったのよ」
「ほんきじゃない?」
「ママたちを傷つけないように戦っていたから、直接的な攻撃は避けていたのよ。だから【X】って印をつけていたの。本気を出したらママたちを殺してしまうから。あなたたちもママがいなくなるのは嫌でしょう?」
「いやー!」
「パパとママいっしょー!」
「それじゃあパパが帰ってきたらカッコよかったって言うのよ? ママたちに負けて落ち込んでいるから」
「パパカッコよかったー」
「でもまほう見られなかったー」
「まほうなくてもつよーい」
こうして憩いの広場ではケビンのフォローをソフィーリアが子供たちへ説いて、子供たちからケビンの弱者疑惑が晴れるのであった。
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