第432話 野営地探し

 外が朝日によって明るくなり始めた頃、ケビンはずっと抱き続けていたジャンヌたちへ回復魔法をかけて復活させると、みんなで浴室へ向かうのだった。


 浴室から見える空はまだ薄暗く完全に朝日が昇っていないことを暗に指し示していたら、ケビンは甘えてきたシャルロットに欲情して浴室でも全員とハッスルしてしまう。


 そして完全に明るくなってきたところでお開きとなり、ケビンによって回復させられたジャンヌたちは体力的には問題なくても気持ち的にはヘトヘトだったが、愛する人にずっと体を求められる感覚には幸福感を得て幸せな顔を浮かべていた。


 それから朝食を摂ったケビンたちが外へ出ると野営の後片付けを朝食が終わっていた生徒たちへ指示出しして、ケビンは薪を放置することなく【無限収納】の中へと回収したら薪置き場を解体するのだった。


 ケビンが後片付けを終えた生徒たちを集合させると、ケビンの読み通りでどこか疲れているような表情を浮かべているが、それとは別の理由もありネーボを起こす時の気疲れも含まれているようだ。


 さすがにケビンたち引率者がいる学外での実習において学園の時みたいに知らんぷりすることはできずに、女子生徒たちが協力して一生懸命になって中々起きないネーボを起こしていたみたいである。


「お前は大物になれるな」


 1人だけ元気ハツラツとした表情を浮かべているネーボは、初の野営であっても遠慮なくぐっすりと眠れたようで、ケビンに対して元気よく返事をする。


「はい! 将来は有名な冒険者になります!」


 物怖じすることなくそう答えるネーボに対して、生徒たちはその度胸だけは高評価に値すると一様に思うのだった。


 そして今日の実習はまず野営地を選定する訓練であることを生徒たちに伝えて、それを自分たちで見つ出しては話し合いで決めて問題なければ野営地としてそこでひと晩過ごすというものだ。


「今日はここから離れて別の場所へ行くからな。忘れ物のないようにしておくんだぞ」


「ケビン先生!」


「何だ?」


 元気よく手を挙げた生徒がケビンへ質問する。


「野営は昨日と違い、各パーティーごとで分かれるのでしょうか?」


「そうしてやりたいのは山々だが、昨日の初野営で精神的に疲れてるだろ? みんなでやってそれだけ疲れるんだ。パーティーごとでやると5人だけで回すんだぞ。1人で見張りにつくプレッシャーに耐えられそうか?」


「い、いえ……」


「別に焦らなくていいからな。今回の実習でパーティー単位の野営ができなくても評価を下げるつもりはない。あくまでも今回は野営とはこういうものなんだなっていう感覚を身につけてくれればいい。他のみんなもそのつもりでいてくれ」


「「「「「はい!」」」」」


 生徒たちが元気よく返事をしたところで最終的に忘れ物がないか点検をさせると、荷物は全部持っているようだったので野営地を探す行軍を開始した。


 この行軍でケビンが指示したのは、野営地を森の外ではなく森の中で探し出すということだ。森の外ならば探すこともなく適切な野営地が広がっているため、それでは訓練にならないとケビンが決めたからだ。


 森の中へと入っていく生徒たちは自然とパーティーごとに分かれており、それぞれのパーティーには引率者が近くを歩いていたので自然とパーティーごとでバラけて探索が始まる。


 ケビンもお馴染みとなったパーティーを見守る立ち位置で傍を歩いており、時折生徒からされる質問に答えていた。


「ケビン先生、荷物を持っている状態で魔物に出会ったらどうすればいいんですか?」


「荷物を素早く置いて戦闘する。もしくはそうならないように索敵しつつ、時間稼ぎ係として1人をすぐ動けるように手ぶらにさせたら、その係の荷物を残りの者が分担して持つ」


 ケビンの答えた内容を聞いた生徒たちはすぐに話し合いを始めて、前衛の1人を手ぶらにさせるとその生徒の荷物を他の者たちで代わりに持ち始めた。


 その中でも索敵を担当する生徒は余計な疲れを溜めさせないために分担する荷物を持たせず、生徒自身の荷物も他の者たちで少しだけ肩代わりすると探索を再開する。


 ちょっとしたアドバイスですぐさま行動に移した生徒たちを見て、柔軟に対応するその姿勢はケビンからしてみればとても好感触であった。


 そのような時に少し拓けた部分を見つけた生徒たちは、ここが野営地に適しているかどうかの話し合いを始める。


「うーん……どう思う?」

「近くに水辺がないからダメじゃねぇか?」

「水なら魔法で何とかなるわよ」

「あまり視界が広く持てないわね」

「みんなで使うとしたら結構ギリギリの広さじゃないかな」


 そして話し合いを続けていた生徒たちは、引率者のケビンへどう思うか問いかけた。


「私たちはダメだと思うんですけど、ケビン先生から見てどうですか?」


「結論から言うとダメだね。理由としては君たちの話し合いでも出ていた通りで狭すぎる。狭い空間での戦闘というのは思うように動けなかったりするからね」


「わかりました」


 結論が出た生徒たちはこの候補地を諦めて、また別の場所を探すために探索を再開した。


 ケビンは後ろからその生徒たちについて行きながらジャンヌたちへ渡してある通信魔導具で連絡を取ってみると、他のパーティーも似たようなもので中々良い候補地を見つけられずにいるみたいであった。


 まだ探索を始めて間もないので無理もないかと結論を出したケビンは、特に焦りもせずにのんびりと生徒たちの様子を観察していく。


 その後は良い候補地を見つけられないまま魔物との戦闘を行ったりしていたら、時間が頃合となったところでお昼ご飯となる。


 ケビンが生徒と輪になって食べるお昼ご飯は質素なものではなく普通の食事だったので、生徒たちからの視線が気になりふと「食べてみるか?」と問いかけたところ全力で首を縦に振っていたので、ケビンは一緒にいる生徒たちへお昼を振る舞った。


 それから休憩が終わると先程の食事でやる気が漲ったのか生徒たちはより一層探索に励むことになり、午後からの探索で新たな候補地を見つけ出すことに成功する。


「ここなんかいいんじゃねぇか?」

「広さも充分だな」

「崖があるけど崩れてきたりしないかしら?」

「そっちには近づかなければいいんじゃない?」

「これを背にしたら見張る範囲も狭められて良いと思うよ」


「ケビン先生!」


 もうお決まりとなったパターンで生徒たちが意見を交わして答えを出すと、最終判断はケビンの意見を取り入れる形となり今回もまたケビンへと問いかけていた。


「良い場所を見つけたね。ここなら見張る範囲が少なくて済むから見張り役の負担も減らせるはずだよ」


「「「「「やった!」」」」」


 ケビンから肯定の言葉が出てきたため生徒たちが喜んでいると、この場所を他の生徒たちにも薦めるかどうかの意思確認をしたら、ケビンはジャンヌたちへ連絡を取り空へ向かって2つの魔法を撃ち放つ。


 信号弾代わりに撃ち放たれた魔法のうちの1つが上空で爆発したらもう1つ撃ち出していた魔法は輝きを放って、それを目印にジャンヌたちがこの場所へ集合できるようにした。


「ケビン先生、あの魔法は何ですか?」


「あれは光属性の《ライト》だよ」


「それにしては明る過ぎるような……」


「魔力を込めて威力を調整しているからね」


 それからしばらくして他の生徒たちもジャンヌたちから引率されて集合したため、ケビンは生徒たちでこの場所を野営地に決めるかどうか話し合うように指示を出す。


「よくこんな場所を見つけたな」

「まぁな、俺たちにかかればざっとこんなもんよ」

「まぁ、楽勝だな」


「この崖って崩れてこないの?」

「ケビン先生が確認してくれたわ」

「壊そうとしない限り崩れることがないみたいだよ」


 ここを見つけた男子生徒たちは得意げな表情を浮かべては自慢気に受け答えしており、他の生徒たちに対して鼻高々となっている。変わって女子生徒たちは特に自慢する気でもなく普通に受け答えしていた。


 そして生徒たちの話し合いが佳境に入ると探し続けて時間を費やすよりも、ここを拠点として決めれば余り時間で実戦訓練に臨めるという意見が多数を占めた。


 一部男子生徒はここよりもいい野営地を見つけたそうに悔しがる姿が見受けられるが、確実に候補地を見つけられるという確証もなく女子生徒たちから反対されて泣く泣く諦めていた。


 最終的に生徒たちの意見が纏まったところでケビンへと報告をして実戦訓練をしても良いか確認を取ると、まだ野営をするには早い時間だったのでケビンも注意事項とともに許可を出すことにする。


「ここは昨日と違ってそれなりに森の深い所となっている。ということはだ、魔物もホーンラビットやゴブリンだけじゃないという可能性が出てくる。もし違う魔物に出会った場合は引率者の指示には絶対に従ってもらう。それが君たちのここで生き残れるか死ぬかの分かれ道となる。無鉄砲に突っ込んだら死ぬぞ? それを重々承知した上で訓練に臨んでくれ」


 ケビンの示達事項が終わると生徒たちは気を引き締めてから荷物を引率者に預けると、戦闘準備を整えて付近での実践訓練に向かう。


 ケビンも担当のパーティーとともに野営地を離れて、生徒たちの実戦訓練を見守っていた。


 そしてちょうどゴブリンを倒し終えた生徒たちが周りを警戒しつつ解体作業を進めていると、警戒していた生徒の1人が声を挙げる。


「何か来るわよ! 戦闘準備!」


 その声を聞いた生徒たちは解体作業を投げて戦闘準備に入ると、周りを警戒しながら魔物が近づく気配を探知するのに集中した。


 ガサガサと草むらが揺れる音がして生徒が警戒を強める声を挙げたら、そこから飛び出してきたのはコボルトだった。


「コボルト2匹、他はいないわ!」

「やれるか?!」

「ゴブリンよかスピードがあるぞ!」

「前衛でそれぞれ受け持って分断させましょう!」

「サポートは任せて!」


 生徒たちがやる気を出して戦おうとしていたのでケビンはゴブリンに毛の生えた程度の魔物であったこともあり、そのまま戦闘を続行させることにして見守ることに決める。


 そして後衛の魔法がコボルト2匹の間に撃ち込まれたら、コボルトは左右に回避して分断させることに成功する。


 前衛の2人はそれぞれのコボルトへ間合いを詰めると剣を振るうが、素早く避けられてしまうために中々当てることができない。


 そのような苦戦を強いられている前衛の1人へ後衛からのサポートが入り、怯んだコボルトへようやく1撃を与えることに成功するが、与えた傷が深くないためコボルトの勢いはなくならなかった。


 もう一方のコボルトは攻撃に勢いがついていて、担当している生徒は防戦一方となり明らかに苦戦しているが忍耐強く踏ん張り、攻撃を捌くことに集中していた。


「私に合わせて!」


 そこで前に出たのは斥候希望の女子生徒で、武器はナイフしか持ち合わせていないが持ち前の臨機応変さで、手頃な石をいくつも拾うとコボルトへ向かって投げ始めた。


 さすがにコボルトも投げつけられる石を無視するわけにもいかず攻撃の手が休まると、防戦一方だった生徒は一気に加勢に出て反撃に転じる。


 そこからはちょこちょこと女子生徒が投げる石をコボルトが避けては、避けた先で男子生徒に斬られて段々と無視のできない手傷を負わされていき売りであったスピードが落ちてしまうと、とうとう男子生徒の攻撃に捕まってしまい倒されるのであった。


 それから男子生徒はもう1匹のコボルトへ向かいメンバーの加勢をすると、そのコボルトも間を置かずして倒されることになる。


「お疲れさま。みんな良い動きができていたと思うよ。特にあの石を投げるのは良かった。魔法だと仲間に当ててしまうかもという意識と詠唱もあることから中々に撃つタイミングを図るのが難しいけど、石なら詠唱なくすぐに投げられるしコボルト程度なら有効な攻撃手段でもある」


「ありがとうございます」


「連戦で疲れただろ? 少し座って休憩するといいよ。警戒と解体は俺がしておく」


 ケビンは生徒たちへそう告げるとゴブリンやコボルトを【無限収納】の中へ回収すると、1体ずつ出して解体をサクサクと済ませていく。


 解体自体は【無限収納】の機能を使えば一気に終わってしまうのだが、【アイテムボックス】と伝えているためその機能を使うことはできないのだった。


 その手際の良さを女子生徒たちは見学していたが、動き回っていた前衛の男子生徒2人は寝転がって呼吸を整えていた。


「ちょっと男子! 私たちの代わりに解体してくれているケビン先生の前でそれは失礼よ」


「構わないさ。休める時に最大限休むのも冒険者として必要な技能だ」


「ありがとうございます、ケビン先生」

「もう少ししたら座れるくらいには回復しますので」


「ケビン先生の解体が早いのはスキルですか?」


 女子生徒の1人が不意に質問をすると慌てて他の女子生徒が窘めた。


「ちょ、ちょっと! スキルを詮索するのはマナー違反だって言われてるでしょ!」


「そのくらいなら構わないよ。ちなみに俺限定だから他の冒険者にはしないようにね」


「すみません……」


「別にいいさ、隠すようなことでもないし。解体が早いのは【解体】というスキルを持っているおかげだよ」


「やっぱりあるのとないのとでは違ってきますか?」


「覚えたてのレベル1なら大した違いは目に見えてわからないけど、レベルが上がっていくと全然違うね。効率よく解体ができて作業スピードも上がる」


「そのスキルを覚えるにはやっぱり回数を重ねる必要があるんですか?」


「そうだね。俺も最初は何も知らなくて先輩冒険者に解体の仕方を教えてもらったんだよ。そこからはずっと機会さえあれば解体をしていて、気づいた時にはスキルとして持っていたよ」


「私って力がなくて前衛に向かないし、かと言って魔法を使いこなすほど後衛向きでもないので支援職を目指しているんですけど、【解体】スキルは覚えていた方がいいですか?」


「支援職か……それなら覚えていた方がいいだろうね。他のパーティーは担当してないからわからないけど、このパーティーの女子は解体作業を嫌がることなくしているからそのうち覚えられると思うよ。偏見だけど『触りたくない』とか『血がつくのがヤダ』とか言って、解体作業をやりそうにないと思っていたからね」


「ちなみにそのように言っていたらどうされてました?」


「無理やりやらせる。別に嫌がらせとかじゃなくて何もしないうちから可能性を捨てるのはもったいないからね。やった上で器用、不器用があるから素材を傷めないためにも控えているとかなら納得できるけど」


 ケビンが女子生徒たちとそのような会話を続けていたら男子生徒たちが復活を果たしたようで、引き続き探索を再開して実戦訓練に励むのを見守るのであった。

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